第197話 お見舞いと内海の提案

story teller ~春風月~


「初めましての人もいるな!みんな春風さんの友だち?」


 獅子王くんは入院しているのが嘘のように、ベッドから上半身を起こして元気そうに満面の笑みを浮かべている。

 もし想像よりも深刻な怪我だったらどうしようと心配していたが、杞憂だった様だ。


「こんなたくさんの人がお見舞い来てくれるとは思わなかったから嬉しいぜ」


 光たちが自己紹介を終えると、獅子王くんはそう言って喜んでくれる。

 そして、私たちの周りを少し確認したあと、太陽は?と聞いてくる。


「太陽くんは、風邪引いちゃったみたい。学校もお休みしてたんだよね」


 私がそう答えると、私たちの空気が重くなったことに気づいたのか、獅子王くんは笑顔をやめ、真剣な表情を向けてくる。


「なにかあったのか?」


「うん。実はね・・・」


 私は内海さんに説明した時同様、太陽くんの過去をある程度伏せながら、今までにあった事を話していく。

 話している時の獅子王くんの表情は怒りと悲哀の入り交じった様なものになっていて、私が話終えるまで、静かに相槌もなかった。


「・・・そんな事があったのか。それにおれ様も巻き込まれてるってわけね」


「うん。私たちが獅子王くんと知り合ったばっかりに。ごめんね」


 私がそう謝ると、獅子王くんはそれは違うぜと否定してくる。


「その葛原って女は、おれ様が穂乃果に拾われるより先に接触して来てたぜ。金を渡すからわたしに雇われろってな。それを断ったから友だちを失ったし、それが原因で穂乃果に拾われた訳だから、遅かれ早かれ巻き込まれてたんだ。・・・でも太陽や春風さんたちの友だちになれたからおれ様的には結果オーライだけどな!」


 私は巻き込んでしまって申し訳ないと思っていたのに、獅子王くんは屈託のない笑顔を向けてくる。なんてまっすぐで前向きな人なのだろうか。

 少しだけ心が軽くなる。


「じゃあ葛原の事は知ってるって事だな?」


「1回会っただけだから知らない人だと言っても過言じゃない」


 秋川くんの問いかけに、期待はするなと言うように獅子王くんは返している。


「じゃあ稲牙さんを病室で襲った人の事は知ってますか?八代明文さんって言うらしいのですが」


 続けて涼がそう確認するも、獅子王くんはその人には病室で会ったのが初めてだったようで、入ってきてすぐに殴られたからどこの誰かもわからないと言っている。


「・・・やっぱり隣の穴原にも話を聞かないといけないな。オレちょっと行ってくる。内海さんも来てくれるか?」


「なにがあるかわかんないしボクもいくよ」


 秋川くんと車谷くんは内海さんを連れて病室を出ていく。

 私も一緒に話を聞きたいと思ったが、あまり大勢で押し寄せても威圧しているようになってしまうかと考えて、3人が戻ってくるのを待つことにした。


 ******


story teller ~内海純奈~


「失礼します」


 秋川がそう言いながら返事を待たずに病室の扉を開くと、今まで寝ていたのか、穴原が目を擦りながら体を起こす。


「誰?」


「急にすみません。四宮太陽の友だちって言えばわかりますか?」


 秋川が丁寧に敬語で伝えると、穴原は警戒するように身構える。

 そんな彼に対し、車谷が大丈夫です。話を聞きに来ただけですと言いながら両手を上にあげて敵意がないことを示す。


「話ってなに?」


「単刀直入に聞きますが、葛原のこと知ってますよね?」


 葛原という名前に反応して穴原の眉がピクリと動くのをあたしは見逃さなかった。


「・・・既にそこの女に話したと思うんだけど」


 これ以上話すことはないという様子で、穴原はそっぽを向き、ベッドに身を委ねる。

 それでも秋川は諦めずに、窓の方を向いてしまった穴原に近づき、目線の高さに合わせてしゃがみこみ丁寧に話しかけている。


「八代明文って人のことを知りたいんです。なにか知ってたら教えてくれませんか?」


 穴原は、諦めの悪い秋川の顔に息を吐きかけるようにはぁとため息をついてから、また反対側を向き、今度はあたしたちに向かってゆっくりと話してくれた。


「・・・知ってるって言っても葛原の遣いとして数回あった事あるだけだ。最初に会ったのは8月の後半だな。大量の札束を見せてきて、これで俺たちの言うように動けって言われたんだよ。その後はお願いされた事をこなす度に金を渡しに来てたくらいだ」


