第180話 購買での思わぬ再会?
story teller ~車谷善夜~
ボクは筋トレの時に邪魔だった髪を切り、メガネからコンタクトに変えたことを後悔していた。
まさかこんなにも人から視線を浴びることになるなんて。
通学路でも視線は痛いほど感じていたが、教室に入ってからは男子に囲まれ、女子に見られと散々だ。
元々目立つタイプではないと自覚していたので、いざ注目の的になるとどうしていいのかわからない。
太陽なら助けてくれるのではないかと期待して、囲んでくるクラスメイトの隙間からチラッと彼を見るが、ボクの方を見ておらず、ぼーっと頬杖をついている。
太陽!助けて!
心の中でそう叫ぶが、もちろんその声が太陽に届くことはなく、ボクの内側で霧散する。
そのうちクラスメイトの1人が、イケメンすぎるんだよ!と言って肩を軽く叩いてくる。
ほんとに軽く、友だちとじゃれるくらいの力で叩かれたはずだが、丁度昨日の筋トレが肩だった事もあり筋肉痛も相まって何倍にも痛く感じる。
「いっったぁ」
ボクが顔をしかめてそう反応すると、叩いたクラスメイトはあっすまん。軽く叩いたつもりだったんだとすぐに謝ってくれる。
彼に悪気がないことは分かっていたので、大丈夫だよと笑顔で返す。
筋肉痛と慣れない視線の中、1日を過ごさないと行けないのは少し億劫だなと思った。
******
story teller ~四宮太陽~
昼休みになり、俺と善夜は弁当を持って来ていなかったので購買に行くことになり、月と夏木さんは先にお手洗いに寄るとの事で、中庭で合流する事にした。
購買に向かう際に2組の教室も覗いたが、既に堅治と冬草さんは居なかったため、きっと中庭に向かっているのだろう。
お互いに示し合わせたり、連絡を取り合った訳でもないが昼休みは中庭に集まるのが当たり前になっている。
これなら乱橋さんも中庭に来るだろう。
「久しぶりに来たけど、やっぱり人が多いね」
善夜の言うように、昼休みの購買は生徒で溢れかえっている。
特に今日の善夜は嫌でも注目されてしまうので居心地が悪いのだろう。顔を俯き気味にしながら列に並んでいた。
俺たちは視線を気にしないように2人で他愛もない話をしながらパンをいくつか購入し、中庭に向かおうとしていると、建物の出入口付近で前を歩く女子生徒が、丁度入ってきた複数の男子生徒とぶつかり、手に持ったパンを落としてしまい、更にそのパンが男子生徒に踏まれてしまうのを目撃した。
パンを踏んだ男子生徒はごめんと一言だけ謝り、その場をあとにしてしまう。
呼び止めようかと思ったが、男子生徒はこれから購買で商品を購入するだろうから後回しでもいい、まずは女子生徒に声をかけるべきだと判断し、俺と善夜は女子生徒に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
善夜は倒れている女子生徒にそう声をかけ、手を差し伸べて立ち上がらせる。
俺は潰れてぐしゃぐしゃになったパンを拾い、これは最悪だと思いながらその女子生徒の顔を見て、少し複雑な気持ちになる。
その女子生徒は長めの茶髪を緩めのツインテールで纏め、制服を着崩し、更にはネイルやピアスをしていて、そういう事に寛容的なうちの学校でも、これは生徒指導にかかるのでは?という、幼い顔立ちでありながらもギャルっぽい出で立ちで、とても目立つ人だ。
そのため、ほとんど関わりがなくても1度見れば覚えてしまう人物であり、乱橋さんをいじめていた生徒のうちの1人だった。
善夜は直接会ったことがないので気づいていないが、女子生徒の方は俺を見て気まずくなったのか険しい表情を浮かべると、大丈夫です。失礼しますと言って立ち去ろうとする。
そんな彼女を、待ってください!と善夜は呼び止める。
「これ、ボクので良ければどうぞ」
そう言って善夜は女子生徒に自分が買ったパンの1つを差し出す。
女子生徒は遠慮気味に、ほんとに大丈夫ですと言うが、善夜はほぼ無理やりにパンを押し付けていた。
「見て見ぬふりは出来ません。受け取ってください。あっ、それともそのパンは嫌いでした?」
「いや、そういう訳、じゃ・・・」
そこで善夜の顔を初めてちゃんと見たのだろう。
女子生徒は途中から言葉が止まり、善夜から目を離せないでいる。
彼女の顔は俺を見た時の険しい顔とは違い、頬は朱色に染まり少し緩み、瞬きすら忘れて目を見開いている。心做しか彼女を包む雰囲気もふわっとしたものになっている。
俺でも分かる。一目惚れってやつだ。きっとそうだ。
「どうかしました?」
善夜は黙り込んでしまった女子生徒を心配そうに見つめながら首を傾げている。
彼女ははっとした表情を浮かべ、なんでもないです!と言って呼び止める間もなく走り去ってしまった。
「なんだったんだろ。大丈夫かな?」
不思議そうに俺に聞いてくる善夜だが、きっと彼は髪を切らない方が良かったかもしれない。今後苦労するんだろうなーと心の中で夏木さんに同情し、乱橋さんをいじめてた人に一目惚れされるのはどうしたものかと複雑な気持ちになったのだった。
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