第164話 ありえない訪問者と知らない自分

story teller ~四宮太陽~


 目が覚めると知らない風景が目の前に広がり、状況を把握するまでに時間がかかる。

 首を動かして周りを見ると、ベッドがいくつか並んでおり、薬品の匂いがする事から病室に居るのだと思う。


「太陽くん!」


 俺を呼ぶ声が聞こえて首を下に向けると、月が涙目で俺を見ていた。


「月?ここって」


「島の診療所だよ。太陽くんあの後倒れちゃって目を覚まさなかったんだよ」


「そうなんだ」


 俺は生返事をして、ぼーっとする頭が覚醒するのを待つ。

 そして、意識がハッキリしてきた頃にあの時の事を思い出す。


「月!みんなは!痛っ!」


「動かないで。太陽くん1番傷ついてたんだから。みんなも無事だよ」


 急に起き上がろうとしたので、全身に痛みが走る。次第に頭が熱くなり、怪我していたんだと思い出す。

 月は痛みで顔をしかめる俺の肩を優しく触り、ベッドに寝かしつける。


「どうなったの?」


 俺は横になりながら月に問いかける。

 すると、月は俺が倒れた後の事を説明してくれた。


 乱橋さんのお父さんが来たあと、俺たちも不審者だと疑われていたらしいが、乱橋さんと後から合流した花江さんのおかげで疑いは晴れたらしい。


 そして、表たちは乱橋さんのお父さんたちに押さえつけられ、俺たちはみんなこの診療所に運ばれたとの事だ。


「じゃあ、表たちは捕まったの?」


「それなんだけどね。実は解放されちゃったの・・・」


 俺は耳を疑い、どういう事だ!とまたしても体を起こそうとする。

 月はちゃんと寝ててと言ってから俺をベッドに横にして、説明し始める。


「太陽くんたちが運ばれたあと、私たちは穂乃果ちゃんのお父さんや島の人たちに色々と説明していたの。それで警察に連絡しようって事になったんだけどね。この島には駐在所しかないから、駐在の警察官同行で穂乃果ちゃんのお父さんの船で本土に連れていこうとしたの・・・」


 そこまで言うと、月は黙ってしまう。

 なにか言いたく無さそうな雰囲気を出しているが、俺はその先の説明が欲しい。

 そう思い、それで?と催促する。


「えっとね。そんな話をしてたら、その。葛原って名乗る女の人が現れたの」


「葛原が!?」


 予想していなかった名前が出てきたことで俺は驚きを隠せずに体に力が入る。

 月が言いにくそうにしていたのは葛原の名前だったのか。

 俺が本人だったの?と確認すると、秋川くんが本人だって言ってたと返事が返ってくる。堅治は葛原の顔を知っているので間違いないのだろう。

 俺は痛みを忘れて体を起こし、月の説明を待つ。


「葛原さん1人じゃなくて、加藤って名乗る男性と一緒だったんだけどね。その2人が、表さんたちを解放しろって言い出したの」


「それで言う通りにしたの?」


「もちろん。みんな反対したよ?でもその加藤って人が穂乃果ちゃんのお父さんに名刺を渡して何かを耳打ちした後、渋々分かったって言ってみんなに解放するように指示を出したの・・・」


 俺はどういう事なのか理解に苦しむが、その加藤っていうのには逆らえない何かがあったのだろう。


「みんなも最初はなんでだって穂乃果ちゃんのお父さんを責めてたんだけどね。あとで説明するからってみんなに言ってた」


「その説明は聞けたの?」


 俺がそう聞くと、月はふるふると首を横に振る。

 なんで葛原がこの島にいたんだ。ずっと居たって事か?直接来るなんて思いもしなかった。


「あとね。太陽くん」


「なに?」


 俺は乱橋さんのお父さんが加藤の言いなりだったのかあとで聞いてみようと考えていると、月は俺の手を握りながら話しかけてくる。


「助けてくれてありがとう」


「当たり前だよ」


 俺がそう答えると、月は何故か不安そうな顔になる。


「どうしたの?」


「・・・・・・助けてくれたことは嬉しかったし、感謝してるけど。・・・・・・あの時の太陽くん怖かった」


 月は顔を下に向けたままそう言ってくる。

 怖かった?なんでだ。

 あの状況が怖かったではなく、俺が怖かったというのはどういう事だ。

 俺は疑問に思い月を見つめていると、顔を上げた月と目が合い、俺の疑問に答えてくれる。


「太陽くんは自分で気づいてなかった?男の人たち殴ってる時、太陽くん笑ってたんだよ?」


 確かに楽しいとは感じていたが、笑っていたのは自覚がなかった。


「凄く楽しそうな顔で笑ってて、私も止めようかと思ったんだけど怖くて。ごめんね」


 今も怖いのか、俺の手に触れる月の手は少し震えている。

 俺は安心させようと月の手を強く握る。


「それは気づかなかった。ごめん。でももう大丈夫だから」


 俺の言葉を聞いて、不安そうな顔を笑顔に変え、うん。ありがとうと月は答えてくれる。

 暴力で楽しくなるなんてと自己嫌悪に陥る。

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