第183話 古いゲームセンターでの出会い

story teller ~とある女子生徒~


「はぁぁぁ」


 いつもの通学路を歩きながら大きくため息を吐く。思い出しているのは昨日の放課後の事だ。


 あたしは乱橋にただ謝りたかった。

 夏休み中ひとりぼっちの時間をダラダラと過ごし、最初の頃は乱橋に対して怒りを覚えていた。

 けれども時間が経つにつれ、ただの嫉妬から引くに引けなくなってあそこまでやってしまった自分自身に腹が立つようになった。

 別に仲良くなりたいわけではないし、もう謝っても遅いかもしれない。それでもやりすぎた事は事実であり、その事に対して一言ごめんと伝えたかった。

 けど、昨日のあの様子だと、あたしに気がついて怖がっているのだとすぐにわかった。

 乱橋だけでなく一緒にいた2年生、四宮太陽もあたしを警戒していたし、謝る機会を得るのは難しいかもしれない。

 そう思うとなんだか学校に行くのが億劫に感じてしまい、無意識に通学路から外れ、学校とは別の方向へ歩を進めていた。


 目的もなくただただ歩いているうちに、本来なら朝のHRの時間になっている事にスマホを確認して気がつく。


 今から行っても仕方ない。今日はサボろう。


 なんとなくそう思い、俯いていた顔を上げる。

 すると、少し先にゲームセンターがある事に気がついた。


 目の前まで来るとくたびれた看板に、壁や天井は落書きがあったり穴が空いていたりとボロボロだ。立ち並ぶ筐体も比較的古いタイプのものである。

 あたし以外の人の気配は感じられないが、筐体から鳴る騒がしい音は、今のあたしの憂鬱な気持ちを紛らわせてくれて、不思議と心が落ち着く。

 別にアーケードゲームが好きとかではないが、せっかくなら何かやってみるかと思い、適当に見て歩く。

 すると奥の筐体の前に男の子がひとりぼっちで座り、格闘ゲームをして事に気がつく。


 少し離れた場所から、格闘ゲームってこんな感じなのかと眺めていると、その子があたしに気づいて声をかけてきた。


「なにしてんだ?学校じゃねぇの?」


「・・・別になんでもいいじゃん。あんたに関係ないでしょ」


 知り合いではないが馴れ馴れしい感じでそう声をかけてくる男の子に戸惑いながらも強気で返す。

 すると男の子は椅子から立ち上がりあたしに近づいてきたので、身構えて警戒するが、そんなあたしを無視してまたもや馴れ馴れしく話しかけてくる。


「確かにおれ様には関係ないな。ずっと見てたってことは暇なんだろ?良かったら対戦しねぇ?」


 そう言いながら彼は、先程まで自分がやっていた格闘ゲームの筐体を指さす。


「あたしやった事ないんだけど」


「じゃあおれ様が教えてやるよ。ほらこいよ」


 男の子はあたしの返事を聞く前に手を掴んで引っ張る。

 強い力で引かれている訳ではないが、なんとなく振りほどくこともなく連れられるままに筐体の前に座らされる。


「このボタンが弱攻撃、これが強攻撃、ここがジャンプで、これがガード。このレバーが移動な」


 ボタンを指さしながら説明してくれるが、如何せん初めてなので理解できなかった。

 それでもやってたら覚えるかなと思い、お金を入れるために財布を取り出そうとカバンに手を入れるが、目の前に男の子の手が伸びてくる。


「いいよ。おれ様が出す。誘ったのはおれ様だからな」


「でも・・・」


「いいから。男にカッコつけさせろよ」


「そっか。わかった、ありがとう」


 あたしがお礼を伝えると、彼はニカッと笑い白い歯を見せてくる。

古いタイプのゲームだからか1プレイ50円なので、それでカッコつけるとはどうなのだろうとは思うが。


 そうして対戦を何回してみるが、やはりあたしのボロ負けで終わる。


「強すぎ。手加減って知らないの?」


「はははっ!おれ様は女だろうと容赦しねぇよ!」


 普段なら女に容赦しないなんて事をいう男には嫌悪感を抱くが、腰に手を当てて笑う目の前男の子に対しては特に嫌だと感じなかった。


「そういや名前教えてなかったな。おれ様は稲牙獅子王だ!」


「変な名前。あたしは内海純奈うつみじゅんな。よろしく」


 変な名前って言うなよ!と稲牙は文句を言っているが、その顔は怒っている訳ではなくむしろ楽しそうだと感じる。


 その後もいくつかのゲームを稲牙とやっていると、いつの間にかお昼を過ぎていて、お腹が空いてきた。


「お昼食べに行くか?」


「えっ?」


 ふいに稲牙がそう聞いてきたので、驚いて聞き返してしまった。

 稲牙は特に気にする様子もなく、よし!食べにいこうぜとあたしの手を掴んで店外に連れ出す。


 こんなふうに誰かと遊ぶのは久しぶりだったが、初めて会ったとは思えないくらい楽しい。

 あたしは朝の憂鬱な気持ちをすっかり忘れ去っていた。

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