「八代明文って人がどこに住んでるとか、特徴とか分かりませんか?」


「さぁ。どこに住んでるかはわからないな。特徴って言われても背が高いってことくらいかな?あとは、ああ、変わったピアスを付けてたな」


 穴原はベッドに横になりながら思い出したかのように、手を叩いてそう口にする。


「ピアスですか?」


「そうだ。海賊の漫画に出てくるようなドクロで、そのドクロの後ろに骨じゃなくて音符マークが入ってるやつな。素直にカッコイイと思ったからどこのピアスか聞いたら、バンドのグッズで数量限定とかで中々手に入らないって言ってたぜ」


 ドクロがカッコイイとかこの人のセンスは中二で止まってるのかと思ったが、隣で話を聞いていた車谷もなにそれ。ちょっと欲しいとか言っちゃってるし。

 顔はカッコイイのにセンスは悪いのか。ちょっとマイナス点だ。


「ありがとうございます。数回限定のピアスか・・・。それならだいぶ絞りこめるかも」


 穴原の話を聞いた秋川は、顎に手を添えて考え込むように床を見つめている。

 どこのバンドかまで分かれば、販売元を辿って八代明文までたどり着けるかもしれないが、販売元が素直に顧客情報を教えてくれるはずも無い。


「ねぇ。その八代を探すのあたしに任せてくれないかな?」


 あたしがそう言うと、部屋にいる全員の視線が集まる。


「探すってどうやって?」


「これでもSNSを使うことには結構慣れてるんだ。八代って人がもしSNSに自撮りを投稿してたりするなら、ドクロのピアスが写ってるかもしれないじゃん?可能性は低いけど、少しでも可能性があるなら、アカウントを探してみる価値はあるかなって」


 あたしの提案に、うーんと少し考えてから、お願いしてもいいか?と秋川。

 車谷もいい案だと思ったのか、あたしを見ながら頷いている。


「それでさ穴原。あんたにもお願いがあるんだけど」


 もう1つ思いついた事を提案してみようと話しかけると、自分に話を振られると思っていなかった穴原は身構えてなんだよと反応する。


「たぶん葛原や八代はまたあんたに接触してくるでしょ?二重スパイしてよ」


「はぁ?ふざけんな。お前ら四宮太陽の仲間なんだろ?葛原や八代以上にあいつとは関わりたくねぇよ」


「あんたヤンキーなんでしょ?ヤンキーなら負けた相手の下に付くのが当たり前じゃないの?」


 あたしはあくまでも映画や漫画で得た知識でそう言うが、意外にもそれは当たっていたようで、穴原はチッと舌打ちをしてわぁーたよと答える。


「でも俺は四宮太陽には直接会わないぞ?それと、葛原や八代にはこっちからは接触しない。もしあいつらから接触してきたらその時は情報を伝えるだけだぜ」


 それでも問題ないと思いわかったと短く伝えると、もういいだろ帰れよと穴原は毛布を顔まで被ってしまった。

 あたしたちは思ったよりも情報を引き出せたことに満足し、病室を後にする。


「内海さんがこんなに協力的だと思わなかったよ」


 部屋を出てすぐ、車谷がそんな事を言ってくる。

 あたしとしても面倒事は厄介だが、穂乃果や稲牙が巻き込まれている以上、手伝わない訳にはいかない。


 会ったこともない葛原や八代に対して覚えた怒りを胸に、絶対捕まえてやると心に決めて、稲牙の病室に戻るのだった。


※※※


こんばんわ。いつも私の作品をお読み頂きありがとうございます。


そろそろ『学年で1番可愛い子が俺に一目惚れしていた話』も200話に到達すると言うことで、飽き性の私がここまでこの作品を続けてこられたのもひとえに皆様の応援あってのことでございます。

改めて感謝を伝えさせてください。

ほんとにありがとうございます。


さて、まだ作品の中では月たちが色々と頑張っている途中ですが、近況ノートにて登場人物紹介を公開させて頂きました。

簡単に説明しているだけなのですが、改めて登場人物を確認したいよって方は目を通して頂けると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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