第154話 乱橋さんの母と

story teller ~山田健太~


 俺は四宮に頼まれて、葛原の周りを色々と調べている。とは言っても、四宮に紹介された架流さんに協力するくらいだが。

 そんな中で、四宮と架流さんの2人が旅行に行くと言うことで、架流さんから数名の協力者を紹介された。

 そして数日前、葛原が男と話し込んでいるという情報を手に入れたのだ。

 なんでも四宮たちのいる島にその男を送り込む的な話をしていたらしい。

 そこで俺たちは四宮や架流さんにずっと連絡をしているのだが、誰一人として連絡が取れない。


 カウンターの中でスマホを操作し、電波の届かない場所ってどこだよ!とイライラしてくる。


 店の扉に付いた鈴がカランカランとなり、客が来たことを知らせてくる。

 俺はカウンターから出ていらっしゃいませと声をかけるが、入ってきた人を見て固まる。


「こんばんわ、山田くん。席空いてる?」


「葛原・・・・・・」


 葛原はふふっと笑い、今はお客様よ?と言ってくる。

 俺は葛原を奥の席に案内し、お冷を出す。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


 内心では緊張と不安で今すぐにでも逃げ出したいが、俺は葛原を客として扱うことにして、悟られないように普段通りの接客をする。


「これ以上私の周りを嗅ぎ回らないで貰える?」


 そう言うと自分のスマホを俺に見せてくる。画面には写真が表示されていて、男の人が顔を腫らして倒れている写真だった。


「なんでみんなが」


 写真に写っていたのは、架流さんから紹介されて協力していた人たちだったのだ。

 不安が恐怖に変わり、呼吸が荒くなる。


「今は警告だけにしておくね。もし今後も関わってくるなら、あなたもこうなるから」


 俺を見つめる葛原の目は凄く冷たく、まるで石にされたかのようにその場から動けなくなってしまった。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 4日目は前日めいいっぱい遊んだからか、目が覚めると時刻は午後12時を過ぎていた。

 堅治たちは既に起きているようで、布団が綺麗に畳まれていて、部屋には俺一人だった。


 今日の予定は、男子は堅治がやりたいと言い出した釣りに付き合い、女の子たちは乱橋さんの中学の子どもたちと遊ぶ予定だ。


 部屋から出てみんなの姿を確認するが誰もおらず、広い家の中で1人だと自覚し、少し寂しくなる。


 どこかで釣りをしているだろう堅治たちを探そうと思い、とりあえず服を着替えていると、玄関の開く音が聞こえる。

 誰か帰ってきたと思い部屋から出て確認すると、乱橋さんのお母さんが袋を抱えて帰ってきていた。


「おかえりなさい。運ぶの手伝います」


「あら、ありがとうございます」


 俺が声をかけながら乱橋さんのお母さんの持つ袋をいくつか受け取る。

 中身は食材の様なので、キッチンで良いですか?と聞いてから運ぶ。


 袋から中身を出し、キッチンにある大きなテーブルの上に並べ、1つずつどこにしまうか確認しながら片付けていく。


「四宮さん。重ね重ねにはなりますが、改めて穂乃果の事でお礼を言わせてください」


 乱橋さんのお母さんは、棚に調味料をしまう俺に対して頭を下げる。


「いえ、友だちの為に出来ることをしただけですよ。頭を上げてください」


「穂乃果から聞いてた通り、ほんとに素敵な方ですね」


 そこまで言ってから、やっと頭を上げる。


「あの子には今まで歳の近い友だちがいなかったですし、自分から誰かと仲良くしようとするタイプでもない上に、表情もなかなか表に出ない子です。新しい友だちを作れるのかとても不安でした」


 ここまで言葉通り不安そうにしていた乱橋さんのお母さんは、でもと言ってから笑顔になる。


「夏休みに友だちを連れて帰ってもいいかと連絡を貰った時嬉しかったんです。よかったってあんしんしました。まさかこんなにたくさん連れてくるとは思いませんでしたが」


 セリフは困った様な言い回しだが、その表情は明るい。ほっとした様な、安心したような顔をしている。


「全部、四宮さんと春風さんが繋いでくれた縁なんですよね?」


「確かに、乱橋さん、えっと穂乃果さんとみんなが関わりを持ったのは、俺や月と出会ったからだと思います。でも、みんなが穂乃果さんと友だちになりたいと思ったのは、きっと穂乃果さんが魅力的だからです」


 俺はほんとにそう思っている。

 彼女の周りに人が集まるのは、それだけ彼女が魅力的だからだ。実際モテるのもそういう事だろう。


 俺の言葉で、乱橋さんのお母さんは優しく微笑んでいる。


「ありがとうございます。うちの娘をそういう風に言ってくれるなんて嬉しいですね。これからも穂乃果と仲良くしてあげてください」


「いえ、俺たちの方が仲良くさせてもらってるんです」


「うふふ。ほんとにいい人ですね。穂乃果にはもっと頑張ってもらわないとですね」


 俺はなにをですか?と問いかけるが、それは内緒にしておきますとイタズラっぽい笑みを浮かべている。

 この人は初めて会った日から俺に対してなにか隠し事をしている気がするが、悪いことではないだろうと思い、気にしないことにした。

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