第208話 私が知ってる太陽くん

story teller ~四宮太陽~


 6時限目のHRで文化祭になにをするか話し合い、俺たちのクラスは3組との共同で、空き教室2つを使ったお化け屋敷をする事になった。

 その空き教室は特別教室塔2階の端から並んでいて、廊下も含めて使っていいと、担任の桜木先生が許可を取ってくれたのだ。


 早速今日の放課後にお互いのクラスの実行委員が残って話を詰めることになっていたのだが、うちのクラスの実行委員がどうしても参加出来ないとの事で、俺と月の2人が実行委員の代わりに話し合いに参加することになった。


「太陽くんと一緒に実行委員の話をするのって、なんだか去年の舞台祭思い出すね」


「確かに。俺たちってそういうのに縁があるのかな?」


 実行委員になってしまうと当日も忙しく動き回る必要がある為、今回は選ばれないようにしていたが、クラスでも中心人物である月といると、結局こういう事になるのは仕方がないだろう。

 頼られるのも悪い気はしないので、今日限りとはいえしっかりと話し合いを進めなければと意気込む。


 3組の教室に入るとまだ人が疎らに残っていたが、奥の方で机が4つ向かい合わせに準備されており、そこに座るメガネの男女を見つける。

 俺と月はなんとなくあの2人が実行委員だと感じ、その席に近づくと、2人がこちらに気づいてくれた。


「あれ?四宮くんと春風さん?」


「うちの実行委員がどうしても行けないってことで俺たちが代わりに来たんだよ」


 3組の実行委員は斉藤さんと原田くんで、このクラスの学級委員と文化祭実行委員を兼任しているらしい。

 3組の人達はそういう役職につきたがる人がいないらしく、メガネというだけで押し付けられてしまったとの事。いじめられているのか?と思ったが、当の本人たちは気にしていない様子で、早速話し合いましょうかと切り出してくる。

 押し付けられたにしては乗り気に見えるので、俺の考えすぎなのかもしれない。


「これがうちのクラスから出た案なんだけど・・・」


 俺はさっきのHRでみんなから出た案をまとめた紙を机に広げる。


「特に多かったのが、出来れば迷路みたいな作りにしたいって案だね」


「迷路ですか?」


「うん。せっかく廊下も含めた広い範囲を使っていいなら、その広さを活かして中で迷うような作りにしたいなって」


 俺の話を聞いた斉藤さんと原田くんは顎に手を当てて考え込む。


「確かに。共同で作るなら作業量が多くても問題なさそうですし、いいかもしれませんね」


「うん。壁はダンボールとかで作れないかなって。まだ文化祭まで時間もあるし、今のうちに近くのスーパーとかに事情を説明して捨てずに取っておいて貰えれば数も集まると思う」


 こうやってお互いのクラスから出たいくつかの案を出し合い、その中から使えそうな案を選択していく。

 明日の放課後は実際に空き教室と廊下を確認して、壁やお化け役の配置などを決めることになり解散となった。

 ______


「いい返事貰えてよかったね!」


 月と一緒に帰りながら近くのスーパーに寄って、文化祭で使うダンボールを捨てずに取っておいて欲しいとお願いしに行ったところ、そこの店長さんは快く了承してくれた。


「ねぇ。せっかくだしこのままどこか遊びに行かない?」


「えっ?」


 月の誘いに戸惑ってしまう。

 月と遊びに行きたくない訳じゃないし、こうして2人でいる事にも抵抗はなくなってきた。それでもやっぱり、長時間2人きりなのは乗り気になれない。


 恐怖や不安、怒りといったマイナスな感情からあの時の俺が出てくるのだと思う。

 でも稲牙を傷つけられた時の俺は、明らかに島での時よりもタガが外れていた。しかも表の仲間が月に手を出しそうになった時よりも軽いストレスでだ。

 という事は、次はもっと少ないストレスで、少しの不快感ですらああなってしまってもおかしくないのではないかと考えてしまう。


「もしかして、私と遊びに行くのはいやだ?」


「そんな事は・・・ないけど・・・」


「・・・・・・私に暴力を振るっちゃいそうで怖い?」


 月は俺を見つめたままそう問いかけてくる。

 思っていた事を言い当てられ、思わず目を逸らしてしまうが、月は俺の両手を取って優しく包み込んでくれる。


「太陽くんが悩んでるのは知ってるよ。またいつああなるのかわからなくて太陽くん自身も怖いんだよね?」


「・・・うん。・・・・・・月はさ、怖くないの?また俺に殴られそうになるかもしれない。ううん、今度はほんとに殴られるかもしれないんだよ?」


「あの時は確かに怖かったよ。でも今は怖くない。だって太陽くんがその事で悩んでるって事は、あれは太陽くんが望んでした事じゃないって分かるから」


「でも!もしかしたらあっちがほんとの俺かもしれない!」


 月の言葉は嬉しいが、でも俺は望んでなかったにしても、月を殴ろうとした自分自身を許せない。


 今までの俺が偽りで、本当は暴力を振るうのが、誰彼構わず傷つけるのが好きなのが俺なのかもしれない。


 月はそんな俺の手を握ったまま目を見つめ、真っ直ぐに俺の不安を否定してくる。


「ううん、絶対に違うよ。もしあっちの太陽くんがほんとの太陽くんだったらこんなに悩んでないよ。それに、太陽くんは最後はちゃんと。私の好きな、優しい太陽くんでいてくれようとしてくれる。太陽くんがもし自分を見失っても、私がほんとの太陽くんを知ってる。だから大丈夫。これ以上1人で悩まないで?自分を責めないであげて。私が、みんなが傍にいるんだから」


 嬉しかった。

 あんな事があっても離れずにいてくれる。それどころか、今までよりももっと深く関わろうとしてくれる。

 ついさっきまで月といるのが怖かったはずなのに、今では月がいれば大丈夫だと思わせてくれる。


 この子はほんとに凄い。


 俺はただ甘えてただけだった。

 あれがほんとの自分なのかもしれないと思い、それは違うと自分で否定することも出来ずに、みんなと距離を置いた方がいいかもしれないとか、そんな逃げとも取れる様な事ばかり考えていた。


「ありがとう月。俺、月と付き合えてよかった」


「えっ!?ちょっと太陽くん!ここスーパーの前!みんな見てる!」


 そう言って目の前の女の子を抱きしめる。

 月は俺の腕の中で暴れるが、絶対に離さない。

 ありがとうと感謝の気持ちを言葉以外で伝えるとしたら、今はこれしか思いつかなかった。


 俺は体感で10分ほど、人目も気にせず月を抱きしめ続けた。

 最初こそ暴れていた月も、途中から諦めて俺の背中に腕を回してくれた。それが俺の気持ちをもっと落ち着かせてくれて、更に強く抱きしめたのだった。

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