第163話 太陽の反撃
story teller ~四宮太陽~
何度か頭を地面に打ち付けられ、視界が揺れる。頭が熱を帯びていてとてつもなく熱い。
俺の上に乗っている男も息を切らしているので、それだけ必死に叩きつけていたのだろう。
俺は最後の抵抗の様に無意識に男の脚を優しく殴る。
「はぁはぁ。まだ意識あるのかよ」
男はそう言うと、再度俺の髪を掴み地面から少し浮かせる。
また地面に打ち付けられる。
そう思ったが、地面からの距離は離れたまま動かない。
「もうやめて!太陽くんが死んじゃう!」
「離せよ!邪魔だ!」
月と男が言い合っているのが聞こえる。
恐らく月が男の腕を掴んでいるのだろう。
少しの攻防が続いたあと、俺の頭は地面に落ちる。男が髪を離したのだ。
「この女、邪魔だって言ってるだろ!」
「いやっ!」
バキッという音が鳴り、倒れながら地面を見つめる俺の目の前に月が倒れてくる。
月は頬を押さえて俺の上を見ているので男に殴られたのだと理解する。
「もういいや。少し痛めつけた方が抵抗も少なくなるよな」
男はそう言うと俺の上から降り、倒れたまま後ろに下がっていく月に迫る。
「・・・・・・やめろ。月に近づくな」
小さく声を出すが、聞こえていないのか男は見向きもしない。
「来ないで!」
月がそう叫び、一瞬俺を見る。
助けて。
そう言われた気がした。
「おおぉおおぉぉぉ!!!」
月を助けなければと思うと同時に雄叫びを上げて、今まで動かなかった体に力を入れる。
視界は揺れているが、不思議と頭の痛みは感じられない。
立ち上がり、全力で月に迫る男を殴る。
ドゴッ。
振り返ろうとした男の鼻に綺麗に拳が当たり、男の体がよろける。
すかさず追撃の拳を男にお見舞いする。
「がっ!!」
今度は目の下に当たり、俺の指の骨と相手の頬骨が当たり、中指に鈍い痛みが走る。この痛みは知っている。当たりどころが悪く、折れてしまったのだろう。
だが今はそんな事はどうでもいい。
殴られて倒れた相手は手で顔を覆っているが、そのまま相手の顔を蹴る。
「いでぇぇええぇえ!!」
相手を殴った事によりリミッターが外れてしまったのか、はたまた怒りによるものなのか。手加減する事が出来なかった。
そのまま顔を踏みつけようとした所で、俺の体が横からの衝撃で吹き飛ぶ。
「かはっ。」
「おいおい。やりすぎだよ」
善夜に馬乗りになっていたはずの男は、俺が殴った相手を庇うように立ち指の骨を鳴らしている。
恐怖を忘れた俺は立ち上がり、その男に向かって走る。そしてその勢いのまま拳を振るが、場数の違いだろうか、拳は避けられ、カウンターを食らってしまう。
「・・・・・・いってぇ」
「嘘だろ。綺麗に入ったはずだぜ・・・」
男の言うように、カウンターは綺麗に俺の頬に入った。でも今の俺は痛みをほとんど感じる事が出来ず、倒れることも無く、頬を少し押さえるだけだ。
「おりゃぁあああぁぁあ!!」
再度男に向かって走り、拳を握る。
相手は予想していたかのように先程と同じ動きをするので、またカウンターを狙っているのだろう。
瞬時にそう判断し男との距離が近づいた時、俺は飛び上がり、両足を前に突き出す。
俺の放ったドロップキックは高さこそ無いものの、相手の胸辺りにヒットし、相手を突き飛ばす。
「ごほっ!!」
みぞおちに当たったのか、相手は突き飛ばされたまま胸を掻きむしり悶えている。俺はそのまま近づいて男の顔を踏む。
少し楽しくなってきた。
「四宮太陽ぉぉおぉお!!!」
楽しんでいる時に表に名前を呼ばれ、イラッとしてしまう。
ゆっくりと表の方を向くと、怒りの表情を顔に貼り付けてこちらを睨んでいた。
「黙って見てたら調子に乗りやがって。人の連れに手を出してタダで済むと思うなよ。殺してやる」
「俺の彼女や友だちに先に手出しといてよく言うよ。お前が死ねよ」
