第142話 夏休みの計画

story teller ~葛原未来~


「雷門来海ってあの雷門来海?」


 わたしは目の前でタバコをふかしている中学生に聞き返す。

 その中学生は星羅の彼氏、弥生優希と同じ中学校に通っているらしく、その周辺の情報を集めて貰っていたが、まさか有名人の名前が出てくるとは思わなかったので驚く。


「はい。あの雷門来海です。めっちゃ可愛いんですよ」


「そんな事はどうでもいいの。その雷門来海が弥生優希と仲がいいのね?」


「そうですね。最近は弥生の彼女とその兄貴と一緒にどこかに出かけてたみたいですよ。教室で普通に話してました」


 その情報が確かだとしたら、雷門来海は既に太陽くんに接触している。

 この状況をどうにか使えないかと思考を巡らせる。そしてわたしは面白いことを思いつき、頬が緩むのを抑えられない。


 わたしは目の前の中学生に報酬としてお金を渡し、スマホを取り出すと加藤(社長)と登録された人物にメッセージを送る。

 そしてついでにもう1人、最近仲良くしている子にも連絡を取る。


('前崎' そういえば穂乃果ちゃんって夏休み実家に帰るんだよね?その時に先輩を誘ってみたら?そこで進展あるかもよ!)


 乱橋穂乃果は、誰になにを吹き込まれたのかわからないが、太陽くんにアピールするのを躊躇っている。ならば更に背中を押すまでだ。

 2つの計画が上手く行けば、太陽くんと春風月が別れて、太陽くんは傷つく、そうすればあとはわたしがその傷を癒せば・・・。

 思わず高笑いしてしまう。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 俺たちは夏休みの予定を立てるために、月の家に集まっていた。

 去年よりも友だちの数が増えたことに桜さんは喜んでいたが、紅葉さんはまた知らない人が家にいると固まっていた。


「去年は海に行ったので、今回はプールですかね?」


「でもこの人数ならプールより海の方がよくない?」


「花江ちゃんはプライベートビーチとか持ってたりしない?」


「わたくしも父も、そういうのは興味が無いのでもってないですね。言えば用意してくれそうですが」


 サラッと花江さんから金持ち発言が出たが、さすがにそこまでしてもらうのは申し訳ない。


「プールか海しかないの?僕はみんなと遊べればいいけど、旅行とかいきたいよね。せっかくの夏休みだし」


「それは無理じゃないですか?太陽くんと穂乃果ちゃんはバイトしてるからいいとして、私たちはお金ないですし」


 月の言う通り、少し遠出するくらいならお金も問題ないだろうが、旅行となると遊ぶお金+宿泊料も必要になる。それに保護者がいないと誰の親も許可してくれないだろう。

 でも旅行したいよなーとみんなで話をしていると、あのと乱橋さんが挙手してくる。


「旅行とはちょっと違うかもしれないですが、私、夏休みに実家に帰るのです。もしよければみなさんも来ますか?私の実家に泊まれば宿泊料もかからないですし、船代と向こうで使う少しのお金で済むと思います。海もありますし」


 乱橋さんの提案に、その場が盛り上がる。

 確かにそれならお金もそんなにかからないし、乱橋さんの親もいるので、問題ないかもしれない。


「えっと、それだと穂乃果さんの親御さんにご迷惑がかかりませんか?」


 盛り上がってる中でそういう発言をする事に申し訳なさを感じたのか、バツが悪そうに来海ちゃんが発言する。

 だが来海ちゃんの言う通り、乱橋さんのご両親には迷惑がかかるかもしれない。そこまで考えが至らなかった。


「一応聞いてからになるのですが、そこは問題ないと思います。問題があるとすれば、私と四宮先輩がバイトを長期で休めるかどうかですね」


 その問題もあったか。

 みんなで旅行がしたいという気持ちが先走って、色々な問題がある事に気が付かなかった。よく考えたらみんなの予定もあうかどうかわからない。


「乱橋さんが実家に帰るのはいつからいつまでなの?」


「えっと、8月3日から10日までの予定です」


「とりあえず、みんなの予定と親の許可、それから太陽くんはバイト休めるかどうか聞かないとだね」


「じゃあ一旦保留で前向きに検討って感じかな」


 架流さんと善夜がその場をまとめてくれる。その日は他の予定を決めていき、旅行はみんなが予定などを確認でき次第連絡を取り合うこととなった。


 ______


「8月3日から10日まで?もしかして穂乃果とどこか行くの?」


「みんなで乱橋さんの実家のある島に遊びに行こうという事になりまして。無理なら構いません」


 俺がそう答えると、店長はふーんとなにかを探るような反応をしてくる。


「なんですか?」


「べっつに〜?穂乃果も頑張ってんなーと思ってさ」


「どういう意味ですか?」


「さぁねぇ。それよりも休みでしょ?四宮くんが休んでる間に誰か働ける人がいるならいいよ?」


「そう言うと思って、既にお願いしてる人がいます」


 俺の言葉に、えっほんとに?と店長が驚いている。

 前日のうちにある人に連絡を取り、もし休むなら代わりに出てもいいと許可も取ってある。

 その人物とのやり取りを店長に見せると、それならOKだわ、即戦力だしとあっさり許可が降りる


「でもまだ山田と繋がりあったんだね。最近は全然遊びに来ないからもう関係切れたのかと思ってたよ」


「遊んだりはしませんが、連絡は取り合ってますよ」


 俺と山田はなんだかんだで定期的に連絡を取り合っている。まぁ普通の友だちとは違う関係かもしれないが、それで結構いい関係が築けていると思う。

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