第199話 大きな一歩

story teller ~内海純奈~


 屋代、家城、家代、社、八代・・・。

 漢字がわからずに、スマホの変換機能を使いながらSNSの検索欄に入力していくとたくさんのアカウントが表示される。


 鍵垢だったら見つからないかもなぁ。


 上から順にアカウントを見ていくがそのほとんどが鍵垢なのでため息が出る。

 仕方ないことかもしれないが、自分で申し出た事なのに見つかりませんでしたじゃ立つ瀬がない。


 苗字で探すのを諦め、下の名前で探していこうとあきふみと読める漢字を検索しては確認、検索しては確認と地味な作業を繰り返し、30分。

 一旦休憩を挟もうと思っていた時、aki_fumi__846というユーザーネームのアカウントを表示したところで手が止まる。


 そのアカウントは公開アカウントであり、投稿された1枚の写真には、兄弟、もしくは双子の顔の似た男の子が2人、笑顔で写っていて、その片方がドクロのピアスを付けている。

 事前にネットで調べていたからわかる。穴原の言っていたバンドのピアスだ。

 写っている男の子たちが少し幼く感じたがそれもそのはず、投稿日が4年前となっている。


「この人だ・・・」


 そう確信し、アカウントを見つけたことによる安堵からベッドに預けられたあたしの体の力が一気に抜ける。

 ずっとスマホと睨めっこしていたので、目尻がピクピクと疲れを伝えてくる。


 少しだけ脱力した後、よし!と気合いを入れ直して、まずは穂乃果や春風たちにアカウントを見つけたと連絡を入れ、再度SNSを開き、aki_fumi__846に対してDMを送る。


「フォロー外からのDMも受け付ける設定になってますよう、にっ!」


 無意識に声を出しながら(急にすみません。話したいことがあるのですがよろしいですか?)となるべく相手を刺激しないように送信する。


 せめて既読くらいはついてくれよと思いながら、目を閉じる。

 既に時刻は夜の12時を回っていて、今日は返信は来ないだろうと勝手に決め込みそのまま眠りに落ちた。


 ******


story teller ~寄宮花江~


 米田さんがいなくてもしっかりと筋トレをこなす男性4人を横目に、わたくしたちも情報を共有しあう。


「お父様でもわからないみたいです」


なんてありふれてるしね」


「会社名まで伝えてもわからなかったんですか?」


 わたくしは涼の言葉にふるふると首を横に振る。

 穂乃果ちゃんに父親と連絡を取ってもらい、渋る穂乃果ちゃんの父親からなんとか加藤の名前と会社名を聞き出したのだが、それでもお父様にはわからないらしい。


 加藤はそれほど大きな会社を経営している訳では無い?それとも名刺自体がフェイク?


 色々な可能性が出てきてしまい、加藤誠という名前すら偽名なのではないかと考えてしまう。

 あの葛原さんと一緒にいる人だ。その可能性すら有り得る。


「なかなかしっぽを掴めないね。葛原も全然見つからないっぽいし。やっぱ八代と接触するのがてっとり早いのかなー」


 はぁーとため息を吐きながら、光は面白く無さそうにしているが、涼と穂乃果ちゃん、もちろんわたくしも光と同じ様に感じていた。


 内海さんという女性が八代明文のアカウントを見つけたと言っていたが、その後は進展していないらしく、そっちもあまり期待できないのかもしれない。


 なんだかわたくしが1番役に経ってないような気がして、気持ちが沈んでしまう。


 すると、わたくしのスマホが着信音を鳴らし、画面にはお父様の部下である男性の名前が表示される。

 お父様と仲のいい彼は、わたくしの事も可愛がってくれていて、加藤の事を調べてもらっていた。


「もしもし。寄宮です」


「あっ花江さん。お願いされていた加藤って人の件だけど―――」


「なにかわかりましたか!?」


 昨日の今日でもうなにか分かったのかと興奮してしまい、食い気味にそう言うと、電話の向こうでは落ち着いてと冷静な声が聞こえてくる。


「花江さんの言ってた加藤って人と同一人物かどうかわからないけど、株式会社〇〇って会社が沖縄にあって、その会社の代表取締役が加藤誠って人なんだよ。聞いてた会社名と違うから、偶然名前が一致してるだけかもしれないけど、ホームページに顔写真も載ってるからURL送るね」


 そう言ってメールで送られてきたURLをタップし、ホームページを開く、代表挨拶と書かれたページに載っている男性の写真を、光たちに見せるとわたくしの目を見て頷くので、この男性が加藤誠だと確信する。


「この人で間違いありません。ありがとうございます」


 わたくしがお礼を伝えると、またなにかあったらいつでも連絡してと言って、彼は電話を切る。


「やったじゃん。これで一歩前進!」


「でも私の父から聞いた会社と違いますね」


「名刺が偽物だったんですかね?」


 光が喜びの声を出すが、不審に思った穂乃果ちゃんと涼は怪訝そうにしている。

 わたくしもなぜ聞いていた会社と違うのか疑問が浮かんだが、それでもこの写真の男が加藤誠で間違いないのであれば、ここから更に調べることが出来る。


 わたくしも少しは役に経てたと安堵したのだった。

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