第137話 星羅のお誘い

story teller ~夏木光~


 ワタシが送ると言うと、穂乃果は一瞬残念そうな雰囲気を出したが、すぐにお願いしますと言ってきた。

 善夜もなんで?という顔をしているが、みんながいる前では理由を話しにくいので、思うだけで聞いてこない事に安堵する。


 ワタシたちは月たちと分かれたあと、穂乃果の家に向かう。穂乃果といる時は、月か四宮がいる事が多いので、この3人だと会話が生まれずただ歩くだけになる。

 それでもワタシは穂乃果に確認したいことがあったので、それを聞く為に送ると申し出たのだ。

 善夜に聞かれないようにしようかとも考えたが、絶対にワタシたちを送ってからじゃないと帰ってくれないだろうと思い、諦めて聞くことにする。


「穂乃果ってさ、四宮こと好きでしょ?」


「えっ?そうなの?」


 穂乃果に聞いたはずなのに、最初に反応したのは善夜だった。気づいてなかっただろうし、急にワタシがそんな事を言うと驚くのは予想していたので、片手で待ってと合図してから、穂乃果の返事を待つ。


「・・・・・・四宮先輩は月さんと付き合っているのですよ?ありえません」


「いや、月と四宮が付き合ってるからとかじゃなくて、穂乃果の気持ちをきいてるんだけど」


 ワタシの言葉に穂乃果は黙ってしまうが、その沈黙は認めているのと同義だろう。


「別に穂乃果が四宮こと好きでもいいと思うよ。好きになってしまったものは仕方ないし。でも2人の邪魔はしないでよね」


「・・・・・・わかってます」


「怒ってる訳じゃないし、穂乃果を月や四宮から引き離そうと思ってるわけでもないから、そこは勘違いしないでね。ワタシも穂乃果とは仲良くしたいからさ」


 ワタシがそういうと、ありがとうございますと返してくる。その顔はいつもの無表情だったが、寂しそうに見えた。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 コンビニでアイスを買った俺たちは、俺の家に着き、母さんに挨拶を済ませてから部屋に入る。

 元々は改めて勉強をするという事だったが、部屋に入るやいなや、月は俺にくっついてくる。


「月?アイス溶けるから、せめて食べてからにしない?」


「んー、じゃあこのまま食べる」


 袋からカップアイスを取り出し月に渡すと、開けて〜と甘えた声で俺にアイスを返してくる。

 拒否せずに、蓋を開けるて再度月に渡すが、今度はアイススプーンを開けてと渡してくる。

 なんだか今日はめちゃくちゃ甘えてくるな。可愛いからいいけど。


「はいどうぞ。俺が食べさせた方がいい?」


「そこまでしてくれるの?」


「別にいいよ?はい」


 俺がスプーンでアイスを掬って月の口元に持っていくと、嬉しそうに食べている。

 幸せそうな月の顔を間近で見ることが出来て、俺も幸せだ。

 それを何度か繰り返していたので、俺のアイスは飲み物になっていたが、冷凍庫に入れて明日にでも食べればいいと思う。俺もカップアイスを買ってよかった。


 アイスを食べ終わった月は、今度は寒いといって離れようとしない。最初から勉強する気は無かったのかもしれない。俺もただの口実だったけど。


 そんな感じで2人でイチャイチャしながら幸せな時間を過ごしていると、だんだんとになってくる。

 月を抱えてベッドに移動しようとした時、部屋の扉がコンコンと音を立てる。


「お兄ちゃん?今いい?」


 ほんとにこの妹はタイミングが悪い。さっきまで家に居なかったのにいつ帰ってきたんだか。

 俺が渋々扉を開けると、月さーん!と嬉しそうに部屋に入って月に抱きつく。


「こんばんわ星羅ちゃん」


「月さんに抱きつくの気持ちいい」


 星羅の気持ちはわかる。と心の中で同調しながら、なにか用事があるんじゃないの?と声をかけると、星羅は思い出しかかのように、そうだったと言って月から離れる。


「月さんも日曜日のイベントいくんですよね?その前日、女の子だけでお泊まりしませんか?」


「お泊まり?」


「はい!来海ちゃんがうちに泊まりにくるんですけど、もし良かったら光さん達もどうかなって思って」


 俺はお泊まりの話を聞いてないが、みんなで泊まるとなると結構な人数になる。星羅の部屋に入るのだろうか。


「えっと、光たちに聞いてみないと分からないけど、いいのかな?」


 確認するように俺をチラッと見るので、どうぞと手で合図をだす。

 少し遠慮しているんだろうけど、俺の事は気にしなくていい。


「じゃあ明日聞いてみてください!お母さんには既に話してるので!」


「わかった。聞いてみるね」


 星羅の仕事の速さに驚く。月を誘うより先に母さんの許可を取っているとは。星羅の中では決定事項だったのだろう。

 それにしても、もしみんなが来るとなると俺は自分の家なのに居心地が悪くなりそうだと考えていると、星羅はそれすら見越していたかの様に俺に告げる。


「あっお兄ちゃんは邪魔だから堅治さんの家とかに泊まりに行ってね?」


「ちなみに拒否権は?」


「ないよ?」


 俺と星羅のやり取りを聞いて、月は可哀想だよと言ってくれるが、まぁ女の子だけで盛り上がりたい時に俺がいると邪魔なのは事実だろう。

 明日堅治か善夜にでも泊まれないか聞いてみよう。

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