第209話 みんなの隠し事
story teller ~四宮太陽~
せっかくなら遊びに行こうという先程の月の申し出を受け、俺たちはハンバーガーショップに来ていた。
久しぶりのデートでこんな場所を選んで良かったのかと心配していたが、そんな事は杞憂だったようで、月はソファ席の俺の横に座り、幸せそうにポテトを口に運んでいる。
そして、俺が見ていることに気づいたのか、口に入れたポテトを飲み込んでから不思議そうに聞いてくる。
「私の事じっと見てどうしたの?」
「幸せそうに食べてるなーと思ってさ」
「ねぇ。それだと私が食いしん坊って言われてる気がするよ?」
「そういう意味じゃないよ。幸せそうに食べてる月が可愛いってこと」
俺がそういうと、プクッと膨らませた頬を緩め、急に可愛いなんて照れるよと顔を赤く染めあげている。
そんな月を見ながら、そういえば聞きたいことがあったと思い出す。
「あのさ、俺の考えすぎならそれでいいんだけど、最近なにか俺に隠してる事ない?」
数日前、内海さんに言われたグループチャットの未読の件や、その後の善夜や夏木さんたちの態度がおかしかったので、今度は月に聞いてみようと思ったのだ。
「隠してること?」
身に覚えがないのか、きょとんと首を傾げているが、月は演技が上手い。恐らく真正面から聞いても教えてくれない可能性もあるし、演技で誤魔化されたら俺では気づけないかもしれない。
それなら。
「うん。なんか最近みんなの様子が変だなって思って。・・・もしなにか俺に隠し事してるなら、仲間外れにされてるように感じて悲しいな」
月の良心に訴えかけてみる事にする。
この作戦の懸念すべき点は、俺の悲しむふりの演技だが、顔を俯かせて唇を噛み、今にも泣きそうなふりをすると、アワアワと狼狽えている可愛い月の姿を見ることが出来た。
この反応から察するに、やはり隠していることがあるのだろう。
「あのね、その、悪い隠し事じゃないというか、いい方というか!」
焦っているのか言葉がよく分からないことになっている。
これだとそのまま説明させても俺が理解できない可能性があると思い、落ち込んでるふりをやめてケロッと態度を変える。
「ごめんごめん、そんなに焦らないで大丈夫だよ。落ち込んでないから」
「えっ?あれ?そうなの?」
「うん。俺の演技上手かった?」
「うん!とっても!俳優さんかと思っちゃった!」
それは言い過ぎだと思うが、上手く騙されてくれたみたいだ。
俺はごめんねと月の頭を撫でながら謝り、それでさと話を戻す。
「隠し事ってなに?」
そう言われて俺に騙されていたことに気づいたのか、月はあっ!と口を大きく開き、驚いた表情を見せる。
「あっ、えっと、うそうそ。嘘だよ?隠し事なんてないよ?」
「じゃあなんで今目を逸らしたのかな?」
俺が問い詰めるように体を接近させると、ううっと唸ったあと、ごめんなさい!と頭を下げて両手を顔の前で合わせている。
「太陽くんに内緒にしてる事があるのは認める。でも内容はまだ話せない」
「えっ?どうして?」
「話しちゃうと、きっと太陽くんは自分を責めちゃうから。だからみんなで太陽くんには内緒にしていようって約束したの」
「それって俺のためにってこと?俺の事を気遣って内緒にしてるって事?」
「うん。それで嫌な気持ちにさせちゃったのはほんとにごめんなさい。でもこれだけは信じて?みんな太陽くんの事大切だと思ってるから、だから太陽くんの為に内緒にしてるって事だから」
顔を上げた月は、曇りない眼で俺を見つめてくる。月の言っていることはきっとほんとなのだろう。
正直内容も気になるが、俺のためだと、信じて欲しいと言われたら無理やり聞き出す訳にもいかない。
月だけじゃなく、堅治や善夜、恐らく架流さんたちも関わっていることだろうから、そもそも勝手に話せないのかもしれないし。
「わかった。もうなにも聞かない。その代わり、俺の前ではちゃんと隠し通してってみんなに伝えてくれる?特に内海さん、あと演技が下手な堅治と善夜にも」
「ありがとう!うん、必ず伝えとくね!」
ほっとした表情になる月に、あの2人の演技はほんとに酷いよね!と言うと、あれはこっちがヒヤヒヤするよと笑顔を見せてくれる。
最近は一緒にいても笑顔を見る機会が少なかったからか、楽しそうに笑う月を見ていると心が満たされていくのを感じる。
そして、これ以上この子を悲しませないために、自分に出来ることをやらなければと改めて決意する。
俺のお願いをなにか1つ聞いてくれると言っていた九十九。
それなら俺の大切な人の為に、大事な人たちの為にお願いを使うことにする。
※※※
作中で色々と起こりすぎてとっ散らかってるからなのか、久々に太陽と月ののんびりパートが気楽で楽しかったです。
たまにはこういう緩いのもいいな〜と思いましたが、皆さんはどうなんでしょうか。
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