第166話 乱橋さんの謝罪と葛原との繋がり

story teller ~葛原未来~


 わたしはソファに座りながら足を1度上に上げ、目の前のローテーブル目掛けて振り下ろす。

 ガンッ!と大きな音が部屋に響き、わたしの前に座る表とその連れの男たちの体がビクッと震える。

 まぁこの人たちが恐れているのはわたしではなく、わたしの後ろに立っている八代だろうけど、そんな八代がわたしの言いなりになっているのを目の前で見せたから結果的にはわたしにもビビっているのだろう。


「太陽くんには手を出さないでって言わなかった?」


 わたしが床に正座している表たちを見下ろすような形でそう言うと、いやこいつが勝手にとかお前がやれって言ったんだろとかお互いに責任を押し付けようと必死になっている。

 はぁとため息を吐いてから、手を振って八代に合図すると八代は1歩前に出る。それを見た表たちは何も言わずに黙った。


「まぁいいわ。今後はちゃんと従ってね」


 最初は助けずに警察にでも捕まればいいと思ったが、こいつらのおかげで面白い物が見れたと思い、せめてもの情けで助けることにした。

 あの横山架流に対してぶつける事が出来るというのもあるが。


「太陽くんは強かった?」


 わたしの質問に対し、表たちはお互いの顔を確認するように見ながら、悔しそうな、それでいて恐怖の混じった顔をしている。

 そして、5人のうちの1人が代表して答える。


「強さでいえばそうでもない。俺たちが油断してたってのが大きい。素人がドロップキックするなんて思わなかったし、当たり所も悪かった。でも正直、次も四宮太陽とやりあえと言われたらやりたくない。喧嘩は腐るほどしてきたけど、あそこまで純粋に暴力を楽しんでるやつは初めて見た。怒りで我を忘れた奴には何人も会ってきたけど、そいつらは怒ってるだけで暴力を楽しんでた訳じゃないからな」


