第202話 新人バイト?

story teller ~四宮太陽~


 やっぱりおかしい。


 内海さんに言われて、グループチャットを確認してみたが特に重要なやり取りは見受けられなかった。

 昼休みにその事を内海さんに聞いてみても、四宮にとっては重要な事じゃないのかもと言われ、善夜に聞こうとすると、そのタイミングで月や夏木さんに話しかけられる。

 なにかおかしいと気になり出すと、堅治や冬草さん、乱橋さんの態度までおかしく感じた。


「どうかしましたか?」


 俺が考え込んでいると、バイト先に一緒に向かっている乱橋さんが不思議そうに聞いてくる。

 今の彼女は昼休みの時とは違い、いつも通りに見えた。


「みんな俺になにか隠してない?」


「いえ。そんな事ないですよ?」


 じっと見つめてくる乱橋さんは表情が変わらないので、ほんとの事なのか、それとも嘘をついているのか読めない。

 聞くにしても相手が悪いと思い、それならいいんだと返す。

 仮にみんなが俺に隠し事をしていたとしたら、それは物凄く悲しい。


 その後は特に会話もなく、気づけばバイト先の前に着いていた。


「いらっしゃ。あっ太陽さん!おはようございます!」


 扉を開けてすぐに元気の良い声が聞こえてくる。


「おはよう真昼ちゃん」


 俺がそう返すと、九十九の妹である真昼ちゃんは満点の笑顔で駆け寄ってきて、俺の後ろにいる乱橋さんを見ている。


「この方が乱橋さんですか?」


 視線は乱橋さんに向けたままであるが、その問いかけは俺に対してだろう。

 俺がそうだよと返すと、真昼ちゃんは持ち前のフレンドリーさで乱橋さんの両手を掴み握手する。


「初めまして!自分は九十九真昼といいます!」


「初め、まして。乱橋穂乃果です」


 真昼ちゃんの勢いに圧倒された乱橋さんは尻込みしてしまっていて、俺に助けを求めるように目を向けてくる。


「真昼ちゃん。乱橋さん困ってるから」


「あっすみません。こういうのは苦手でしたか」


 今の俺的には真昼ちゃんの明るさはありがたいが、乱橋さんとは合わないかもしれない。


「それにしても来るの早いね?」


 真昼ちゃんの通う高校はここから離れており、普通なら俺たちよりも後に着くはずだ。


「今日は部活動集会ってやつで短縮授業だったんですよ。自分は帰宅部なので速攻帰ってきました!」


 うちの学校にはそんなものはないはずだが、真昼ちゃんの学校は部活動に力を入れているのかもしれない。


「すみません。なんで九十九さんの妹さんがここにいるのでしょうか?」


 真昼ちゃんがここにいる理由を知らない乱橋さんが説明を求めてくる。

 俺は九十九と真昼ちゃんの事情を話していいものか迷い真昼ちゃんに視線を送る。

 すると、彼女は頷いてから1歩前に出る。


「恥ずかしながら家族と喧嘩しまして、今は楓さんの家でお世話になってるんです。家出ってやつですね」


 真昼ちゃんはあははと笑いながら軽く言っているが、実際にはそんなに軽い事情ではない。


 九十九が俺の家に来た日に、彼から事情を聞いた俺は耳を疑った。


 九十九の家は悪い言い方をすると貧乏らしい。

 そして、九十九と真昼ちゃんはお互いにバイトをしながら支え合っていた。

 そんなある日、彼らの両親は真昼ちゃんのバイト先に押しかけてきて、真昼ちゃんの給料を前借りしてきたと言うのだ。

 それだけならまだ良かったかもしれないが、その給料をあろう事かパチンコで溶かし、更にはその事に怒った真昼ちゃんを知り合いの風俗に沈めようとしたらしいのだ。


 その場は兄である九十九が居たからなんとかなったらしいが、それからも執拗に風俗を勧められ、それに耐えられなくなった2人は家出。

 最初は真昼ちゃんだけを俺の家に置いて欲しいと言っていたが、それは星羅が反対した。


 もちろん星羅も断る事には心が痛かったと言っていたが、それでも九十九のした事を考えるとまたなにかに巻き込まれるのではないかと警戒したらしい。


 そして、九十九たちが行くところがなくて困っているという話を何気なく店長に話したところ、事情も聞かずに2人を居候させる流れとなったのだった。


 その恩返しと言うように、真昼ちゃんはこのカフェでお手伝いを始めた。

 丁度休みが続いていた乱橋さんはその事を知らなかったという訳である。


 気丈に振舞っている真昼ちゃんだが、実の両親に風俗で稼いでこいと言われたのは相当堪えただろう。


「無理はしないでね?」


 俺はほぼ無意識にそう口にしていて、真昼ちゃんは俺の方を向くと、はい!と元気に答えてくれた。

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