第188話 助けを呼ぼうにも・・・

story teller ~八代~


 あまり自分が表に出るのはいやだなぁと感じながら、稲牙獅子王が足しげく通っているというゲームセンターを訪れていた。


 時代に取り残された感じのゲームセンターで、ヤンキーとかそういう人種はこういう所がほんとに好きだなと嘲笑する。


 店内を見て周り、ここにいなければ最近よく顔を出すというまで行かなければならないのだが、あの場所は四宮太陽がバイトしているカフェでもあるのでなるべく近づきたくない。

 なので出来ればここに居てくれと願っているとビンゴ。筐体に向かってゲームをしている稲牙を見つける。


 葛原は無理やりにでも連れて来いと言っていたので、力で無理やり屈服させようかと思い近づくが、稲牙の隣には俺と同じ高校の制服を着た女子が座っていた。


 俺も学校に行く途中に葛原から急遽お願いされた事だった為に制服のままなので、まずいと思い一旦距離を取って2人から見えない位置の筐体の裏に隠れる。

 あの女子の事は知らないが、同じ学校なので向こうが一方的に俺を知っていた場合が厄介だ。


 葛原に今は無理だとメッセージを送り、いい事を思いついたと稲牙と隣に座る女子にバレないように写真を撮り、それを稲牙の事を敵視している人物にメッセージと共に送り付ける。


('846' お前の大好きな稲牙獅子王の弱点発見。どんな手を使ってでも稲牙を手に入れろ。そうすればもっと金をやる)


 実際、金を用意するのは加藤さんなので、もし金を用意出来なかった場合どうしようかと考えるが。その時は葛原に女を用意してもらって、それを当てがえば問題ないだろう。


 そう軽く考えていると、わかった。明日には拉致るから、金の件絶対守れよ!と返信がくる。


 これだから社会不適合者は。

 ろくに働きもしないのに金が絡むとがめつく、すぐに食いついてくると嫌悪するが、まぁ危ない事や犯罪スレスレの行為を全部こいつらに任せて、俺たちは高みの見物出来るのならそれもありかと考えを改める。

 葛原もその為にこんなクズどもを集めているんだろうし。


 俺は自分が表に立たなくて良くなったことに気分が良くなり、スキップをしたくなるのを我慢しながら店を出たのだった。


 ******


story teller ~内海純奈~


 あたしを庇ってくれた稲牙を見つめる。

 なんの話をしていたかわからないが、稲牙がなにかを拒否してこうなったのだけは理解出来た。


 心配して見ていると、隣町の廃墟ビルと言う男のセリフが聞こえてきて、その後にこちらを見ている稲牙と目が合う。

 彼はなにかを訴えるようにあたしをじっと見てくるので、廃墟ビルに助けに来いという事なのだろう。いや、そうじゃなかったとしても助けなければと思い、すぐに行動する。


 あたしは男たちにバレないように、なるべく静かにその場から移動し、姿が見えなくなった瞬間にダッシュする。

 警察に通報しようにも、カフェに忘れたカバンにスマホが入っているので出来ない。


 仕方ないのでカフェに向かうことにするが、乱橋がいるはずなので気が進まない。

 今日の朝、四宮は、明日が乱橋が休みだと言っていたので、せめて明日なら良かったのにと思ってしまう。


 カフェに着き扉を勢いよく開けると同時に、カウンターの中の四宮がテーブルを拭いている乱橋を庇うように飛び出してくる。

 乱橋もワンテンポ遅れてそれに反応し、四宮の服を掴み隠れる。


「なにしにきた!」


 四宮は怒りを顔に出し、大声で叫ぶ。他の客が居ないから出来たことだろう。

 あたしはそれを無視して稲牙に起きた事を伝えようとするが、ここまでなりふり構わず全力で走ってきたので上手く声が出ない。


「今、はぁ稲牙、がおと、こたちに、はぁ」


 たどたどしいあたしの言葉を聞いて、四宮は少しだけ怒りを収めた様子で近づいてくる。


「獅子王くんがどうした?」


 それでもまだ声は冷たいままだ。

 息を整えてから話そうと、何度か息を吸って吐いてを繰り返していると、四宮の大声が聞こえたのかスタッフオンリーと書かれた扉から店長さんが出てくる。


「なにがあったの?」


「店長。その、いきなり内海さんが来て・・・」


 店長さんはあたしの様子を見て、なにかあったのだと察したのかコップに水を入れてから差し出してくる。


「落ち着いて?これ飲んでから話して?」


 ありがたくコップを受け取り、中の水をすぐに飲み干す。


「はぁはぁ。今、稲牙が男たちに連れ去られて・・・」


 あたしの説明を聞いた四宮たちはすぐにやるべき事を話し合い始める。


「私が警察に通報しておくわ。四宮くんは念の為、すぐにその廃墟ビルに向かってくれる?」


「わかりました。乱橋さんはここに居て?出来れば堅治たちにも連絡して欲しい。すぐに動けるかわからないけど、人数は多い方がいいかもしれないから」


 そう言って店を飛び出そうとする四宮に、あたしも行くと伝えて後を追う。

 走りながら、危険だから内海さんも待っててと言われたが、乱橋と同じ空間にいるのは気まずいし、なによりも稲牙はあたしの為に連れていかれてしまったのだ。待っているだけなんて出来ない。

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