第159話 唯一の希望は来海

story teller ~雷門来海~


「えっ?あれ?から聞いてない?」


 急に現れた男性のうちの1人のその言葉を聞き、私はその場から動けなくなる。


 良一ってもしかして表さん?表さんがこの島に来てるってこと?


 私と共に世間を騒がせた人であり、私に言いよってきた人。

 この男性たちは表さんの知り合いだとしたら、なんで本人じゃなくてこの人たちが私たちの前に?


 私がそう考えている間に、堅治さんが殴られ、善夜さん、優希くんも殴られて動かなくなる。

 その光景を目の前で見て、恐怖から声も出せない。


 その人たちは、倒れた堅治さんたちを放置して、星羅ちゃんや月さんたちの腕を掴み引っ張っていく。

 この後なにが起こるのかは中学3年生にもなれば簡単に想像出来てしまう。


 嫌だ。怖い。


 私は足の力が抜け、その場にへたり込むが、男性たちは私の事が見えていないかの様に空気として扱い、存在がスルーされる。


 もしかして私には手を出さないの?


 私は自分が無視されている状況に安堵してしまい、そんな自分に嫌悪感を抱く。

 表さんが関わっているとしたら、みんながこんな目に合っているのは私のせいなのに、なんで私は安心しちゃったんだろう。


 私が自分自身を少しずつ嫌いになりながら、みんなの様子をなにも出来ずに眺めていると、森から架流さんが飛び出してきてすぐにみんなを助けに向かう。

 架流さんが男性たちを蹴り、月さんたちが解放される。


 やった!


 私はみんなが解放された安堵から、少し体が動くようになり、すぐ後ろにある茂みに転がり込む。

 虫や汚れが気になるが今はそんな事を言っている場合じゃない。


 月さんと涼さんは堅治さんたちに駆け寄り、声をかけなにかを話した後すぐに走って行ってしまう。

 光さんと星羅ちゃんは首を動かしながら走って近づいてくるが、そのまま私の前を通り過ぎて月さんたちの後を追っていく。

 たぶん私を探したが、暗闇に紛れていたため見つけられなかったのだろう。


 そして、ドゴッと言う低い音がなったかと思うと、男性2人が月さんたちを追って走っていく。


「不意打ちで油断した」

「女の子たち追わないと」


 えっ?架流さんが居たはずなのに。


 私は茂みの隙間から架流さんの様子を見ると、動かなくなった架流さんを残った2人の男性が何度も踏みつけ、ゆっくりと歩きながらみんなの後を追い始めた。


 辺りが静かになり、私は恐る恐る茂みから出る。


「善夜さん、大丈夫ですか?」


 1番近くにいる善夜さんに声をかけるが呻いていて返事がない。優希くんも同じで痛みに震えているだけで返事はくれない。

 堅治さんに至っては、涙を流し、目が虚ろになっている。


 架流さんは。架流さんは大丈夫だよね。


 私が架流さんに駆け寄ると、心配させないようになのか笑顔を浮かべているが、無理やりに笑っているのが伝わってくる。


「・・・怖い思いさせちゃってごめんね。来海ちゃんだけでも無事でよかったよ。ははっ」


「ごめんなさいは私の方です。表さん、私と熱愛報道のあった人が関わっているかもしれないです。だから私がいなければこんな事には・・・」


 本当ならすぐにでもみんなを助けに行かなければならない。でも私が行ったところで役に経たないと諦めてしまっている。

 私は自分を責め、みんなに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになり、涙が溢れ出す。


「私がいなかったら・・・。うぅ・・・ひっ、ぅ・・・私がいたから」


「来海ちゃん、自分を責めないで。今来海ちゃんに出来ることをしようか」


 私に出来る事?


 そんな事があるのかと架流さんの顔を見つめる。架流さんは優しく笑いながら私の頭を軽く撫でたあと、僕たちは動けないからさ、来海ちゃんだけが頼りだとと言ってから続ける。


「君と表良一の間になにがあったのかなんとなく想像出来るし、表良一が来海ちゃんを追ってここまで来たからこんな事になってるのもなんとなくわかる。でも今はみんなを助けることを優先しようか。今ね、太陽くんが森の中で、穂乃果ちゃんを守りながら表良一と戦ってる。表良一と会うのは怖いかもしれないけど、太陽くんを助けに行くんだ。そしてその後に太陽くんと2人でみんなを助けるんだよ。今回はでも、絶望するのは出来ることを全部やってからだよ。いいかい?君のせいじゃない。君のでみんなが助かるように動くんだよ」


 私のおかげでみんなが助かるように・・・。


 そうだ、まだ私が動けるし、月さんたちだって捕まってないかも知れない。

 架流さんの言葉で少しだけ気持ちが楽になる。


「わかった?わかったらそのまま道に沿って進むんだよ。そしたら太陽くんに会える。僕も少しだけ休んだらみんなを助けに行くからさ」


 私を安心させるための強がりだとわかる。

 この人はこんな状況でもみんなの為に、私の為に強がってくれた。なら動ける私が動かない訳にはいかない。

 私は涙を拭い、わかりました!行ってきます!と力強く返事をしてから森に入る。

 暗くて怖い。でもそんな事気にして居られない。

 早く太陽さんを助けて、みんなも助けるんだ!


 少しの希望を胸に、私は道に沿って廃墟を目指した。

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