第162話 淡い期待と深い絶望
story teller ~四宮太陽~
「いやだ!!離して!」
俺たちが乱橋さんの家の近くまで来ると、そんな叫び声が聞こえてくる。誰もなにも言わないが、素早く動かしていた足を更に早く動かす。
「ほーら頑張れ頑張れ!」
俺たちが乱橋さんの家の前に着くと、星羅が男の1人に腕を捕まれ、月たちが星羅の体にしがみついて引っ張っており、残りの男たちは周りでその様子を見ている様だった。
「みんな!!」
「太陽くん!助けて!」
俺が叫ぶと、月たち、それから男たちの視線が一斉に俺に集まる。
月たちがまだ手を出されていない事に安堵を覚え、緊張が解けそうになるが、実際状況はなにも良くないはないので、安心するにはまだ早いと自分に言い聞かせてから男たちを睨みつける。
「あれ?四宮太陽?さっきまでいなかったのに」
「どこにいたんだろ。良一に手を出すなって言われてるからこいつがいるのはやだな」
「別にいいんじゃないか?俺らは良一がやり取りしてる女とは会った事ないし、約束守る義理なんてないだろ」
心のどこかで、表と同じように俺には手を出せないんじゃないかと期待していたが、この男たちにはそんな事はどうでもいいらしい。
参ったな。直接やりあって勝てるとも思えないし、男たちを挟んで向こう側にいるため、月たちを連れて逃げ出すのも困難だ。
くそっ。今この場をやり過ごせるだけでもいい。なにかないか。
俺は目だけ動かし、辺りを見渡しながら思考を巡らせる。
しかし、使えそうな物もなく、案も思い浮かばない。
周りで様子を見ていた3人の男たちも俺たちを警戒しているように身構えている。
真正面からぶつかるしかないのか。
もうそれしかないと覚悟を決めて、飛び出すために脚に力を入れる。
だが、俺よりも先に動いた人がおり、俺は中腰のままで動きが止まる。
俺の隣から飛び出した来海ちゃんは、星羅を掴んでいる男へ体をぶつける。
さすがに中学生の、しかも女の子のタックルでぶっ飛ぶ様な事は無かったが、それでも不意をつかれたのか星羅の手を離す。
そして急に男が手を離したことで、星羅の体は月たちの方に倒れ込み、4人揃って尻もちをつく。
「星羅ちゃん!立って!」
月はすぐに起き上がると星羅の手を取り、そのまま男たちから距離を取る。
「来海ちゃんも来て!」
月が下がったのを確認してから、夏木さんが来海ちゃんに向かって手を伸ばしながらそう言うも、その手を取らない。
なんでだ!
そう思ったが違和感を感じる。
星羅の手を掴んでいた男と来海ちゃんの間には、他の3人の男が立っている。だから本来であれば、来海ちゃんがタックルする前に止められるはず。しかし、その3人が動かなかったのだ。
と言うことはつまり、この男たちは来海ちゃんには手を出せない。
理由はわからないが、恐らく表に止められているとかそういう事だろう。
だがこれはチャンスでもある。
来海ちゃんが月たちを守るように動ければ、もしかしたら月たちをこちら側に連れてこられるかもしれない。
情けない話だが、この状況をどうにか出来るとしたら来海ちゃんしかいない。
「来海ちゃん!」
俺が名前を呼ぶと、来海ちゃんは察したかのように頷いてゆっくりと月たちに近づく。
「行きましょう。私が守ります」
そう言って、男たちとの間に入るように両手を広げる。
月たちは困惑しているようだが、来海ちゃんに従うように、来海ちゃんを間に挟んでゆっくりと歩き出す。
男たちもただ突っ立っているわけではなく、月たちの行く手を阻むように立ち塞がり、なかなかこちら側に来られない。
大人しく通してはくれないかと思い、少し焦れったいが、来海ちゃんが月たちの前に立っている限りは男たちも手が出しずらいのだろう。
正直ここまで来海ちゃんに警戒してくれるとは思っていなかった。嬉しい誤算だ。
俺は堅治たちと顔を合わせ、まだ終わってもないのに安心して気が緩んでしまった。ほんの少しだけ。しかし、その空気が良くなかった。
次の瞬間、隣にいた善夜が勢いよく吹っ飛ぶのが見えた。
なにが起きたのかわからずに戸惑っていると、俺の背中に強い衝撃が走り、体が背中側にお辞儀をしたかと思うと、勢いよく前に飛んでいく。
背骨に激痛が走り、受身を取る事が出来なかった俺は地面に顔から倒れ込み、前に突き出た胸が思いっきりぶつかり無理やりに息が吐き出される。
「がっ!!ごほぅっ!!」
咳き込むことも出来ずに悶えるが、なにが起きたか把握する為に、目だけでも動かす。
俺の立っていた位置には表がおり、後ろから蹴られたのだと理解する。
「お、も・・・・・・て・・・」
肺に残った少しの空気で小さくそう言ったあと、堅治たちに警戒しろと伝えるために息を吸い込もうとするが上手くいかない。
そして俺がそう伝えるよりも早く、架流さんが表を蹴るが、ボロボロの体では力が入らなかったのだろう。表の脇腹に当たった脚を表は掴み、足払いをして架流さんを地面に倒してしまう。
「お前ら!早くこいつら片付けろ!女はそれからだ!」
表がそう言うと男たちは堅治と優希くんを殴り、地面に倒してから馬乗りになっている。
そして俺の体にも重さが加わったかと思うと、髪の毛を捕まれ、地面に勢いよく叩きつけられる。
痛いどころではない。これまでに味わったことの無い衝撃が頭に伝わり、意識が飛びそうになる。
それと同時に、俺の心は絶望に染め上げられる。
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