第156話 肝試し

story teller ~四宮太陽~


 昨日の雨が嘘のように晴れ、明日には家に戻るということで、最後になにか夏らしい事をしようと言う話になり、なにか無いかとみんなで考える。

 海にも行ったし、花火もした、他に何かあるだろうか。

 すると乱橋さんは提案があるらしく、夜限定になるのですがと言いながら挙手する。


「き、肝試しなんてどうでしょうか?」


「いいね!肝試し楽しそうじゃん!」


 堅治も乱橋さんの提案に乗り気な様だが、月は俺の隣でめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。


「でも肝試しって言ってもどこにいくの?夜にその辺歩くだけ?」


「えっと、四宮先輩たちは分かると思いますが、森に廃墟があります。中に入ったらダメだと思いますが、その近くまで行くというのはどうですか?」


 乱橋さんは提案者にも関わらず、なんだか少し様子がおかしい気がする。もしかして提案しといて怖いのかな。

 まぁでも夜の森なら確かに肝試しにはうってつけの場所だ。暗いから危ないとは思うが、みんなで一緒にいけば問題ないかもしれない。


「月はどう思う?」


 俺は隣で肝試しかーと1人乗り気じゃない月に声をかけると、嫌そうな顔をしながらも、みんなが行くなら行くと言っている。たぶん空気を悪くしないようにしているのだろう。


「じゃあ反対の人がいなければ、肝試しにしますか」


「うん。ライトとかちゃんと用意しとかないとね」


 月以外はみんな乗り気なようで、あっという間に肝試しをする事が決定してしまった。最中は月の手をしっかり握っててあげよう。


 ______


 森に続く道に着くと、乱橋さんはここで人数を分けませんか?と言ってきた。


「その方が怖さが増すのではと思うんですが、どうでしょうか?」


「確かにそうですね。その方が盛り上がるかもしれません」


 意外にも冬草さんが乱橋さんに乗っかる。冬草さんは怖いの得意なのかな。

 すると不意に架流さんがちょっと待ってと言って俺たちを止める。


「昨日の雨で森の中がどうなってるか分からないし、先に僕と太陽くんだけで様子みてくるね?」


「えっ?ちょっと架流さ―――」


「ほら太陽くん行くよ」


 乱橋さんが架流さんになにか言いかけるが、それを無視して戸惑う俺の背中を押し、架流さんは森にどんどんと進ませる。

 みんなから十分離れた事を確認するかのように後ろを振り返り、足を止めた。


「急にどうしたんですか?乱橋さんがなにか言おうと―――」


「太陽くんは前の方を歩いてたから気づかなかったかもしれないけど、ここに来るまで穂乃果ちゃんは後ろの方で様子がおかしかったんだよね」


 架流さんは俺が話終わるのを待たずに、言葉を重ねてくる。


「そうなんですか?」


「うん。それと花江ちゃんから聞いたんだけど、昨日穂乃果ちゃんは人に道案内をするために花江ちゃんたちから離れた時間があったらしいんだけどね。その後戻ってきてから様子がおかしかったらしくてさ。それでとりあえず僕と花江ちゃんが穂乃果ちゃんの様子を見ておこうって事になったんだ」


「だから俺たちから少し離れて後ろの方を歩いてたんですか?」


 俺の問いかけに、そういう事と返してくる。

 2人は何かに勘づいていて、それで乱橋さんの事を見ていたらしい。

 言われてみれば、廃墟に行こうと提案してきた時も様子がおかしかった気がするし、森の前に着いてからわざわざ人数を分けようと言うのもおかしな気がする。


「じゃあもしかして、俺たちが先に廃墟に行くのって何かがあるかもしれないから警戒したからですよね?」


 俺の考えは的を得ていたのか、架流さんは黙って頷き、歩き出す。

 そして視界が廃墟の外観を捉えた頃に、架流さんは話し出した。


「僕たちの考えすぎならいいんだけど、とりあえず廃墟周りを見てみようか」


 俺たちは廃墟に近づき、スマホのライトで周りを照らしながら1周してみる。

 しかし、特におかしいところはないように思える。


「特になにもないように見えますよ?」


「いや、太陽くん。僕たちの予想は当たったっぽいよ」


 架流さんはそう言うと、腰を少し低くして廃墟の方を警戒しだした。

 俺も釣られて廃墟に視線を向けるが、特に何もないように見える。


「誰ですか?出てきてください」


 架流さんが廃墟に向かって呼びかけると、チッと舌打ちが聞こえ、中から男の人が出てきた。

 どこかで見覚えのあるその男は、不貞腐れた様に頭を掻きむしり、ため息を吐いている。


「あなたは誰ですか?ここで何してるんですか?」


 架流さんはその男から目を離さずに問いかける。


「お前ら2人かよ。ってことは向こうは少し厳しいかもしれないな」


「向こう?なんの話をしてるんだ?」


 俺は男の言うことが理解出来ずに考え込む。

 だが、架流さんは理解出来たのか、まずいなと焦っている様子だ。


「太陽くん。すぐにみんなのところに戻ろう」


「どういうことですか?」


 俺は架流さんに疑問をぶつけるが、返答は無い。その代わり、男から目を離さないようにしつつ、来た道を戻ろうとしている。

 理解出来ないが、なにか大変な事が起きているかもしれないと思い、俺も架流さんに倣って来た道に視線を移す。

 するとその道から、誰かが走ってくるのが見えた。

 誰だ?

 そんなふうに思いながら、じっと見つめていると月明かりで走ってきた人の顔が一瞬見える。それは乱橋さんであり、泣いているようだ。

 乱橋さんは長い髪を靡かせながら俺たちの横をそのまま通り抜け、廃墟から出てきた男の人の腕をぶつかるように掴む。


「話が違います!どうしてですか!みんなには手を出さないって!」


「うるさいな。お前だって来海をここに連れてくるって話だったのに、四宮太陽と横山架流を送り込んできたじゃねぇか!」


「それは・・・・・・。でも!なんで他の人たちが森の前で待機してたんですか!あなた1人だって話じゃ―――」


「うるせぇ!!最初からこういう計画だったんだよ!」


 バチン!!


 あたりに何かが弾けるような音が鳴り響く。男が腕にしがみつく乱橋さんの頬を平手打ちしたのだ。


 乱橋さんは勢いで腕を離し、その場に倒れ込む。


「・・・・・・っ。うぅ、ひっ・・・ぅ。どうして。どうしてなんですか」


「乱橋さん!」


 俺は乱橋さんに駆け寄り、体を支える。

 この人と乱橋さんが繋がっている事はわかった。だがこの様子だとなにか想定とは違うことが起きているようだ。


「架流さん!戻ってください!みんなをおねがいします!」


 乱橋さんたちのやり取りから察するに、みんなのいる所でなにか起きているのだろう。

 月の事が心配だが、乱橋さんを放置も出来ないし、俺よりも架流さんが戻った方がいいと判断してそう叫ぶ。

 それと同時に、架流さんは返事もなくすぐに走り出してくれた。


「あーあ。行っちゃった。まぁいいや。あいつらなら問題ないか」


「なんの話か知らないけど、あなたはなにを企んでるんだ」


 俺は男を睨みつけながらそう問う。

 そして、その男が俺を見た時に気がついた。

 この男は、来海ちゃんとの熱愛報道で世間を騒がせたバンドマン、表良一おもてりょういちだということに。

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