第135話 雷門来海
story teller ~乱橋穂乃果~
私たちから離れた月さんが、四宮先輩に近寄って行くのが見えた。
みんなと雑談を続けながら、横目に2人の様子を見る。手を繋いで仲良さそうに笑い合っている。
羨ましい。
そんな感情が芽生え、なんだか胸がチクリと痛む。
自分でもわかっている。四宮先輩に恋をしているのだ。
私が困っていたら助けてくれて、泣いていたら優しく抱きしめてくれて、一緒にいると安心できる人。
でも身を引かなければならない事も自覚している。四宮先輩と同じくらい月さんの事も好きだから、2人の幸せを見守るしかない。
私は自分の気持ちに蓋をして、2人から目を離す。
邪魔しちゃいけない。私が入り込む余地は無いのだから。
******
story teller ~四宮太陽~
俺と堅治、善夜の3人は星羅に呼び出され、この前乱橋さんを見つけた公園に来ていた。
俺たちが到着した頃には、星羅の他に、優希くんと架流さんがいる。いつものメンバーの男だけが集められているようだ。
そしてもう1人。俺たちの知らない人が居ることに気づく。正確には知っているが、知り合いではない人物がいる。
その人物を見て、星羅がこの公園を指定した理由も何となく察した。人が寄り付かない場所の方が都合がいいのだろう。
「えっと・・・」
俺たちはその人物を前に固まる。
話しかけていい人なのか考えていると、架流さんがまぁそうなるよなと俺たちの気持ちが分かっているかのように同調してくる。
「は、初めまして。雷門来海です。えっとよろしくお願いします?」
その人物は固まって動かない俺たちに、する必要のない自己紹介をしてくる。
誰もが知っている有名人、雷門来海その人だった。
「すみません。前もって話そうと思ったんですが、星羅ちゃんがサプライズにしようと言い出して・・・」
「ね!驚いてるでしょ?」
優希くんは俺たちに謝ってくるが、星羅は得意げにふふんと鼻を鳴らしている。
サプライズと言うか、驚きよりもなぜ雷門来海がここに?という疑問の方が大きい。
「ボクたちも自己紹介したほうがいいのかな?」
善夜は俺たちに聞いてくるが、その方がいいのか俺にもわからない。
とりあえず、僕は自己紹介したよと架流さんが言っているので、それに倣って俺たちも自己紹介をする事にする。
俺、堅治、善夜の順に名乗り終えると、じゃあ本題に入りましょうと星羅が仕切っている。ちょっと待って欲しい。
俺と同じことを思っていたのか、堅治が俺の言おうとした事と同じ事を口に出す。
「ちょっと待って。なんで雷門来海がここにいるんだ?」
「そこから話さないとダメですか?」
「星羅ちゃん。ちゃんと説明しないと」
優希くんにそう言われ、渋々と言った感じで星羅は説明を始めた。
なんと、雷門来海は進級と同時に優希くんの中学校に転校してきたらしい。そして、席替えで優希くんの隣の席になり、仲良くなったと言うことだ。
星羅は優希くんの紹介で知り合ったのだろう。
「じゃあ本題に入りますね?いいですか?」
説明を終えた星羅は、俺たちに確認してくる。
俺たちは頷き、 自分たちがなぜ呼ばれた理由を聞く姿勢をとる。
「来海はゲームが大好きな女の子です」
ん?なんて?俺たちが呼ばれた理由は?
「えっと、ごめん。よくわからないんだけど」
「あー、やっぱり俺から説明します。星羅ちゃんは来海ちゃんと待ってて」
優希くんは星羅の前に立ち、改めて俺たちに説明する。
星羅はめちゃくちゃ不満そうだけど、これは星羅が悪い。
「実は、来週の日曜日にゲームのイベントがあるんです。そのイベントに来海ちゃんが行きたいみたいなんです。でも来海ちゃんはその、良くも悪くも有名人なので1人ではもちろん行けません。両親も連れて行ってくれないみたいなんです」
俺は段々と話が分かってきた。堅治たちもなんとなく察したようだが、優希くんの話を最後まで聞こうとしている。
「だから、誰か来海ちゃんと一緒にそのイベントに行ってくれませんか?俺と星羅ちゃんも一緒にいきますが、中学生だけだと心細くて」
途中からそんな話だろうなとは思っていた。俺たちは顔を見合わせ、どうしようと頭を悩ませる。
すると、今まで黙っていた雷門さんが口を開いた。
「わ、私のわがままで迷惑かけてすみません。でも良ければ一緒に行ってくれませんか?お金は持ってるので、入場料は私が払いますので」
緊張しているのか、少し声が震えている。
今までテレビで見ていた雷門さんは、みんなの前で堂々と歌って踊っていたが、俺たちの前に立っている雷門さんは気弱そうで、とても同一人物には見えなかった。
「行くのはいいとして、誰が行くかだよね」
「みんなで行くのはダメですか?」
「それが、来週の日曜日は涼と出かける約束しててな」
「ごめんね優希くん。ボクも来週は難しいかも」
俺の発言に優希くんがみんなで行こうと提案するも、堅治も善夜も予定が入っているようだ。
最後に黙っている架流さんを見ると、花江ちゃんは絶対行かないし、女の子が一緒ってなるとダメって言われるねとやんわら断られる。
「となると、太陽さんしかいないですね」
「俺も月の許可がないと難しいよ?」
「じゃあ月さんに聞いてみてよ!」
星羅にそう言われ、はいはいと言いながら月にメッセージを送る。
すると私もいきたい!とすぐに返事が返ってきた。
「月も一緒でもいい?」
「全然いいよ!月さんとも遊びたいし!」
「星羅には聞いてない。えっと、雷門さんはどう?俺の彼女も連れてきていいかな?」
俺は、なんでよ!私に聞いてよ!と叩いてくる星羅を押さえながら、雷門さんの目線に合わせて問いかける。すると恥ずかしそうに目を逸らし、こくんと小さく頷く。
「ありがとう。じゃあ俺と俺の彼女が同行するからよろしくね」
「はい。ありがとうございます」
雷門さんは嬉しそうに笑い、その後恥ずかしくなったのか赤面して顔を伏せる。
さすがはアイドル。笑顔が素敵すぎる。
少しだけこの子のファンの気持ちがわかったような気がする。
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