第210話 空き教室=倉庫
story teller ~冬草涼~
昨日の夜、私たちの隠し事が四宮くんにバレていたと月から連絡があったから、2人の間でなにか起きたのだと心配になったが、今日の2人を見ていると、それがいい出来事であったのだとすぐにわかった。
「なぁ涼。あの2人なにがあったのかな?」
隣に座る堅治くんが四宮くんと月を見ながら私に耳打ちしてくる。
四宮くんと月は、まるで私たちが見えていないかの様に2人だけの空間を作り出しているので、堅治くんが私にそう聞いてくるのも無理はない。
「なにがあったかまではわかりませんが、仲直り?したんじゃないですか?」
仲直り。とは違うかもしれないが、それ以外にどう言っていいのかわからなかった。
最近の2人の間には見えない壁があるように感じていて、お互いに遠慮しているというか気を使っている感じだった。
「まぁ何はともあれ、2人が元に戻ったならいいんだけどさ」
堅治くんは2人を見ながら、良かった良かったと安堵の表情を浮かべる。
四宮くんと月はお互いの弁当からおかずを取り出し、あーんと食べさせ合いをしている。あれは元に戻ったと言うより、以前にも増してラブラブ度が上がっている気がする。
「うへぇ。ほんとよくやるよ。あたしたちも一緒にいるってのに」
「純奈もそう思った?明日からはあの2人には別の場所で食べてもらう?」
仲が悪いわけではないが、口を開けばお互いに突っかかっていく純奈ちゃんと光も、今日ばかりは珍しく同調し合っている。
去年の舞台祭の時もそうだったが、四宮くんと月の関係が悪くなると、私たちの空気まで悪くなってしまう。
逆を言えば、あの2人が仲良しでいればいるほど、私たちみんなの仲も良くなる気がする。
結局はあの2人が私たちの中心なんだなと改めて思う。
******
story teller ~春風月~
放課後、私と光は特別教室塔2階の端、文化祭で使わせてもらう空き教室の前に居た。
本当は、うちのクラスの実行委員が壁や配役の配置決めを打ち合わせるはずだったのだが、昨日話し合いをしたのは春風さんと四宮くんだから2人が行って欲しいと言われてしまった。
太陽くんはバイトが入っているので、代わりに光が一緒に来てくれたのだが、彼女は空き教室の扉に背を預けて文句を言っている。
「あいつらさ、絶対月と四宮に実行委員の仕事押し付けてるよね。お前らがやれよってワタシから言おうか?」
不機嫌を隠すことなく、腕を組み、足で一定のリズムを刻むいかにもな態度の光に、でも昨日話し合いに参加した私がいた方がいいよとクラスの実行委員の人をフォローする。
光は納得していない様子だったが、月がいいならいいんだけどさと、少しだけ機嫌を直してくれた。
2人で雑談をしながら待っていると、3組の実行委員である、斉藤さんと原田くんが遅れてやってきた。
「すみません。SHRが長引いちゃって遅れました」
「すみませんでした。ところで四宮くんは?」
斉藤さんと原田くんは扉の前で待っていた私たちにほぼ同時、同じタイミングで頭を下げ、太陽くんがおらず、その代わりに光がいる事を疑問に思ったようだ。
「そんなに待ってないから大丈夫だよ。太陽くんはバイトがあるから今日は来れないんだ。だから光に来てもらったよ」
「夏木です。よろしく」
「夏木さん、よろしくお願いします。僕は原田です。こっちは斉藤といいます。じゃあ早速ですが、鍵借りてきたので、とりあえず中に入ってみましょう」
原田くんが教室の鍵を開け、私たちは教室に入り、中の様子を見て愕然とする。
「空き教室だって言うから覚悟はしてましたが、これは・・・」
「配置決めより先に片付けからだね」
この教室の窓はすりガラスになっていて、外から中が見えずらく、なんとなく窓際に物が置いてあるな程度に思っていたが、実際には物が置いてあるどころか、使われなくなった机や椅子、教卓、どこから持ってきたのか、大きめのソファなどが大量に詰め込まれていた。
「桜木先生なにも言ってなかったけどな」
「もしかしたら先生もわからなかったんじゃないかな?ほら、こんなにホコリが積もってるし、たぶんずっと前から放置されてるっぽいよ」
私は目の前の机を指でなぞり、付着したホコリを光たちに見せる。
それを見た3人ははぁと仲良くため息をついて項垂れる。
「とりあえず隣も確認してみようよ!もしかしたら隣はなにもないかもしれないし!」
私がそう言ってなんとか空気を変えようと思ったが、隣も同じように使われなくなった備品などがしまわれていた。
「と、とりあえず桜木先生に確認してみよっか!片付けるにしても勝手に移動させるわけにもいかないし、それにもしかしたら他に空いてるところを許可取ってくれるかもしれないよ!」
絶望の表情を見せる3人を元気付けるように、なるべく明るい声で前向きな事を口にする。
私も3人と同じように肩を落としたいが、ここで4人全員が諦めてしまったら前に進まない。
私たちは職員室に移動し、桜木先生にその事を報告すると、確認するから明日まで待ってくれとの事だった。
斉藤さんと原田くんとは職員室で分かれ、私と光は帰っている間ずっとため息を吐き続けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます