第195話 意外な所からの情報
story teller ~雷門来海~
今回起きた出来事を聞いて、なにも出来なかった自分を責めた。
巻き込まれなかっただけよかったのかもしれない。でもなにか出来ることがあったかもしれないのに。
枕に顔を埋めていた私は、前々から考えていた事を両親に話そうと思い立ち部屋を出る。
「お父さん、お母さん。話があるんだけど・・・」
リビングでパソコンを触っていたお父さんと、洗い物をしていたお母さんは、私の真剣な表情を見てすぐに手を止めてくれる。
これから私は2人に迷惑をかけてしまうかもしれないと思うと少し気持ちが揺らぎそうになる。
「どうしたんだい?話してご覧?」
そんな私の気持ちを察してか、中々話し始めない私に、お父さんは優しい口調でそう言ってくる。
心の中で、よし!と話す決意を固めて、勇気を出して話し始める。
「もう一度アイドル活動したいと思ってるんだけど、どう思う?」
私の言葉を聞いた2人は、反対はしなくとも快く思わないと思っていた。
しかし、そんな私の予想は外れ、2人はほっとした表情を浮かべている。
「改まっているからなにかと思ったら、そんな事か」
「突然びっくりしたわよ。もっと深刻な事かと思ったわ」
私にとってはそんな事ではないわがままだったのだが、2人はそんなに驚くことでもなかったようだ。
「僕はいいと思うよ?母さんはどう思う?」
お父さんに同意するように、意見を求められたお母さんもいいと思うわと頷く。
「でも私のためにこの街に引越しまでしてくれたのに、迷惑じゃないの?」
「迷惑なんてことは無いよ。来海が自分で決めた事なら、応援しても止めることはないよ」
「そうよ。迷惑なんてかかってないわ。引っ越したのも娘が困ってたから助けただけよ。それは親として当然の事をしただけなんだから」
優しく笑いかけてくれる2人に感謝する。
もし少しでも迷惑を掛けてしまうとしたら別に出来ることを探そうと思っていたのだが、その必要も無いようだ。
「ありがとう!」
短く感謝を伝えると、なにか出来ることがあれば言ってねとお母さん。
早速以前まで所属していた事務所の社長さんに連絡することにした。
もし復帰できたとしたら、花江さんとは別の方向から加藤さんという男性について調べられるかもしれない。
その為にはまず、芸能界に戻って人脈を増やす。人脈が増えればどこかしらから情報が手に入るかもしれない。
結局はただの中学生という立場なので、私に出来ることはこれくらいしかない。
太陽さんたちと一緒にいる時間は減るかもしれないが、最後にみんなと平和に過ごすためなら、みんなと過ごす大切な時間を使ってでも出来ることをしたいと思ったのだ。
******
story teller ~内海純奈~
あたしが病室に入ってからまず目に付いたのは、痛々しい傷だった。
明らかに入院後に作ったであろう傷口から血が出ており、白いシーツを赤く染めている。
「ちょっと!大丈夫!?」
すぐに稲牙に駆け寄ると、弱々しい声で大丈夫と答える彼は、無理やりに笑顔を浮かべている。
急いでナースコールで看護師を呼び、対応してもらう。
処置が終わるまでの間病室の外に出されたが、気が気ではない。
「稲牙が何したってのよ・・・」
自分で傷つけた訳では絶対にない、傷が開いた訳でもない、そこから導き出されるのは誰かにやられたと言う事だ。
心配と苛立ち。その両方が入り交じり、座っているあたしの脚は貧乏ゆすりをし始める。
自分の指に付いたつけ爪を力ずくで剥がし、床に投げ捨てると、つけ爪はすーっと勢いで床を滑り、近くにいた人の靴に当たって止まる。
その人はしゃがみこんでつけ爪を拾い、あたしの元までやってくる。
「綺麗なのにもったいよ」
小さな女の子は、一見すると元気に見えるが、病衣を身にまとっている事から入院患者だとわかる。
「・・・いらないからあげる」
あたしは乱暴に言い放つが、女の子は気にしていない様子であたしの隣に座る。
「お姉ちゃんはこのお部屋の人のお友だち?」
なぜそんな事を聞いてくるのか、ただの無邪気な質問だと決めつけ、無視を決め込むが、その子はそのまま続けて話してくる。
「さっきもね、このお部屋に男の人が入っていったの。そしたら出てきた時に手に血がついてたよ。お部屋の人怪我してるの?」
たぶんこの子にとっては素朴な疑問だったのだろう。
それでもあたしにとっては重要な情報だった。
「どんな人だった!どこにいったかわかる!?」
女の子の肩を掴み、激しく揺らす。
ちょっとお姉ちゃん!と女の子が声を荒らげ、周りの患者や看護師、面会の人たちの視線が集まり、焦って手を離す。
「ごめん」
「ううん。大丈夫。身長の高い人だったよ?」
「名前とか言ってなかった?」
「遠くから見てただけだからわかんない」
身長が高い人なんてこの世に何人もいる。
期待していた情報とは違い、はぁとため息を吐くあたしに、女の子はそれとねとまだ何かを伝えてくる。
「隣のお部屋から出てきた女の人と一緒に帰っていったよ」
女の子が指さす病室は稲牙の病室の隣。
ということは、その病室にいる人ならなにか知っているかもしれない。
そう思い、隣の病室を開けて中に入ると、ベッドで横になっているのは、名前はわからないが見覚えがある。
あの日、廃墟ビルにいた男の1人だった。
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