第161話 計画なんてない
story teller ~寄宮花江~
その男たちのニヤニヤした笑顔を見た瞬間、嫌な予感がしたわたくしは、すり足で少しずつ距離を取り、離れていくことがバレていないと確認してから穂乃果さんの家に走った。
しかし、穂乃果さんの家には誰もおらず鍵がかかっている。
どこか空いている窓はないかと家の周りを1周しながら確認するが、当たり前のようにしっかりと施錠されていた。
どうしましょう。とりあえず港に行けば誰かいるかもしれません。
そう思い、港に向けて急ぐ。
普段の運動不足が祟り、少し走っただけで肺が痛くなるが、今はそんな事気にしていられない。
港に着くと数名の人影が1隻の船の周りに集まっているのが見える。
わたしくはそこに近くづき、すみませんと声をかける。
するとその中に穂乃果さんのお母様がいたらしく、前に出てきてどうしたんですか?と聞いてくる。
「みんなで肝試ししてたんじゃないんですか?他の皆さんは?」
「あの、森に不審者が、いて、はぁはぁ。わたくしだけ助けを呼びにきま、した」
膝に手を付いて、息を切らしながら最低限の情報だけを伝える。
「不審者ですか!?お父さん!」
穂乃果さんのお母様が船の方に声をかけると、大きな男性が降りてくる。
お父さんと呼ばれた人だろうか。
「君は穂乃果の友だちか?」
低く冷たい声でそう言われ、威圧感を感じながらはいとだけ答える。
するとその人はふむと少し考える様な素振りを見せてから、おい!と船内に一言叫ぶと、船内から若い男性が数名降りてくる。
「不審者がいるのはどこだ?」
再度わたくしを見たその男性に聞かれ、森の中の廃墟に続く道ですと答える。
わたくしの言葉を聞いた男性たちは一斉に走り出す。
「ちょっと待ってください!」
わたくしもついて行こうとするが、穂乃果さんのお母様に止められてしまう。
「寄宮さんは私と一緒にいましょう。危ないですから」
そう言って、抱きしめてくれる。
優しく、安心させるように頭を撫でながら。
「怖かったですよね。でももう大丈夫ですよ。あの人が向かったから、きっと大丈夫です」
もう大丈夫。その言葉を聞いて、わたくしは安堵し、穂乃果さんのお母様に体を預けた。
******
story teller ~四宮太陽~
パチンという乾いた音がなり、ゆっくりと頬を押さえながら、乱橋さんはやっとこちらに目を向ける。
「えっと・・・」
「すみません。私が叩きました」
泣き腫らした目で訳が分からないと言った様子で来海ちゃんを見ているが、説明を後回しにして架流さんが堅治の肩を揺らしながらよびかける。
「堅治くん!」
「・・・・・・なんですか?」
辛うじて返事はあるが、目は虚ろのままだ。
「これから涼ちゃんたちを助けにいくよ」
堅治は一瞬架流さんを見るが、もう終わりですよと言ってまた俯いてしまう。
それでも架流さんは諦めずに堅治の肩を掴んだまま声をかける。
「確かに今の状況は最悪だよ。でもまだ最悪の結果になった訳じゃない。だからしっかりしろ」
それでも俯く堅治に対し、俺も続けて声をかける。
「堅治。これも葛原が関わってるんだ。今諦めたら葛原の思う壷だ。冬草さんは堅治が助けに来てくれるって信じてるんじゃないかな?そう信じて逃げ続けてくれてると思うよ」
俺が葛原の名前をだしたことで、みんなの視線を集めるが、それを無視して堅治に目を向け続ける。
月たちが捕まっていないなんて、あくまでも俺の希望の域を出ない。
でもわからない以上それを信じるしかないのだ。
「まだ間に合うのか?」
「うん。絶対に間に合う。間に合わせるんだよ」
少しだけ生気の戻った堅治の目を見て、俺は畳み掛ける。
「俺たちは今までもみんなで乗り越えてきた。今回も大丈夫。絶対みんなを助けられる」
堅治は分かったと短く返して、顔を上げてくれた。
まだ本調子ではないだろうが、それでも俯いたままよりは全然いい。
「じゃあ行こうか」
「行くって、作戦も何もなしにいくんですか?」
立ち上がり、みんなのところに向かおうとする架流さんに、優希くんが不安そうに問いかける。
「もう作戦とか立ててる時間はないかな。諦めずに特攻するしかないと思う」
そこまで言ってから、架流さんは笑顔を見せながら、まぁでもと続ける。
「みんなが既に乱橋さんの家に逃げてて、警察に通報してる可能性だってあるし、最悪僕たちが騒げば島民が気づいてくれる可能性もある。だから下手に作戦を立てて時間を潰すよりは早くみんなと合流した方がいいと思う」
俺も架流さんの意見に賛成だ。
どうなっているのかわからないよりも、合流して現状を把握出来た方が動きやすい。
その為にもまずは合流最優先で、その後の事はその時に考えればいい。
「行こう。こうしてる間にも月たちは追い詰められているかもしれない」
俺の言葉でみんなが立ち上がり、乱橋さんの家に向かって走り出す。
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