第138話 女子のお泊まりパート
story teller ~春風月~
前もって聞いていだが、実際に本人を目の前にして、そのオーラに圧倒される。
私以外も同じようで、いつも通り過ごせているのは星羅ちゃんだけだ。
「は、初めまして。雷門来海です。よろしくお願いします」
人見知りしているのか、少し星羅ちゃんに隠れながら恥ずかしそうに挨拶をしてくる。
私たちも自己紹介しなければと思うが、緊張して声が震える。
「初めまして。春風ちゅき・・・ごめんなさい。春風月です」
「ちゅき・・・ふふっ」
自分の名前を噛んでしまい、顔が熱くなる。
光は笑いを堪えているのか、肩が震えている。恥ずかしすぎる。
「冬草涼です。はぁ〜。噛めずに言えました」
涼は私と違い、噛まずに言えたことに胸を撫で下ろしているが、なんだか涼にまでバカにされたような気になって落ち込みそうになる。私だって噛みたくて噛んだ訳じゃないのに。
「夏木光です。よろしくね」
「乱橋穂乃果です。よろしくお願いします」
光と穂乃果ちゃんもそれぞれ自己紹介を終え、私たちのお泊まりは始まった。
人生ゲームをしたり、太陽くんの部屋からゲームを引っ張ってきてみんなでプレイしたりして、意外にも早く私たちは打ち解けた。
ちなみに太陽くんの部屋には、前もって入る許可を貰っている。
時刻は午後11時を周り、そろそろ寝ようとなり、星羅ちゃんは広げていたローテーブルの脚を降り、壁に立てかける。そして来客用の布団を敷きそこにみんなで眠ることになるが結構狭い。
ベッドには星羅ちゃんと来海ちゃんが一緒に眠るので、私含む4人は布団に詰めて横になる。
電気を消し、みんなが眠りにつこうとした時、ふと星羅ちゃんが私に質問をして来た。
「月さんってお兄ちゃんの事いつ好きになったんですか?やっぱり告白されてから意識しました?」
急な質問に一瞬頭が追いつかなかったが、光と涼以外にはいつから好きかなんて話してないので質問を理解してから恥ずかしくなる。しかも太陽くんの家族になんて余計に恥ずかしい。
私が言い淀んでいると、光が代わりに答えてしまう。
「最初は一目惚れなんだよ。ね、月?」
「そうなんですか!お兄ちゃんってカッコイイかな〜?架流さんとか堅治さんならカッコイイからわかるけど」
その言葉に少しムッとして言い返してしまう。
「太陽くんはカッコイイよ。顔も私は好みだし。カッコイイのは顔だけじゃないけど」
「四宮くんは優しい顔してますよね。性格が顔に出てると思います」
「四宮先輩はかっこいいですよ?頼りになりますし。星羅ちゃんは妹さんだからカッコイイとかはわからないかもしれませんが」
途中で星羅ちゃんに対して怒るのは違うと気づき、声が小さくなってしまった。
私に同調するように、涼と穂乃果ちゃんもそう言ってくれる。
光だけは、うーんどうなんだろと考え込んでいるようだ。
すると、今まで黙っていた来海ちゃんが口を開いた。
「月さんと太陽さんはお付き合いしてるんですね。月さんみたいな可愛い人が彼女さんだなんて、太陽さんも鼻が高いですね」
可愛いかどうかはあまり自信はないが、努力はしているので、可愛いと言われ、嬉しくなる。しかもめちゃくちゃ可愛い元?アイドルにいわれたのだからより嬉しい。
「お兄ちゃんはあんまりそういうの自慢しないよね。私だったら月さんと付き合った瞬間に自慢しまくるけど」
そう言いながら笑う星羅ちゃんに、確かに星羅ちゃんなら自慢しそうと光が返している。
わからなくはないかも。
その後は、涼と秋川くん、光と車谷くんの馴れ初めや、告白された時の話などを聞いて、みんなで盛り上がっていた。
そして一通り話終わったあと、今度は穂乃果ちゃんに話を振る。
「穂乃果さんは好きな人とかいないんですか?」
星羅ちゃんが質問を飛ばし、私も気になると思い返事を待つが、穂乃果ちゃんは黙ったまま答えない。
