第211話 太陽の相談と九十九の案

story teller ~四宮太陽~


「スッキリした顔しちゃってさ。憑き物は取れたみたいだね。これも月ちゃんのおかげかな?」


 お店に入ってきた九十九は俺の顔を見るなり、まるでお見通しだとでも言うようにそう声をかけてくる。


「それで?相談があるって真昼から聞いてるんだけどなに?」


 昨日のデート後、月を家に送った俺は、明日俺のバイト先に来るように九十九に伝えて欲しいと真昼ちゃんに連絡していた。

 九十九は俺が案内するよりも先にカウンターから近い席に勝手に座り、俺の返答を待っている。


「・・・廃墟ビルでの俺の話は聞いてるよね?」


 恐らく架流さんあたりから聞いているだろうが、話を切り出すためにあえて確認する。


「聞いてるよ。月ちゃんを殴ろうとしたんでしょ?」


 事務所にいる店長に聞こえると困ると思い、もう少し声を小さくしろと手で指示する。

 九十九は面倒くさそうにしながらもその指示にわかったと頷いてくれる。


「細かくは省くけど、月は俺が殴ろうとした事を許してくれて、俺にがある事も受け入れてくれた。堅治や善夜たちも俺のために色々してくれてるらしい。だから月の為にも、友だちの為にも変わりたいんだ」


「つまり?」


「どうしたら暴走せずにいられると思う?」


 要領を得ない聞き方なのは重々承知だ。それでも九十九は俺の言いたい事を汲み取ってくれたのか、顎に手を当て考え込むようなポーズを取る。


「そうなった原因はわかってるの?」


「不安とか恐怖とか、たぶんストレスとか、そういうマイナスな気持ちとか感情が溢れるとそうなるんだと思う。月や友だちに手を出されるとそうなってしまうから」


「それならそもそも月ちゃんたちに被害が出ないようにしたらいいんだよね?」


 彼はいい事を思いついたとばかりに手を叩き提案してくる。


「四宮が葛原の元に行けば解決じゃない?・・・すみません。半分は冗談です」


 真剣に耳を傾けていたが、彼は茶化してそう言ってくるので俺が睨みつけると、九十九はすぐに謝ってくる。ってか半分は本気なのかよ。


「でも被害が出ないようにするには葛原を叩くのが1番早いよね。まぁそれが出来れば君たちもこんなに苦労してないか」


「お前が葛原の居場所を教えてくれたら解決すると思うけど?」


「残念ながらほんとに知らないよ。と言うよりも葛原も俺とはもう会ってもくれないと思うよ。チャットもブロックされちゃってるし、電話も着信拒否だしね」


 たぶん九十九の言う通りだろう。

 乗り気ではなかったとは言え、葛原の計画を邪魔したのだ。恐らく葛原は九十九を敵と認識しているはずだ。


「それ以外でなにかいい案はないかな?自分を自制出来る方法とか知ってたら教えて欲しい」


「自分を自制するには気持ちってしか言えないけど、1ついい案があるよ?」


「いい案?」


「うん。四宮がキレたら危ないっていうのを逆手に取って、その噂を流せばいいんだよ」


 簡単にいうが、その噂を流す方法が俺にはわからない。

 そんな俺の疑問を読み取ったのか、九十九はそのまま続けて話す。


「丁度君の知り合いに、噂を流すのに都合いい人がいるし、その人たちにお願いすればいいと思うよ?」


 誰にお願いするんだ?と俺は更に疑問を顔に貼り付ける。

 九十九はそんな俺を見て、頭に思い浮かべた人物の名前を口に出す。


「稲牙と穴原だよ」


「獅子王くんと穴原?」


「そう。あの2人ならそういう人脈はある訳でしょ?だから2人に、四宮はキレるとやばいから手を出すなよって噂を流してもらう。実際に君のその一面を見ている彼らの言葉なら説得力もあるだろうし、彼らは入院までしちゃってるから、2人が君に負けたって噂自体、もうその界隈では広まってるはずだからね。そうすればいくら葛原がそっち方面の奴らを金で買収しようとしても、その数はだいぶ減ると思うんだよね」


「じゃあ、それでも葛原に買収された人たちはどう対処するんだよ」


 九十九の言う通りかもしれないが、それでも喧嘩自慢や、金に相当困っている人なら関わってくる可能性もある。

 そうなった時はまた俺が?と思ったが、九十九はそこも考えがあるようで、それならと続ける。


「その時は稲牙と穴原に対応してもらえばいいさ。あの2人強いんでしょ?だから問題ないんじゃないかな?」


「穴原は別にいいけど、獅子王くんはダメだ。友だちが傷つかない為の方法を探してるんだから」


「じゃあその時は穴原1人に対応してもらいなよ。君と稲牙の2人で脅せば言うこと聞くんじゃない?」


 穴原は別にいいとは言ったが、さすがにそこまでさせるのは気が引ける。

 だが、を除けば九十九の案は結構効果的かもしれない。


「その辺はおいおい考えるとして、一先ず試してみたら?」


 九十九にそう言われ、代替案の思い浮かばなかった俺は、次の休みにお見舞いがてら、獅子王くんと穴原に話してみようと思う。


「なんだかんだでちゃんと相談乗ってくれてありがとう」


「あははっ。まさか君にお礼を言われるとは思わなかったよ。まぁ妹がお世話になってるし、君のお願いをなんでも聞くって約束もしてたし」


「それでも、ここまでちゃんとしてくれると思わなかったから」


「君の周りの人に被害が及ばなくなるって事は、真昼と楓さんも安全になるって事だからね。俺としては君たちの事は正直どうでもいいんだよ。でも2人には何も起こらないで欲しいからね」


 もう話は終わったし帰るよと席を立った九十九に、再度頭を下げてから、店から出た彼の後ろ姿を見送る。


 理由はどうあれ、しっかりと相談に乗ってくれ、更には、今後こうしてみるといいという案まで出してくれた。

 少し抵抗はあるが、彼にはもっと感謝しなければならない。

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