第169話 積極的な月

story teller ~春風月~


 私が太陽くんの身の回りの世話をすると言い出したのには理由がある。


 太陽くんが退院する前に、秋川くんたちから話を聞いた。私たちや太陽くんを守れるようになりたいから強くなるために鍛えるらしいけど、その事を太陽くんには悟られたくないとの事で、なるべく太陽くんの意識を私に向けるようお願いされた。

 みんなの言いたい事は理解出来る。そんな事太陽くんが知ってしまえば、迷惑はかけられないと言い出して自分も鍛えようとするだろう。でもそうなると、またあの時の怖い太陽くんになってしまうかもしれない。

 だから私は秋川くんたちのお願いを聞き入れた。


 そしてもう1つ。

 帰りの船での太陽くんの姿が遠く感じたのだ。

 私の考えすぎかもしれないのだけれども、船での太陽くんは放っておくとどこかに行ってしまいそうな気がした。

 あんな事があった直後だから太陽くんに対して、ほんの少しだけ恐怖心を覚えた。だからそう見えただけなのかもしれない。

 もしそうだったとしても、太陽くんが私から、私たちから離れていくのは嫌だと感じたから、ちゃんと捕まえていないといけないと思い、なるべく一緒に時間を過ごして離れていかないように監視したかった。


 もちろん、純粋に太陽くんの役に立ちたいという気持ちもあるし、不謹慎かもしれないが、そのおかげで残りの夏休みを太陽くんと過ごせると考えたりもした。

 この怪我だと、プールに行ったり遠出したりは出来ないかもしれない。それでも太陽くんと一緒に居られるなら私はそれだけで幸せなのだ。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 俺は自室の床に座りベッドに背中を預けながらソワソワしていた。

 気を紛らわそうとゲームを起動したり、スマホをいじったりするが集中力が続かない。


「お兄ちゃんなんでそんなに緊張してるの?」


「緊張してないから。普段通りだよ」


 俺の様子を見て茶化すように星羅が声をかけてくる。


「いやいや、月さんが泊まるからってあからさまに意識してるじゃん」


 妹にそんな事を言われ、図星だった為口を閉じてしまった。星羅はやっぱりね〜と言いながらクスクス笑っている。

 朝から俺の世話をしてくれた月は、午後8時になった時点で帰るはずだった。しかし、月は急に泊まりたいと言い出し、母さんも嬉々としてそれを了承していた。

 月がこの家に泊まるのは2回目だが、前回は星羅の部屋に泊まり、俺は善夜の家に居たので、月が俺の部屋に泊まる事自体は初めてだ。

 月の家に泊まったことはあるが、自分の部屋となるとなんだか緊張してしまう。


「それよりもなんで俺の部屋にいるの?自分の部屋に戻りなよ」


「やだ。戻っても暇だし。私も月さんとお喋りしたいもん」


 緊張はするが、今日はずっと一緒に過ごせると内心ウキウキしていたのも事実なので、正直星羅には部屋に戻ってて欲しい。というか来海ちゃんの家とかに泊まりに行って欲しい。


 邪魔。とまでは言わないが、星羅が部屋に戻ったとしても部屋自体が隣に位置しているので結局使のだ。

 乱橋さんの実家でもずっと我慢していたので、せっかく月が泊まるならイチャイチャしたいと思ってしまう。


 まぁ星羅も俺たちの邪魔したい訳ではないだろうしと思い諦めていると、ガチャっと扉が開き、月が入ってきた。

 俺の貸した部屋着を着ていて、髪がまだ少し濡れており、お風呂上がりだからか頬が赤く染まっていて、不思議と色っぽく見えてしまう。


「太陽くんより先にお風呂いただいちゃってごめんね?」


 部屋に入ってきた月は申し訳無さそうに謝り、ローテーブルに手をついて前屈みになりながら座ろうとする。

 俺の服のサイズが大きいからなのか、前屈みになった事で首元の隙間から月の胸が見えてしまい、俺は咄嗟に目を背ける。


「太陽くん?どうしたの?」


「なんでもない。うん、なんでもないよ。ちょっと目にゴミが」


 大丈夫?私が見てみる?と言って月は俺の隣に座って顔を近づけてくる。

 俺のシャンプーやボディソープを使ってもらったため、匂いは自分のお風呂上がりの時と同じ匂いのはずなのに、それが月から漂ってくるので、変態チックな言い方をすると興奮してしまう。


「ほんと大丈夫。もう取れたから。俺もお風呂に入ってくるよ」


 なんだか、今すぐにでも抱きしめて、イチャイチャしたい気持ちになるが、星羅のいる前ではそんな事できる訳はないので、誤魔化すように立ち上がる。


「じゃあ私が背中流してあげるね」


「えっ?なんて?」


「だから、私が太陽くんのお風呂手伝うよ。頭も体も洗ってあげる」


 聞き間違えかと思って聞き返したら少しレベル上がったんだけど。


「いやいや何言ってるの?」


「お兄ちゃんよかったね。そういうの好きでよく観てるもんね」


「そういうのって?」


「お、お風呂好きだからさ、ボディソープとかシャンプーとかよくネットでみてるんだよね!」


 なぜ妹が俺の好きなジャンルを把握しているのかは後で問いただすとして、焦って適当な事をいってしまう。逆に怪しまれたかと思ったが、そうなんだ?と納得はしていないようだがそれ以上追及してくる事もなかったので、ほっと胸を撫で下ろす。

 とりあえず月の申し出を断らないとと思い、1人で入るから大丈夫と伝えるが、月は1歩も引かない。


「ダメだよ。指も使えないし、頭の怪我も気を使わないといけないでしょ?私がやってあげるから」


「それこそ自分で洗った方がよくない!?」


 そこから5分ほど自分で洗う、私が洗うと言い合い、月が脱衣場で待機して、なにかあれば声をかけるという事で折り合いがついた。


 島にいる時も思ったけど、月ってもしかしてに積極的なのかもしれない。彼氏としては嬉しいけど、せめて2人きりの時だけにして欲しい。


 その後、俺がお風呂に入っている時に母さんが脱衣場に来て、月を無理やりお風呂場に放り込もうとしたのは別の機会にでも話そうと思う。

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