第168話 月の手伝い?

story teller ~横山架流~


 僕は自室に入るとすぐにスマホを取り出し、メッセージアプリを立ち上げ、友だち一覧からサッカー部時代の先輩のプロフィールを探す。

 米田と表示されたプロフィールをタッチしてトーク画面を開き、お久しぶりですとメッセージを送ると返事はすぐに返ってきた。


('米田' 久しぶり。急にどうした?)


 島で堅治くんたちと決めたように、先輩に鍛えて欲しい旨を伝えると、もうそういうのは卒業したと返事がくる。

 それでも僕はしつこいくらいにお願いしますと送る。するとメッセージではなく、先輩から着信が入る。


「もしもし」


「もしもし?お前しつこいんだけど。なんなの?」


「いや。どうしても先輩にお願いしたくて。無理は承知の上です。お願いできませんか?」


「・・・いつになく真剣に聞こえるけど、何かあったのか?」


 僕は葛原の事は伝えず、守りたい友だちが出来たからだと答える。

 先輩はあははと笑ってから明るい口調になる。


「そうか。サッカー部で嫌われて、学校でも嫌われてたお前に友だちが出来たのか。そりゃいい事だ」


「はい。その友だちも一緒に鍛えて欲しいんです。なにも格闘技を始めたいとかそういうのじゃないので、喧嘩の必勝法と言うか、心構え的な事でもなんでもいいんです。僕と僕の友だちを鍛えてください。先輩にしかお願いできません」


 仮に米田先輩がダメだったとしても他にも宛はある。それでも僕の知る限りこの人が1番頼もしい。だからこそ、食い下がってでもこの人にお願いし続けている。


 先輩はうーんと少し悩んみ、何か見返りはある?と聞いてくる。

 先輩がそう言ってくることは分かっていた、だから先輩が食いついてくる見返りを用意していた。


「――――でどうですか?僕知り合いなんですよ」


「まじで?嘘じゃないよな?」


「ほんとです。証拠もありますよ?ちょっと待ってくださいね」


 耳からスマホを離し、先輩に1枚の写真を送る。すぐ既読が付き、スピーカーにしていないにも関わらず、まじかよ!!と大きな声がスマホから響いてくる。


「声でかいです。ね?ほんとだったでしょ?」


「羨ましすぎるぜ・・・。断る理由はないな」


 ありがとうございますと伝えて、みんなとの日程を確認してから連絡しますと言って通話を終了する。あとは花江ちゃんの家が使えるかどうかわかれば日程を合わせるだけだ。


 ******


story teller ~四宮太陽~


「太陽くん。あーん」


 月が俺の口に玉子焼きを運んでくるので、それを受け入れる。


「もう少し奥まで入れた方が食べやすい?」


 食べにくそうにしている俺を見ながら、月がそう聞いてくるので、飲み込んでから大丈夫だよと伝えるとよかったと笑顔を見せる。

 月の食べさせ方は問題ないが、食べにくい理由は他にある。

 母さんと星羅が目の前で俺たちの様子を見ながらニヤニヤしているからだ。


 昨日帰ってきてから、腕を折った時ほどではないが指が使えないのは少し不便だとメッセージを送った為、月は朝から俺の家に来て、身の回りの世話をしてくれている。

 最初は遠慮して断ったのだが、俺の役に経ちたいといって聞かなかった。断り続けるのも申し訳ないので大人しく月のやりたいようにさせることにしたのだ。


「あの。母さんと星羅は部屋に戻ってくれない?食べにくいんだけど・・・」


「いやいや、それだと私たちがご飯食べれないじゃない。私たちの事は気にせず。続けて続けて」


「そうだよ。私とお母さんはご飯食べてるだけだもん。気にしないで」


 とは言うものの、2人は先程から手を止めて俺たちを見ることに集中している。

 月の2人の時に食べさせ合うのはよくやるが、他の人が見ている時にされるのは恥ずかしすぎる。


 月は恥ずかしくないのかと思い目を向けるも、特にそんな様子はなく、当たり前のように次のおかずを箸で掴んで俺の口に持ってくる。


「食べたいのがあったら言ってね!」


 俺の食事を手伝う月はニコニコと楽しそうにしている。

 もう諦めるしかないかと腹を括り、母さんたちの事は気にしないようにして月の優しさに甘えた。


 食事を終え、部屋に戻る前に歯磨きをしようと思い、歯磨きするから先に部屋に行っててと月に伝えてから洗面所に入る。

 しかし、なぜか月も一緒に洗面所に入ってくる。


「月?先に部屋に戻ってて?俺歯磨きしてから戻るから」


 俺がそう言うと、何を言っているのか分からないというように月は可愛らしく首を傾げている。


「歯磨きするんだよね?」


「うん。だから先に戻ってて?」


 俺たちはお互いの言いたいことがわからずに、ん?と首を倒し合う。えっと、月の言いたいことってもしかして・・・。


「あの。歯磨きも手伝おうとしてる?」


「うん。指使えないと大変でしょ?」


「いや、そこまでしなくても大丈夫だよ?左手でも磨けるし、なによりも恥ずかしいとかのレベルを超えてるよ」


 歯磨きまでしてもらうのはさすがに抵抗があるので断るが、何言ってるの?と月は反論してくる。


「歯磨きくらいしてあげるよ?歯ブラシ持って?お部屋で膝枕しながら磨いてあげるから!」


「いやいや子どもじゃないんだから。自分で磨かせてよ。口の中をじっくり見られるのは嫌すぎるから」


「・・・そんなに拒否らなくてもいいじゃん。太陽くんのお世話したいだけなのに・・・。」


 拗ねるとは思わなかった。

 頬を膨らませて、俯きながら人差し指同士をつんつんと胸の前でぶつけている。正直可愛さしかない。

 もう少し見ていたいが、放置しすぎると更に拗ねてしまいそうなので、俺は諦めて、わかったよと伝える。


「ほんとに?いいの?」


 機嫌を直したのか、目を輝かせて月は俺に迫ってくる。


「うん。いいよ。その代わり大きくは開かないからね?口の中見られるのはほんとに恥ずかしいから」


 やった!と彼女はその場でぴょんと少し跳ね、全身で嬉しさを表している。

 自惚れかもしれないが、月の俺への気持ちはとっくにカンストして、更に限界突破しているのかもしれない。じゃなきゃいくら恋人でも歯を磨きたいとは思わないだろう。


 そう考えると嬉しいと思う反面、やっぱり恥ずかしいから自分で磨きたいなと思い、複雑な気持ちで部屋に戻るのだった。

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