第141話 星羅の嫉妬
story teller ~雷門来海~
「雷門来海ちゃんだよね?」
「本人?帽子取ってみてよ」
「引退してこんな所にこないでしょ」
「いやでも目元が」
私を取り囲む人たちがそんな事を言いながら詰め寄ってくる。
今までにやってきた握手会やライブなどでは、ちゃんと隣にスタッフさんが付いてくれたり、柵が設置されていたりしたので、こんなに至近距離で詰め寄られたことはないので恐怖を感じる。
怖い。誰か。
そう思い周りを見渡すが、警備員の姿も、助けてくれそうな人もいない。
どうしよう。バレたら騒ぎになる。そうすれば星羅ちゃんたちに迷惑がかかってしまう。
不安と恐怖に押しつぶされそうになり、泣きそうになっていたその時、私の手が掴まれる。
私は驚き、手を引っ込めようとして手を掴んできた相手を見る。
その手の先には太陽さんがいて、私を引っ張って連れ出そうとしてくれている。
周りの人たちが通してくれる気配はないが、それでも一気に安心感に包まれる。
太陽さんが助けに来てくれた。
それ後、イベント会場から少し離れた人気のないベンチに2人で座り、少し落ち着いてきた頃、さっきの事を思い出し恐怖が蘇る。
そんな私を気にしてか、太陽さんが頭を撫でてくれた。
その行動に少し驚いたが、お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなと思い、星羅ちゃんが羨ましく感じてしまった。
もう少し甘えていたいな。
******
story teller ~四宮太陽~
会場に戻った俺と来海ちゃんは月たちと合流し、みんなで固まって行動する事にした。
念の為、星羅と来海ちゃんはトイレでお互いの服を交換し、さっきの人たちにバレないようにする。
「太陽くん?その・・・」
俺の隣を歩き、俺の手をしっかりと握る来海ちゃんを見て、月が少し怪訝そうな顔をしている。
「ごめんなさい。今日だけ太陽さんの片手を借りてていいですか?さっきの事が不安で・・・・・・」
来海ちゃんは俺の代わりに月に許可を求めると、月は渋々と言った様子で、わかったと言ってくれる。
俺が空いている右手を月に差し出すと、黙って握ってくれる。
可愛い彼女と有名人が俺を挟んで手を繋いでいる。誰かに話しても信じて貰えなさそうな光景だ。
「月ごめんね?今日だけ許してあげてね」
「・・・わかった。その代わり私の手も離さないでね」
改めて謝ると、月は俺の腕にしがみついてくる。そんな月を見て、可愛いなと思う。
______
帰りの電車の中でも来海ちゃんはずっと俺の手を繋ぎ、疲れたのか肩に頭を置いて寝てしまっている。
俺の隣に座る月は、さっきまで嫉妬していたはずなのに、俺の隣に来海ちゃんがいることに慣れたのか、優しい表情になっており、来海ちゃんの寝顔を覗き込み、可愛いと微笑みかけている。
俺たちの正面の席には、星羅と優希くんが並んで座っているのだが、その星羅がじっと俺を見て頬を膨らませている。
なにか怒ってる?
そう聞こうとしたが、プイッと顔を背けて優希くんと雑談を始めてしまった。
「太陽くん。今日は色々あったけど楽しかったね」
「そうだね。今度は2人でいこうよ」
話しかけてきた月にそう返すと、絶対ねと小指を差し出してくる。
俺たちは指切りをして、次は2人でいくと約束をする。みんなで行くもの楽しいけど、月と2人ならもっと楽しいはずだ。
______
月を家に送り届け、星羅と2人で自宅に帰っているのだが、電車に乗っている時からずっと不機嫌そうにしている。
「さっきからなにか怒ってる?」
俺が聞いてみるも、一瞬俺の顔を見てすぐに顔を背ける。よくわからないが、触れないで欲しいのだろうか。
俺も無理に追求せず、2人で黙って歩いていると、星羅は小声でなにかを言ってくる。
「・・・・・・だったの」
「なに?」
「・・・嫌だったの。来海ちゃんがずっとお兄ちゃんにくっついてたから」
「えっと、それで怒ってるの?」
来海ちゃんがくっついてるのか嫌だったって事は嫉妬してるってことか?
「そうだよ。悪い?」
「悪いって言うか、月も俺にずっとくっついてたよ?」
俺がそう聞くと、更に不機嫌そうな顔をして肩を殴ってくる。結構力が入っているのか普通に痛い。
「痛いよ。なに?」
「月さんはお兄ちゃんと付き合ってるからいいの。でも来海ちゃんは違うでしょ。なんかお兄ちゃんと妹って感じだったから・・・」
なるほど。妹は自分なのに、来海ちゃんが妹みたいにくっついてたのが嫌だったのか。
可愛いやつだ。
俺はなんだか微笑ましくなり、笑ってしまう。
「なんで笑うの!もういやだ」
「ごめんごめん。来海ちゃんが不安そうにしてたからさ、俺の事お兄ちゃんだと思っていいよって言ったからかも。ごめんな」
俺が説明すると、次からは気をつけてと注意される。
納得は出来ていない様だが、さっきよりは機嫌が直ったように見える。
今度、星羅とも2人で遊んであげよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます