第157話 表良一の計画

story teller ~四宮太陽~


「なんでこんなところに・・・」


 そう発言してから気がつく。

 どうやって知ったかわからないが、こいつは来海ちゃんを追ってここに来たのだろう。

 そして、乱橋さんを脅すなりして来海ちゃんをこの場所に連れてくるように指示したのだ。

 だが、乱橋さんとの何かしらの約束を破ってみんなに危害を加えようとしている。


 俺は乱橋さんを支えながら、表から目を離さずにじっと睨む。


「なんで睨むの?俺はただ恋人に会いに来ただけだよ?」


 恋人?来海ちゃんのことだろうか。成人男性と中学生が恋人?あの報道はほんとだったのか?

 一瞬ほんとに2人が付き合っているのかと考えるが、それならば堂々と来海ちゃんに会いに来るはずだ。

 瞬時にこいつを来海ちゃんに会わせる訳には行かないと思い、乱橋さんを立ち上がらせながら、森から出る道を塞ぐように立つ。


「乱橋さん、ごめんだけど自分で立てる?こいつを来海ちゃんのいる場所に行かせたらダメだ。だから家に戻って乱橋さんのお母さんに不審者がいるって伝えて、もしくは警察に連絡して欲しい。この島にも駐在の警察官くらいはいるよね?」


 早口でそう伝えるが、乱橋さんは俺に体重を預けたまま泣いていて、聞いているのか聞いていないのかわからない。

 これなら架流さんにお願いするべきだったかと後悔する。


「あのさ、邪魔なんだけど?君に用はないし、どいてくれる?」


「力ずくでどかしたらいいんじゃないかな?それともその細腕じゃ無理?」


 正直怖いが、俺にヘイトが向けば来海ちゃんのところに行かせないで済むかと思い煽る。

 表は俺の発言に怒りの表情を見せるが、すぐに冷静さを取り戻し、すっと表情を元に戻す。


「はぁムカつくガキだな。殴ってやりたいがこいつはしなぁ」


 殴れない?

 理由はわからないが、表は俺の事を殴れないと言った。向こうが手を出せないなら好都合だ。

 俺は絶対にここを退かない意志を示すために、乱橋さんを支えている方とは逆の腕を横に広げる。


「俺はほんとに来海に会いに来ただけなんだけど。どいてくれない?」


「もし純粋に会いに来ただけだとしても、来海ちゃんに確認してからじゃないと会わせられない。そもそもなんで来海ちゃんがこの島にいるって知ってるんだよ」


 俺が疑問を投げかけると、表は少し悩む素振りを見せたが、まぁいいかと言って続ける。


「お前の隣で泣きじゃくってるその女が教えてくれたんだよ。まぁ正確には、その女から情報を貰ったやつから俺が聞いたんだけどな」


「どういうことだ・・・乱橋さんは誰に、何のために・・・?」


 理解が追いつかない。乱橋さんはこの人が来海ちゃんに会いに来ることを知っていて俺たちを誘ったのか?乱橋さんが来海ちゃんを嵌めた?

 訳が分からずに隣で泣いている女の子に視線を送るが、泣きながら俯いているので、答えてはくれない。

 理由は後で聞けばいいと思ったが、意外にも表は素直に俺の疑問に答えてくれる。


「この女はなにも知らなかったんだよ。ただにアドバイスされてお前らを誘っただけ。そして無事にお前らを誘えたって情報をが聞いただけ。だから来海がいる事も知ってたし、乱橋だっけ?そいつを使えば来海に楽に会えると思ったんだよ」


 なるほど。乱橋さんは来海ちゃんを嵌めた訳ではなく、利用されていただけだと。

 それよりも気になる情報が、いくつか表の口から出たことを聞き逃さなかった。


「これも葛原の計画なんだな?」


 表は俺のセリフを聞いて、やばいと思ったのか口を手で覆うわざとらしいリアクションを取る。おおかた葛原から名前は出すなとでも言われていたのだろう。

 表の反応から察するに、乱橋さんにも偽名を使って近づいたに違いない。


「あと、俺らって言ったよね?ってことはあんた以外にも誰か来てて、そいつらが俺の友だちに手を出そうとしたってことかな?だから乱橋さんは話が違うってあんたに泣きついたんじゃない?」


 もう俺にはなんとなく何が起きているのか分かっているが、目の前の男にそう問いかける。


「さぁね。仮にそうだとしてもお前になにが出来るの?」


「向こうに架流さんが向かったからもう大丈夫。俺はあんたを来海ちゃんに会わせないようにするだけだよ」


 俺は架流さんが向かったことで安心しきっているが、そんな俺の心を読んだかの様に表は笑い出す。


「ふはは。横山架流が強いってのは聞いてるよ?でもそれって、今までのヤツが弱かっただけなんじゃない?横山架流より強いやつがいたらどうする?」


 俺はその言葉を聞いて一気に心拍数が上がる。

 あの中学生が、九十九が弱かった?そんなはずはないと思いたい。

 しかし、実際のところ架流さんよりも強い人はごまんといるだろう。それくらいは理解している。

 でももしその強い人が、今、この時、この瞬間にこの島にいるとしたら。それが架流さんの前に現れたとしたら。


 俺は月たちが危ない!と乱橋さんを支えたまま表に背を向けて走り出そうとする。

 しかし、表は乱橋さんの腕を掴み引っ張る。

 乱橋さんは無気力にされるがまま表の腕の中に吸い込まれてしまう。


「離せよ。乱橋さんを離せ!」


「お前に手を出すのはダメって言われてるけど、この子に手を出すのは許可出てるんだよね。だから動くなよ?動いたらこの子の顔がぐちゃぐちゃになるかもよ?」


 表は勝ち誇ったようにあはははははと高笑いをしながら、俺から少しずつ距離をとる。

 その笑い声は耳触りが悪く、今すぐにでもかき消したいが、近づけば乱橋さんがまた殴られるかもしれない。

 俺は情けなくもその場から動けなくなってしまった。

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