第134話 善夜の誕生日

story teller ~車谷善夜~


「ねぇ、善夜はなんでワタシに告白してこないの?」


 口にストローをくわえながら、光さんはボクに聞いてくる。


「なんでって。それは・・・」


「善夜はワタシの事好きなんでしょ?ワタシも善夜の事好きだよ?なんとなく伝わってると思ってたんだけど違った?」


 そうなのかなとは思っていたし、それなら嬉しいとも思っていた。でも九十九の事があり、もしかしたら吊り橋効果的なやつなのではないかと考えてしまい、それで告白して付き合えたとしても上手くいかないのではないかと思っていたのだ。


 返事を言い淀むボクに対して、光さんは呆れたようにため息を吐く。


「まぁいいんだけどさ。ワタシは好きって伝えたし、善夜のタイミングに任せるよ」


 光さんはそういうとボクから視線を外し、ポテトを口に運ぶ。その顔はどこか寂しそうに見えて、そんな顔をさせてしまった自分が情けなくなる。


 このタイミングではないのかもしれないし、全然ロマンチックじゃないし、ムードもない。

 それでも、今言わなければいけないと思った。

 大声じゃなくていい。光さんに聞こえたらそれでいい。

 息を整え、気持ちを声に出す。


「光さん。ボクは光さんの事が好きです。付き合ってくれませんか?」


 光さんだけ聞こえるくらいの小さな声で、勇気をだして伝える。

 目をつむり、返事を待つ。


 ふふ。と笑い声が聞こえ目を開けると、光さんは笑いながらボクを見ていた。


「遅いよバーカ。こんなにたくさん人がいる所で告白なんてムードもないし、フラッシュモブかな?」


 どこか楽しそうで、嬉しそうな顔になっている。

 OKが貰えると分かっていても、告白の返事が無いことにどんどんと不安が募る。

 そんなボクの様子をみて意地悪っぽく笑うので、きっとわざと不安にさせているのだろう。


 それから光さんは頬を赤くして、照れ隠しの様にボクの口にポテトをくわえさせながらこう言った。


「ずっと待ってたよ。よろしくお願いします」


 ******


story teller ~四宮太陽~


 土曜日の夕方、俺のバイト先にみんなが来ていた。

 過ぎた7月1日は善夜の誕生日で、当日に祝うことが出来なかったため、みんなの予定が合う今日祝おうと言うことになったのだ。


 善夜の家で祝うことができないとの事なので、店長に確認すると、使っていいよと許可が降りたのでお店に集まったのだ。


「ここが太陽くんのバイト先ですか」


 今回は、花江さんと架流さんはもちろん、星羅も参加しており、乱橋さんは初めて会う人たちに警戒し、俺の後ろに隠れている。


「乱橋さん。ちゃんと挨拶しないと?」


「そうですが、緊張します」


「穂乃果、早く四宮から離れないと月が嫉妬で狂うかもしれないよ」


「そんな事ないから!」


 そう言いながらも、月は頬を膨らませてちょっと不機嫌だ。あとでちゃんと構ってあげよう。


 乱橋さんは俺から離れると、恐る恐る警戒しながら架流さんたちに近づき、挨拶している。ほんとに小動物みたいで可愛らしい後輩だ。


「そういえば優希くんは?」


「なんかどうしても外せない用事があるらしくて、もし途中で参加出来そうなら連絡するって言ってました」


 この場に唯一いない優希くんの事が気になったらしい月の問いかけに、星羅が答える。

 全員の予定が合うとは思っていなかったが、優希くん以外が参加出来ただけでもすごいと思う。


「はいはーい!みんな料理も食べてってー!」


 店長は作った料理を両手に持ち、テーブルに並べていく。この料理はメニューにない料理なので特別に作ってくれたのだろう。

 場所を貸してくれただけでなく、料理まで作ってくれるなんてありがたい。今度ちゃんとお礼しておこう。


「ボクのために色々とすみません」


「何言ってんの!本日の主役でしょ?すみませんじゃなくてありがとうでいいんだよ」


 楓さんはニコリと笑い、善夜にそう伝える。


「そうですね。ありがとうございます。みんなもほんとにありがとう。1年前のボクからすると、こんなに友だちが出来て祝ってもらえるなんて思ってなかったから嬉しいよ」


 照れたように赤面しながら、しっかりと声に出し気持ちを伝えてくる。

 善夜が嬉しいなら、みんなで計画した誕生日会も成功したという事だ。良かった。


 その後は途中で参加した優希くんも交えてビンゴをしたり、プレゼントを渡したりして盛り上がり、午後8時頃に誕生日会はお開きとなった。


 お店を出たあとも、先程までの誕生日会の熱が冷めず、雑談しながら盛り上がる。

 そんな中、月は夏木さんたちから離れると、後ろの方を歩く俺に寄ってくる。隣を歩いていた架流さんは気を使って少し前を歩いてくれる。


「・・・手繋いでもいい?」


「いいよ?繋ご?」


 月は嬉しそうに俺の手を握ると、その手をブンブンと振り、鼻歌を歌いながら歩く。

 みんなよりも少し離れたこの場所は、2人の空間が出来上がっているだろう。


「乱橋さんにはもう少し距離感気をつけてって伝えるから」


 きっと月は嫌だろうと思いそう伝えると、ううんと首を横に振り、大丈夫だから気にしないでと言う。

 それでも、彼氏としてなるべく嫌な思いはさせたくないので、乱橋さんと話をしなければと思う。

 そんなつもりはなくても、月が嫌な気持ちになるのは乱橋さんも嫌だろうし。


「・・・太陽くんは私の事好き?」


「もちろん。好きだよ」


「えへへ。私も太陽くんの事好きだよ。・・・その、最近は全然イチャイチャ出来てないから、次バイトお休みの時に太陽くんの家にいってもいい?」


 上目遣いにそう聞いてくる月にドキッとする。

 今すぐにでも連れて帰りたい気持ちに駆られるが、みんなもいるので必死に我慢する。可愛すぎる。


「うん、もちろん。俺も、その、月と一緒にゆっくりしたいから」


「うん。絶対ね?約束ね?」


 月は左手の小指を俺に差し出す。その小指に自分の小指を絡めて、指切りをした。

 指を離し、笑顔で見つめ合い、みんなにバレないように軽い口付けを交わした。

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