「わたしから見たら、あなたたちが太陽くんたちを一方的に殴ってる時も楽しそうに見えたわよ?」


「全然違うんだ。四宮太陽は違う。あいつは単純に暴力を楽しんでた。その場の空気やノリで楽しい気分になってるだけの俺たちとは違いすぎる」


 なんとなくだけど言いたいことはわかった。あの時の太陽くんは狂ってたと言いたいのだろう。

 乱橋穂乃果の家の塀に取り付けたカメラの映像を、遠隔で見ていただけのわたしには伝わりにくいなにかがあるのだ。


 でもを上手いこと使えば面白いことが出来るかもしれないと思い、無意識に笑みが零れる。


 表たちはそんなわたしを見て恐怖を顔に貼り付けているが、そんなのはお構い無しで笑いを止めることができなかった。


 ******


story teller ~四宮太陽~


「すみませんでした」


 乱橋さんは病室に入ってくるなり俺たちに向かって頭を下げる。

 何に対して謝っているのかが分かるため、俺たちはその謝罪を黙って受け入れる。


「来海ちゃんに会わせなければみんなに手を上げると脅されてました。逆に会わせてくれれば手は出さないと言われて、それで表さんの事を信じてしまいました」


「だとしたら俺たちより先に謝らないといけない人がいるんじゃないかな?」


 頭を下げ続ける乱橋さんに対して、俺は来海ちゃんに謝って欲しいと遠回しに伝える。

 利用されていただけとはいえ、悪い言い方をすると乱橋さんは来海ちゃんを売ろうとしたのだから。


「来海ちゃん。ほんとにすみませんでした。許されるとは思ってません。それでも謝らせてください」


 そう言って乱橋さんは下げた頭を更に床に近づける。

 そんな乱橋さんに来海ちゃんが近づくと、頭を上げて下さいと言ってから乱橋さんの手を掴む。


「悪いのはあの人です。穂乃果さんは悪くありません。私も同じ立場だったらきっと


 そこまで言うと、来海ちゃんは乱橋さんを抱きしめる。許して貰えて尚、乱橋さんはごめんなさいと言いながら涙を流す。


「まぁ穂乃果も反省してるし、なにより全部が穂乃果のせいじゃないからさ。ワタシはもういいかな」


「私も。怖い思いはしたけど、悪いのは穂乃果ちゃんを利用した表だし、もっと言えば表を利用した葛原さんだし」


 夏木さんの言葉を皮切りに、みんなも乱橋さんを許す雰囲気になる。元々俺個人的には、乱橋さんを責めるつもりもなかったからみんなも許してくれるならよかったと思う。

 ただ月が言うように、葛原が悪いというのなら俺が居るから葛原は手を出してくるわけだし、最終的には俺のせいなのかもしれない。

 ただそんな事を言えばみんなに違うと言われてしまうので口には出さない。みんなには気を使わせたくない。


 乱橋さんが泣き止むまで待っていると、落ち着いた彼女は来海ちゃんから体を離し、俺たちに向き合おってからもう1つ話がありますと言ってきた。


「どうした?」


「私が最近仲良くなった友だちが出来たって話したのは覚えてますか?」


「うん。覚えてるよ?それがどうしたの?」


「・・・・・・実は、その人は葛原さんだったんです。私には前崎真理って偽名を使ってたので気づきませんでした。でもあの日、表さんを助けに来たのが前崎さんで、私は表さんだけじゃなくて、前崎さん、いいえ、葛原さんにも利用されてたんだと気づきました」


 乱橋さんは俯いてしまうが、俺たちはそのまま黙って続きを話すのを待つ。


「その。私がみんなを実家に誘ったのも葛原さんに、みんなでゆっくり遊んだら?と言われたからなんです。きっとあの人は最初から私を利用してみんなに危害を加えるつもりだったんだと思います。新しい友だちが出来て浮かれてしまっていました。ほんとにすみませんでした」


乱橋さんは再度俺たちに頭を下げる。乱橋さんは葛原の顔を知らなかったわけだし、偽名を使って徹底的に彼女を騙すくらい葛原ならやりそうだ。これに関しては乱橋さんはなにも悪くない。


「そうだったんだ。でも乱橋さんは分からなかった訳だし謝る必要ないよ。それよりも、なんで葛原はわざわざ乱橋さんの実家に俺たちを誘導したんだ?この島じゃないと出来ない事があったのかな?」


「それは、その。」


 乱橋さんは何かを言おうとするが、歯切れが悪そうにしている。

 俺はなにか知ってるの?と聞こうとしたが、それよりも先に来海ちゃんがすみませんと声を出す。


「穂乃果さん体調悪そうなので外に連れて行ってもいいですか?」


 そんな風には見えないと思うが、そんな俺たちを無視して、穂乃果さん行きましょうと言って来海ちゃんは乱橋さんを連れて病室を出ていってしまった。


 なにか知ってるのであればあとで聞けばいいかと後回しにして、2人が出ていった扉を眺める。

 すると堅治が話題を変えるかのように俺に話しかけてきた。


「それで、太陽はあとどのくらい安静にする必要があるんだ?」


「傷自体は浅いからあと数日安静にしてからなら帰ってもいいってさ。戻ったら大きな病院で1度診察してもらえって言われたけど」


 不幸中の幸いでここでも処置できるくらいの傷だったらしい。それでも痛み止めが切れるとめちゃくちゃに痛いが。


「そういえば星羅。母さんには連絡した?」


「あー。うん。乱橋さんの家の電話で一応したんだけど・・・」


 言い淀む星羅を見てなんとなく察してしまう。きっと母さんはめちゃくちゃ怒っているのだろう。


「私からも説明したから大丈夫だと思うけど。やっぱ怒られちゃうよね?」


「えっなんて説明したの?」


 その説明の内容によっては帰ってから話を合わせなければならない。まさか正直に話してないよな?と不安になるが、月もその辺はちゃんと考えてくれていたらしい。


「散歩してて足を滑らせたって説明したから、もし帰ってからなにか聞かれたら話合わせてて?その方が都合いいよね?」


 俺は月にもちろんだよ。ありがとうと伝える。

 母さんには無駄な心配は掛けたくないし、喧嘩しましたなんて言う訳にはいかない。


「あぁ帰りたくない。もう私ここに住みたい」


 現実逃避をするように星羅は頭を抱えて椅子に座る。

 そんな様子を見ながら、俺たちは笑い合う。

 最後に色々あったが、それさえなければ楽しい旅行だった事に代わりないので乱橋さんさえ良ければまたみんなで来たいと思った。

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