第155話 男子部屋は異空間
story teller ~寄宮花江~
「タッチ!花江お姉ちゃんの鬼ー!!」
「逃げろー!」
わたくしたちは、穂乃果さんの中学時代のクラスメイトの小学生たちと鬼ごっこをして遊んでいた。
小学生のスタミナはものすごく、わたくしはすぐに疲れてしまうので恰好の的だ。
「はぁはぁ。ま、待ってください」
疲れた体を無理やり動かし、タッチして来た男の子を追いかけるが、元々足の遅いわたくしではいつまで経っても追いつけない。
すると隣に月さんがやって来て、私が代わるから休憩してていいよと言ってくれる。
わたくしはその言葉に甘えて、月さんの差し出す手を触り、その場にへたり込む。
「よーし!今度はお姉ちゃんが鬼だぞー!」
そういうと月さんはすぐに走り出し、小学生を追いかけ回す。小学生に負けず劣らずの元気さが少し羨ましい。
「お疲れ様です」
座り込むわたくしの横に、今度は穂乃果さんがやって来てペットボトルの水を渡してくれる。
「ありがとうございます。あの子たち元気ですね」
「そうですよね。この島では遊ぶ場所がないのでいつもこうやって体を動かしてるんです」
なるほど。それでスタミナが無くならないのか。今後は適度に運動する事を心がけようと思う。
わたくしと穂乃果さんは、元気に走り回る月さんと子どもたちを見守りながら座っていると、少し離れた場所からすみませんと声をかけられる。
声のした方を見ると、男性が4人おり、そのうちの1人が近づいてきた。
「すみません。俺たち昨日からこの島に旅行に来てるんですが、ちょっと道を聞きたくて、案内とかお願いできないですか?」
「いいですよ?」
穂乃果さんは男性にそう返事をして、ちょっと行ってきますとわたくしに一言残し、男性の後を着いていく。
1人で大丈夫ですか?と声をかけると、大丈夫です。すぐ戻りますと返ってきた。
その後、穂乃果さんが戻ってきたのは20分ほど経ってからだった。
その時の穂乃果さんの顔は暗く、なにかを思い詰めるような顔をしていた。
******
story teller ~四宮太陽~
5日目は雨が降っている。中々の土砂降りで、自然の多いこの島では土砂崩れなどが頻発するらしく、本当は乱橋さんの通っていた中学校を見に行く予定だったが断念せざるを得なかった。
「暇だなー」
「そうですねー」
堅治が寝っ転がりながら、何度目かの暇だな発言をすると、優希くんも同じようにゴロゴロしながら返事をしている。
さすがにこうなるとは思っていなかったので、部屋の中で遊べるようなトランプやボードゲームなどもない上に、スマホも電波が悪いため繋がったと思っても圏外になったりしてストレスを感じる。
なにかいい暇つぶしはないだろうかと考えていると、架流さんが思い立ったかのように腕立てを始める。
「暇すぎて筋トレですか?」
「まぁ元々日課で続けてたけど、ここに来てからは1回もやってなかったし、いい機会だと思ってね」
お風呂などで架流さんの裸を見る機会が何度かあったが、なるほど。道理で引き締まった体つきなわけか。
そんな架流さんを見て、俺も!と優希くんが隣に並び、筋トレを始める。
それなら俺もやってみようかなと思い、その場で始めると、堅治と善夜も俺に続いて腕立てを始める。
男5人が同じ部屋で腕立てをしている異空間の出来上がりだ。
誰もなにも話さずに、ふっふっという息遣いだけが木霊して、部屋の中の温度が上昇していく。
一通り腕立てが終わったかと思うと、架流さんはその場で身を起こし、スクワットを始める。
俺たち4人もそれに追従して同じ動きを繰り返す。
徐々に汗をかき始めた頃、襖がコンコンとノックされる。
架流さんはスクワットをしながらどうぞと言うと、スッと襖が開く。
「えっ。なにしてるの?」
「スクワット」
襖を開けた夏木さんの問いかけに、堅治が短く返す。
「善夜までやってるの?暇すぎて頭狂った?」
「光さん、ふっふっ。それはひどいですよ。ふっふっ。たまには鍛えないとでしょ?」
「ああ、そう。なんかごめん。お邪魔しました」
夏木さんは変なものを見るような目をしながら襖を閉める。絶対狂ったと思われている。
案の定隣の部屋から、男子たちの頭が狂った!と聞こえてくる。心外だ。
「架流さん。次は何するんですか?」
スクワットを終えた俺たちは、師匠に指示を仰ぐ弟子の如く、架流さんの次の種目を待っている。
「そうだなー。じゃあ腹筋にしよう。その次は背筋ね」
それぞれ10回の3セット!と言う架流さんの指示に従い、各々のペースで筋トレを進めていく。
生まれてから今まで、しっかりと筋トレをした事がないので、既に体が悲鳴を上げているが、ここで諦めたらダメだ!と自分に言い聞かせて腹筋をいじめる。
やってみると意外と楽しくて、毎日やってみようかと思った。
明日は絶対に筋肉痛だ。
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