第194話 その後の太陽と衝撃のニュース

story teller ~葛原未来~


「あなたのおかげよ。ありがとうね」


「なにがだよ。こっちは大怪我したんだぞ。報酬は倍だからな」


 穴原は包帯の巻かれた頭を指さしながらそう言う。

 怪我の治療費と病院の入院費もわたしが払っている。更に報酬を追加要求してくる事に対し、普段ならふざけるなと思うが、今回は大目に見てあげよう。


「それじゃあね。また元気になったらよろしく」


 わたしがそう伝えてから病室を出ると、扉が閉まる瞬間に、ふざけんな。割に合わねぇよ!と罵声が聞こえてくる。


 あの時八代が警察の振りをしてサイレン音を鳴らしていなければ、そのまま本物の警察に捕まっていたかもしれないのに。助けたことに感謝されても、罵声を浴びせられる筋合いは無い。

 無性にムカついたので八代を使って、無理やりにでも従わせてやると決める。


「葛原。穴原はどうだったっすか?」


 ちょうど隣の病室から出てきた八代はわたしの姿を見つけて声をかけてくる。


「元気そうだったわよ。今後もよろしくって伝えておいたわ。それよりも稲牙は?」


「無理っすね。四宮太陽にゾッコン。こちら側に来る事はないっす」


 そう言いながら手をハンカチで拭いているので、きっと追加で制裁を加えたのだという事がわかる。ちょうど病院に入院しているし問題ないだろう。


 本来なら稲牙を使って太陽くんにぶつけるつもりだったが、彼は意外にもわたしの勧誘を断り、偶然にも太陽くんと友だちになってしまった。

 計画がダメになるかもと焦ったが、それでも結果的に


 わたしは望んだ結果になった事に興奮する。


「もう少しで太陽くんが手に入るかも。ふふふふふ」


 ******


story teller ~横山架流~


 事件から数日が経ち、警察に連行された表はそのまま強盗の容疑で捕まり、世間では有名バンドマン逮捕の報道で溢れていた。


 九十九が表から聞いた話だと、出所後もバンド活動を続けたい彼は、葛原の名前を出すと本当に芸能界から追放されてしまうとの事で、それを恐れていたのだという。まぁ出てきてから芸能界復帰出来るかどうかはわからないが、たぶん、葛原を恐れていると言うよりも、加藤という男を恐れているのだろう。

 そのため、九十九が表を取り押さえた時に2人で口裏を合わせていたらしい。

 だから、今回は手を貸してくれたが、本来なら葛原サイドの九十九にとっても、葛原が不利になる様なことは避けたかったのだろう。


 なんとなくわかっていたが、僕がどれだけ九十九の弱みを握っていても、完全にこちら側に寝返らせることは出来ないのだと改めて認識する。


「表が捕まったと聞いた時はこれで葛原も終わりかと思ったけどしぶといなぁ・・・」


 僕が誰に言うでもなくテーブルを見ながらため息混じりに呟くと、あははと反応したのは九十九だった。


「葛原が捕まったら俺は困るよ。さすがに犯罪歴のある女の子と付き合うのは遠慮したいし」


 この男は、まだ葛原を手に入れる事を諦めていなかったのか。葛原は捕まってないだけで、やっている事は既に犯罪歴があると言っても過言ではないだろうと思うが。


「それで架流さん。なんで九十九がいるんですか?」


 九十九に対して、特に良い印象を持ってないであろう善夜くんが、めちゃくちゃ怪訝そうな顔をして聞いてくる。この場にいる善夜くん以外のメンバーも同じことを思っていたらしく、一斉に僕に視線を向ける。


「僕が呼んだんだよ。お世話になるつもりだからね」


 僕は睨みつけるようにしながら九十九にそう言うと、ほんと性格悪いよねと不機嫌そうに言ってくるので、使えるものは全部使うよと言い返す。


「・・・あの。一応これまでにもなにがあったか粗方聞いたけど、九十九さんはみんなに嫌われてるの?私的にはそんなに悪い人には見えないんだけど」


 今集まっているカフェの店長である楓さんは僕たちの九十九に対しての態度を見て納得がいかない様子である。まぁこの人からすると九十九は、大切なお店と従業員を守ってくれた恩人なのだから仕方ないのかもしれない。


「かえぴょんさん。あなただけですよ。俺に優しくしてくれるのは」


 九十九は機嫌良さそうに楓さんの手を握ってブンブンと振っている。

 イケメンに手を握られた楓さんは満更でもなさそうに頬を赤くしている。

 僕たちの中で唯一の頼れる大人の楓さんが九十九に籠絡されてしまっては意味が無いので、その辺にしとけと九十九の手を叩き落とす。

 そして、僕は集まったメンバーの中で、一番元気の無い女の子に話を振る。


「月ちゃん。太陽くんの様子は?」


 僕にそう聞かれた月ちゃんは、光ちゃんと涼ちゃんに背中を摩ってもらいながら俯いている。


「・・・・・・私といるとなるべく近づかないように気を使ってるみたいです」


 あの一件以降、太陽くんは数日部屋に引きこもってしまった。

 それでも月ちゃんや星羅ちゃん、陽子さんが扉越しに話しかけ続けることでなんとか部屋からは出てきてくれた。だが、自ら望んでした事ではなかったのだろうけど、それでも自分の大切な彼女に手を出そうとした事が相当堪えてしまったのだろう。


「とりあえず、太陽くんの事はみんなで様子を見ていこう。楓さんもバイト中とかなるべく注意して見ててくれると助かります」


 僕が楓さんに伝えると、わかったと短く返してくれる。

 あとみんなで話し合えることは。


「こっちから葛原に接触する件だけど・・・」


 今回僕たちが集まったのはそれを話し合う為である。

 ちらっと九十九を見るが、俺はどうにもできないよ?と首を振っている。実際、全然連絡も取っていない様だし、対して期待はしていなかったが。


「花江ちゃんも色々探ってくれてるんですよね?1人で大丈夫でしょうか?」


「花江ちゃんは加藤って男の事を調べてくれてるみたいだね。難航してるみたいだけど、人伝に情報を集めてるだけって言ってたから心配ないと思うよ」


 花江ちゃんを心配する涼ちゃんに伝えると、それならいいのですがと言って考え込むように目を伏せ、唇を噛んでは離し、噛んでは離しと遊んでいる。


「オレらにも出来ることはないか?さすがに体を鍛えてるだけじゃダメだろ」


「ボクも出来ることがあるなら行動したい。もう太陽には後悔するような事はさせたくないからね」


 みんなでうーんと唸り、何かないかと考え込んでいると、テーブルに置いたスマホが光り、ニュースアプリの速報の通知が表示され、何気なくその内容に目を通し、驚いてしまう。


「みんな!これ!」


 すぐにスマホを手に取り、ニュースアプリを立ち上げ、みんなに見せると、みんなも目を見開いて驚きを隠せないでいる。


 そのニュースの内容は、雷門来海。アイドル活動再開!というものだった。

 彼女は用事があると言ってこの場に来なかった。その用事とこのニュース、無関係ではないだろう。

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