隣で横になっているが、暗闇で表情が分かりにくい。元々無表情が多い子だから、見えても分からなかったかもしれないけど。
星羅ちゃんが、なにかまずいこと聞いちゃいました?と声をかけると、穂乃果ちゃんはやっと声を出した。
「・・・・・・好きな人はいますよ。叶わない恋ですが」
そう言った穂乃果ちゃんの声はどこか悲しげで、その場にいる誰もが、叶わない恋とはなんなのか聞けずにいた。
「暗くならないでくださいよ。そんなに重い話じゃないですよ」
穂乃果ちゃんは重い空気を変えようとそう言ってくるが、それでも考え込んでしまう。
光も穂乃果ちゃんと同じで、空気を変えようと来海ちゃんに話題を振る。
「来海は?いい人とかいないの?アイドルだしモテるんじゃない?」
「いえ、モテないですよ」
「そんな事ないでしょ。実際熱愛報・・・・・・」
しまったと思ったのか、光は途中で話を止めるが、時すでに遅し。来海ちゃんはあの事ですかと少しため息混じりに反応している。
「ごめん。そんなつもりじゃなくて」
「分かってますよ。それにあれだけテレビやネットで騒がれたんですから、気になっても仕方ないです」
そう言いながら、来海ちゃんはよいしょと体を起こし、私の話信じてくれますか?と問いかけてくる。
私たちも横になっていた体を起こして、来海ちゃんに向き直り、うんと答える。
「あの報道。実は半分くらい嘘なんです」
「嘘?」
「はい。あの人とお付き合いはしてませんでしたが、一方的に言い寄られてたんです。歌番組の収録で一緒になってから、連絡先を交換したんですよ。それから何度か食事をしたりはしました。でも私は同じ業界の仲間と言うか、先輩と後輩くらいの感覚だったんです」
来海ちゃんは途中で息を整えて、私たちの反応を見る。
私たちが黙って聞いていることを確認すると、そのまま続ける。
「でも向こうは違ったみたいで、ある日、いつもの様に食事をした後、映画を見るために自宅に来ないかと誘われたんです。軽率ですが、私がみたいと思っていた映画だったこともあり、家についていってしまったんです。そしたら、その時に言い寄られまして、お断りして家から出ました。そしたらその人はずっと追いかけてきて、腕を掴んで、もう少しよく考えてくれと言われました。その家から出た時にマスコミに写真を撮られてしまっていたようです」
「それって来海ちゃんは悪くないんじゃ・・・」
私は話を聞いてそう思ったが、来海ちゃんはいいえと首を横に振る。
「私はファンの方たちの期待を裏切って、男性と2人きりで食事をしたりしたのは事実です。だからあの人だけが悪いとは言えないんです。それに、私がどれだけ事実を伝えようと、1度世間に間違った情報が出てしまったが最後、誰も信じてくれませんでした。それで事務所からも活動休止を命じられ、そのまま引退する事にしたんです」
「それで、今までの学校だと通いづらいから引っ越して来たってこと?」
光の問いかけに、そうですと来海ちゃんは答える。
なんだかとても可哀想だ。来海ちゃんは被害者なのに。きっとあのバンドの人に言い寄られた時も怖かったはずだ。
そのせいでSNSにアンチコメントなどが書かれているのも見たことがある。めちゃくちゃ辛かったはずなのに、それでも今はなるべく明るい声で私たちに話をしている。
「来海ちゃん。とっても頑張ったんだね」
私は来海ちゃんをたくさん褒めてあげようと、抱きしめる。すると涼も私ごと包むように抱きしめてくる。
穂乃果ちゃんと光も、抱きしめまではしないが、手を握ったり、頭を撫でたりしている。
「あり、がとう、ございます」
そんな私たちの行動に、来海ちゃんは泣いてしまうが、それで少しでもスッキリすればいいと思い、そのまま抱きしめる。
この子は頑張った。私たちだけでもちゃんと信じてあげないと。
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