俺たちはお互いに睨み合ったままゆっくりと近づく。
そして拳が届く距離になり、手を後ろに引いて殴ろうとした時、後ろから腕を掴まれる。
振り返ると、残った2人の男が俺の腕を掴んでいた。
まずい。3対1じゃ勝ち目が―――
そう思った瞬間左頬が殴られるが、腕を掴まれたままなので、倒れることも出来ない。
そのまま羽交い締めにされ、表の拳を受け入れるだけのサンドバッグになってしまう。
「あははははははは。死ね。死ね。死ね。死ね。死ねぇえええぇぁぇああぇぇ!!!」
表は気持ち悪い笑みを浮かべながら俺の顔、胸、腹など、全身を殴ってくる。
麻痺しているのか痛みはほとんどないが、この状況は良くないと思い、抵抗するも腕を振りほどく事が出来ない。
「太陽を離せ!」
「俺らも行くぞ!」
もうダメかと思ったが、善夜が俺を羽交い締めにしている男にしがみつき、それを見た堅治がもう1人の男を殴りつける。
「僕もまだやれる、よっ!!!」
いつの間にか起き上がった架流さんが表を後ろから蹴り、表は俺にもたれ掛かるように倒れ込む。
「いてぇ!横山架流!てめぇ!」
善夜と堅治のおかげで解放された俺は、もたれてきている表の頭を両手で丁寧に持つ。
「四宮太陽!何してんだお前!」
「うるさいな。暴れるなよ」
表は俺の手を退けようと、必死に腕を掴んでくるので少し狙いが付けずらい。
「太陽さん、俺が押さえるんでやっちゃって下さい!」
暴れる表の腕を優希くんが後ろから抱きつく様に押さえる。
表の今の体勢は中腰でお辞儀をしているような状態で、高さも角度も丁度いい。
「まて、やめろ。四宮太陽。謝る。すまない。だからやめてくれ。」
表はこれからなにをされるのか分かったかのように必死に謝り、涙目になるが、それでも俺は止めない。
「もう遅いし。お前のバンドってビジュアル系だっけ?まぁどっちみちテレビに出るには顔は大切だよね」
俺はニコリと笑いそう言い放つ。
「まって。それはほんとに痛いからやめ―――」
表が言い切るのを待たずに、俺は両手で掴んだ表の頭を勢いよく下に下げ、タイミング良く膝を振り、上に立てる。
相当強く当たったのか、表の顔と俺の膝がぶつかった瞬間に、表の頭が俺の両手から解放される。
「歯が欠けたり、鼻が曲がったりしないといいね」
その場に倒れ込み、動かなくなった表にそう言い残して、俺は残りの2人の男に向き直る。
堅治と善夜も俺と同じで痛みを感じないのか、何度殴られても立ち上がり、男に掴みかかる。
「なんだこいつら!さっきまでこんなに力なかったぞ!」
「ぶっ壊れてんのか!クソ!なんだよ!しつけぇよ!」
俺はゆっくりと文句を言う2人に近づきながら声をかける。
「5対2だけどどうする?」
2人は化け物でも見るかの様に1度顔をしかめるが、それでも降参しないのか表情を元に戻し睨んでくる。
「お前らくらい俺たちだけでも十分だ」
「やられっぱなしで終われるかよ」
正直、表に膝蹴りした辺りから体が物凄く重いので降参して欲しかった。
もう少しだけ動いてくれと拳を握るが、腕が上がらない。膝も震えだして今にも倒れそうだ。
俺がやられてもみんながいれば。
自分はもう無理だと自覚し、あとは堅治たちに任せようと思ったが、俺たちの後方、乱橋さんの家の門の方から声が聞こえる。
「なんだこれは。廃墟にいるんじゃないのか!」
「船長!たぶん廃墟からここに移動してきたんですよ!」
「そうか。なら不審者はどいつだ!!!!!」
耳がキーンとなりなんとか振り向くと、そこにはガタイのいい大きな男性が立っていて、周りには同じような体つきの若い男性が数名付いている。
「誰だ」
俺がボソッと口に出すと、乱橋さんが男性を見て驚きの声を上げた。
「おとうさん!?」
大声の主は、乱橋さんのお父さんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます