第206話 加藤に繋がる道?
story teller ~とある中年男性~
こいつはなにを考えているのだ。
食事の席にこんな小娘を連れてくるなんて。
私の雰囲気に押されてか、誠と佐伯の2人はなにも言わず、黙りこくったまま、ただ義務であるかの様に食事を口に運ぶ。
私と誠は大人である為、沈黙も苦ではないが、この少女からは私たちと同じ余裕を感じる。
「佐伯さんでしたか?誠とはどういうご関係で?」
この2人がここに来た時点で気になった事を問いかけると、口に含んだ料理を大袈裟に飲み込んでから眩い笑顔を顔に貼り付けて佐伯は返答する。
「わたしから一方的にお願いして加藤さんについてまわっているだけですよ。わたしもいずれは加藤さんのような素晴らしい社長さんになりたくて」
「・・・そうか。頑張りたまえ」
佐伯の言葉は嘘だとわかる。
もちろん学生の内から自分の会社を持ちたいだとか、有名になりたいと言うような人がいるのはわかる。
しかし、こんな雇われ社長に憧れる学生の数は少ないだろう。誠が嘘をついているとしたならば、佐伯が彼に憧れる事もあるかもしれないが。
「それで誠。最近はどうなんだ?順調か?」
佐伯に話すのとは違い、口調を崩して学生時代からの付き合いである誠にそう聞くと、要領を得ない質問であるにも関わらず、私がなにを聞きたいのか理解したように誠は返答する。
「まぁまぁだよ。売上がドカッと上がったわけでもないが、下がった訳でもない。現状維持って感じだ。・・・ただ最近は、チャージバックの件数が多くなってきてる。利用者が知識を付け始めたんだろうな」
誠が誤魔化す事もせず、素直に話したという事は、この少女も誠がどういった仕事をしているのか理解しているのか、もしくは堂々と話をしても問題ないほど頭の出来が悪い女かのどちらかだろう。
誠は自分の仕事を忠実にこなしはするが、誇りを持っている訳ではない。それどころか、嫌悪すらしているのだから、それを佐伯の目の前で話すということは、2人の関係は彼女が語った憧れなんかではなく、もっと深いものだとわかった。
誠は結婚していないから不倫にはならないが、それでも女子高生に手を出しているとなるとそれだけで大問題だ。
それがもし露見してしまったら私の事業の1つが潰れかねない。
「チャージバックの件は誠に任せる。それよりも、女遊びも程々にな。お前に任せている事業はうちの大事な稼ぎ柱の1つなんだから」
「・・・わかっている。そんなヘマはしない」
いい歳したおじさんが不貞腐れたように返答する。中身は学生の頃から成長しないな。
もうこれ以上ここに居ても仕方ないだろうと思い、そろそろ会社に戻ろうかと考えているとその気持ちを読んでか、佐伯が私の手に自分の手を重ねてくる。
「八代さん。わたし、あなたにも興味があるんです」
「すまない。私は興味が無い」
上目遣いに、妖艶な雰囲気を漂わせてくる佐伯の誘いを切り捨て、会計は済ませておくよと2人に伝えて席を立つ。
あの娘を連れてきたのはそういう事か。
誠の策略か、それとも佐伯本人が望んだことなのかわからないが、私に宛がおうと思っていたのだろう。
まったく、扱いに困る男になったものだ。
******
story teller ~米田光明~
「そうですか。ありがとうございます」
来海ちゃんのテレビ番組の収録にマネージャー補佐として着いてきていた俺は、収録中は特にやる事もないので、南さんに許可を貰って局のスタッフに加藤の会社の事を聞いて回っていた。
ほんとは沖縄出身のスタッフに聞いて回りたいが、誰がどこ出身なのかなんて分かるはずもなく、虱潰しに見かけたスタッフや職員を捕まえては話を聞くを繰り返す。
しかし、やはりと言うべきか、一般職員や下積みのスタッフでは加藤の会社を知っている人すらいない。
小さな会社っぽいし、これじゃあ局の偉い人でも知らない可能性すらあるな。
なかなか情報が集まらないことに段々と辟易してくる。
加藤の事は、俺と来海ちゃん、寄宮さんの3人が任されている。それなのにこうも難航してしまうと、俺たちに任せてくれた横山や秋川たちに申し訳なくなってくる。
「よし。あと一人だけ聞いてみるか」
小さくそう呟いて気合いを入れ直し、誰かいないかと廊下を進んでいると、前からダンボールを持った女性が歩いてくる。
大きなダンボールを2つ、重そうに抱えるその人を無視することも出来ず、よかったら手伝いますと申し出る。
「ありがとうございます。えっと・・・」
「俺は雷門来海のマネージャー補佐の米田っていいます」
「来海さんの!?手伝わせてしまってすみません!」
「暇を持て余してブラブラしてただけなんでいいんですよ。それよりこれはどこまで運べばいいんですか?」
その女性の案内で、局内にある倉庫の様な場所までダンボールを運び、壁際に下ろしてから腰を叩く。
「これ重すぎですよ。こんなの1人で運ばせるなんて、そんなに人手不足なんですか?」
「いえ。私が単純に断れなかっただけです」
確かに。目の前の女性は気が弱そうに見えるので、お願いされたら断れない性格なのだろうとなんとなく理解出来る。
「ほんとにありがとうございます。助かりました。・・・では私はこれで」
「あっ、ちょっと待ってください!」
ぺこりと頭を下げて立ち去ろうとする女性を呼び止めると、彼女は気まずそうになにか?と振り返る。
「聞きたいことがあるんですが、この会社って知ってたりしませんか?」
あまり期待せず、惰性でスマホをポケットから取り出し見せると、彼女はスマホに顔を近づけ、メガネ越しにじーっとサイトを見つめる。
それからあっ!と声を上げたかと思うと、すぐに両手で口を塞いだ。
「なにか知ってるんですか?」
「えっと。知ってる・・・んですけど・・・」
「ほんとですか!?教えてください!」
興奮のあまり、女性の肩を掴んで揺すってしまう。
彼女は驚いたように、えっ!?あっ!と声を上げ、俺もその声で我に返り、すみませんと頭を下げる。
「つい興奮してしまって。ほんとすみません」
「だ、大丈夫なので謝らないでください。・・・それよりその会社の事をなんで私にきいてきたんですか?」
「あなたに聞いたのは偶然ですよ?友だちがこの会社とトラブっちゃって、なにか知ってる人はいないかなと思って聞いて回ってただけです」
俺がそう言うと、彼女はほっとしたように息を吐き、それならいいんですがと呟く。
なにか言いたくないことでもあったのだろうか。
「他にも仕事があるので、後日でもいいですか?」
「大丈夫です!すみませんお仕事中に」
また別の日にゆっくり話すことになり、この日はお互いに連絡先を交換し倉庫で分かれた。
俺はすぐにグループチャットでみんなに連絡し、来海ちゃんと南さんのいる場所まで戻ったのだった。
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