第201話 勘違い

story teller ~四宮太陽~


「おはよう!太陽くん!」


「月。おはよう」


 俺はから月に対しての罪悪感や自分自身に対しての嫌悪感から月との間に壁を作ってしまう。

 それでも月は気にしていないように振る舞い、毎朝欠かさず迎えに来てくれる。

 それが嬉しい反面、そんな月に答えて上げられない申し訳なさを感じてしまっていた。


 朝食を食べ、2人で並んで通学路を歩く。

 今までなら手を繋いで歩くのが当たり前だったが、今では月に触れるのが怖くてそれすら出来ない。

 月もそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、なにも言ってこないし触れてこない。


「文化祭楽しみだね。飲食店OKになってよかったぁ」


 月は全身から喜びを表現するように手と足を大きく振り、笑みを浮かべている。


 うちの学校の文化祭では元々飲食店NGだったのだが、今年は生徒からの抗議が多かったとかで試験的に1部のクラスのみ飲食店OKとなったのだ。

 俺たちのクラスは残念ながら飲食店OKのクラスではなかったが、2年2組、堅治と冬草さんのクラスはその1部のクラスに選ばれた。


「涼も秋川くんも教えてくれないけど、なにするんだろうね!」


「2人とも勿体ぶるよね」


 学生の文化祭なので、それほど手の込んだものではないと思うが、楽しそうな月にそれは言わない事にする。


 ______


 2限目の休み時間。

 次3時限目は選択授業であり、俺と善夜は地学を選択している為教室を移動しなければならない。


 2人で教室を出て、中央階段となりの渡り廊下から特別教室棟に移動しようとしていると、上の階、1年生の教室のある3階から内海さんが降りてきた。


「あっ」


「内海さんも移動教室?」


「そうだけど」


 彼女は手に持った音楽と手書きで書かれたファイルを見せてくる。

 音楽室も特別教室棟にあるので、必然的に一緒に向かう流れとなる。


「ってかさ四宮。あんたでしょ?グループチャットに既読つけてないの。バレてんだからね」


 ここ最近は気分が乗らず、チャットアプリすら立ち上げていなかった。

 内海さんの口調は強いが、表情を見る限り怒っている訳ではなさそうだ。


「車谷も春風も、四宮に何も言ってないわけ?」


「あはは。ご、ごめんね内海さん」


 頭を書きながら、善夜は短く謝る。

 恐らく、善夜も月たちも俺に気を使ってなにも言わなかったのだろう。


 特別教室棟に着き、地学室は1階、音楽室は3階なので階段の前で分かれる。

 階段を上がる前に、あとで絶対確認しなよと念を押された。


「そんな重要な話してたの?」


 俺は階段を降りながら善夜に確認すると、うん。まぁねと生返事を返してくる。

 その時の善夜はなんだか態度が変だった。


 ******


story teller ~車谷善夜~


 それは太陽が入ってないグループでのやり取りだよ。


 既読云々の話をしだした内海さんに気づけ!と視線を送るが、彼女はまったくボクの事を見ていない。


「あとで絶対確認しなよ」


「わかった」


 そんな2人のやり取りを聞いて、どう誤魔化そうかと考える。


 太陽も入っている全員のグループチャットと、太陽が入っていない筋トレのやり取りをするために新たに作ったグループチャット。

 その2つに内海さんを招待し、八代明文と加藤の件は太陽が入っていないグループチャットでやり取りをしていた。

 もしそれを太陽が知ってしまったら絶対に自分も何がすると言い出すに決まっている。そうなればまたあの太陽になってしまう可能性もある。


 2つのグループチャットに内海さんを招待した事が裏目に出てしまった。


 とりあえず内海さんに勘違いしている事を伝えなければ。


 そう思い、地学室に着いてすぐ、机の下でスマホを操作して内海さんにメッセージを送る。


 昼休みはいつもの様にみんなで集まって昼食を食べるだろう。

 その時に太陽からこの話題が出るかもしれない。

 それならみんなでどうにか誤魔化さなければ。


 ボクはそのまま太陽が入っていないグループチャットのトークを開き、今起きたことを端的にメッセージで送る。


 昼休みまでにみんなが見てくれたらいいのだけど。


 ※※※


 すみません。

 少し忙しくて遅刻してしまいました。


 ゆとり

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