第192話 太陽VS獅子王?
story teller ~四宮太陽~
「なんなんだよこいつ」
何度殴られても立ち上がる俺を見て、困惑の表情を浮かべる穴原。
「楽しいなぁ!!穴原!!」
島では無自覚だったが、今は自分が笑っているのだと自覚するが、ヒートアップした自分自身を止められずにいた。
ほぼ一方的にやられているのに、楽しい。止められない。もっと。もっと!!!!
そう強く思い込んでいると、穴原は俺に対して拳を振るってくる。しかし、それがスローモーションに見えてギリギリで避け、カウンターを入れる。
島で表の仲間にやられたカウンターを見よう見まねでやってみたが、思ったよりも上手くいった。
ゴッッッ!!!
と穴原の頬を捉えた俺の拳は音を鳴らし、穴原の頭がそのままの勢いでグリン!と曲がる。
「ぐがぁぉ!」
そんな情けない声を出し、穴原が後退する。
筋肉質な彼の体重がそのまま乗った拳だ。ダメージは凄いだろう。
それでも倒れず、穴原は俺に向き直る。
「なんだお前やるじゃねぇか。クソが!」
そう言うと今度は俺に回し蹴りを入れてくる。
それを脇腹に食らうも、その回し蹴りすら見よう見まねでやり返す。
「がぁあぁ!!」
綺麗に入ったのか、それとも脇腹が弱いのか、穴原は膝をついて蹴られた場所を押さえている。
「まじでなんなんだよ。怖ぇよお前」
「怖いのか?雑魚の俺が?じゃあお前が俺より雑魚ってことだろ!」
そう言って穴原に近づき、脚を蹴りあげて目の前の敵の顎を撃ち抜く。
「こぉぉお!」
勢いで無理やり上を向かされた穴原は、脳震盪でも起こしたのか、その場に倒れ込み、動かなくなる。
そんな穴原の顔を踏みつけようと俺は脚を上げるが、腕のロープを自力で解いたのか、獅子王くんが俺の脚を掴んでくる。
「太陽!もう終わりだ!穴原は動けない!お前の勝ちだ!」
だが俺は獅子王くんを振りほどき、穴原の顔を思いっきり踏みつける。
ドゴォォォン!!
先程穴原が獅子王くんの頭を叩きつけたよりも更に大きな音が鳴り、穴原の頭から血が流れ出てくる。
それを見てより心が弾む。
「へへっ」
自分でも気づいている。これ以上はダメだ。
でも止められない。
すると横からすごい衝撃を受け、俺の体が吹き飛ぶ。
獅子王くんが蹴ってきたのだ。
「獅子王くん?なんの真似?」
「お前がなんの真似だよ。もう終わっただろ」
「終わってねぇよ。俺は穴原を殺すって決めたんだよ」
「殺させねぇよ。友だちを殺人犯にしてたまるか」
そういうと獅子王くんは構えてくるので、俺もそれに応えるように構える。
お互いに向き合って、両者同時に相手に向かって走り出す。
ゴッ!!
お互いの拳が相手の頬を捉え、俺たちは吹き飛ぶ。それでもすぐに体勢を立て直し、再度ぶつかり合う。
「「おぉおおおおぉぉぉぉおぉ!!!!」」
手を掴み合い1歩も譲らない。
そして俺は膝を獅子王くんのみぞおちに叩き込む。
「ごはっ!!」
無理やりに空気を吐き出された獅子王くんの力が抜け、その場に倒れ込む。
それを見逃すほど冷静じゃなく、追撃を加えようと脚を振りかざすと同時。
「太陽くん!!ダメ!!!」
後ろから誰かに抱きしめられ、俺の体はバランスを崩し、振り上げた脚は空を蹴る。
抱きしめてきたのは月だった。
「月?なんで?」
「太陽くん。それはダメ。後悔するから」
泣きながらがっしりと俺の体を掴んで離さない。
それでも冷静じゃない俺は月を振りほどこうと暴れる。
「離せ!俺は乱橋さんを助けにいくんだ!ここで邪魔される訳にはいかない!!」
自分でも言っていることとやっている事がめちゃくちゃだと理解している。
それでも、俺の中のもう1人の俺は必死に月に抵抗する。
そして、とうとう月を殴ろうと拳を振り上げた。
それはダメだ。やめろ!!
自分で言い聞かせるが止まらず、拳が振り下ろされるその時。
パシっ!!
と俺の腕が掴まれて止まる。
「太陽!お前自分がなにしようとしたかわかってるんのか!」
「ダメだよ!春風さんを殴っちゃダメ!」
堅治と善夜が止めてくれたのだ。
「あれ?俺なんで?月殴ろうと?」
一気に自分のしようとした事を冷静に受け止め、力なくその場に崩れ落ちる。
「あああぁぁあああぁぁぁぁぁあ!!!」
床に頭を付け、大声で奇声を上げる俺を、3人は黙って見ているだけだった。
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