第133話 世間のニュース

story teller ~甲斐一之輔~


「助かったよ。甲斐くんのおかげで命拾いした。ご馳走様」


「一之輔さんご馳走様!ありがとうね!」


 同じコンビニで働く朝日さんが、妹さんと2人で夕飯に困っていると聞いて、バイト終わりに夕飯に誘い、3人でファミレスで食事をした帰りだ。

 なんでも、両親はギャンブル中毒とかでほとんど家におらず、ろくに働いてもいないらしい。

 そのため、2人はバイトをして助け合っているらしいのだが、今月の給料は両親に取られてしまったとの事。なんという酷い親なのか。


「また困ったら言ってください。ファミレスくらいなら俺が出すので」


 俺が優しさでそう言うと、2人はいいの!?と目を輝かせている。少しは遠慮しろと思うが、2人が美味しそうにご飯を食べる姿を見るのは悪くなかったので、まぁいいかと思う事にする。


「一之輔さんほんとにありがとう!もし兄貴が迷惑かけたら教えて?自分が代わりに怒るからさ!」


「真昼ちゃーん。お兄ちゃんの事兄貴って呼ぶなよ〜。前みたいにお兄ちゃんって呼んでよ〜」


 朝日さんが甘えた声で妹の真昼ちゃんに言いながら近づくと、気持ち悪いと言って殴られている。しかし、真昼ちゃんも本気で嫌がっている感じてはないので、兄妹仲はいいのだろう。


「前みたいに女のところに遊びに行けよ!なんでバイトない日は毎日家にいるんだよ!」


「もう女遊びはやめたんだよ。金もないしね」


 なんとなくチャラチャラした人だと思っていたが、ほんとに遊び人だったんだ。

 そんなに歳も違わないのに、彼女いない歴=年齢の俺とは全然違う。ちょっと羨ましいと思ってしまう。


「一之輔さんって彼女いる?」


 一瞬心を読まれたのかと思いドキリとするが、真昼ちゃんは話の流れで聞いてきただけのようだった。

 いないよと答えると、嬉しそうにじゃあさと行ってくる。


「自分に勉強教えてくれない?兄貴から聞いたんだけど頭いいんでしょ?自分頭悪いからいつも赤点取っちゃってさー」


 あははと笑う真昼ちゃんに、自分の勉強の復習にも繋がるかと思い、時間がある時ならいいよと答える。

 彼女がいるか聞いてきたのは、もしいたらその彼女に申し訳ないと思ったのだろう。


「甲斐くんほんとにいいの?真昼めっちゃ頭悪いよ?」


「勉強方法がダメなだけじゃないですか?見てないのでわからないですが、赤点を回避するくらいなら力になれるかもしれないです」


「ふふふ。次は絶対赤点回避してやる!」


 めちゃくちゃやる気になっているが、なにか理由でもあるのだろうか。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 俺が帰宅しリビングに入ると、母さんはソファに座りテレビを見ていて、星羅はその隣でスマホをいじっていた。

 ただいまと声を掛けてから冷蔵庫を開け、お茶を飲む。


 俺もソファに腰掛け、一緒にテレビを見ていると、話題のニュースが流れる。


 俺たちが進級するよりも少し前、丁度九十九との件の最中に、大人気アイドルの雷門来海らいもんくるみがバンドマンと密会していたと世間では大きなニュースとして取り上げられていた。ただの熱愛報道ならよかったのだが、そのアイドルが星羅と同じ14歳の中学生だったのが問題だった。


 そして、今テレビで流れているニュースは、そのアイドルが芸能界を引退したという内容だ。本人はSNSのアカウントを削除し、引退理由も告げぬまま姿を消したと言うことで、話題になっているようだ。


 自分たちの事でいっぱいいっぱいな俺たちには直接関係ないが、芸能人も大変だなと思う。

 批判や誹謗中傷もたくさんあるだろうし、俺なら絶対にできない職業だ。


「お兄ちゃんってさ、この雷門来海ってアイドルの事どう思う?」


 テレビをぼけーっと眺める俺に、星羅はスマホをいじりながら聞いてくる。


「どう思うって言われても、別にファンだったわけでもないし、大変だなーって思う程度かな?」


「んー。じゃあさ、もしこの子が目の前で困ってたら助けたい?」


 星羅の容量を得ない質問に、俺は意味がわからないんだけどと返す。すると、とりあえず助けたいか助けたくないかで答えて?と言われる。


「まぁ困ってたら助けるんじゃないかな?」


「・・・そっか。わかった」


 なにが分かったのかが俺にはわからないが、俺の返答を聞くと、星羅はリビングから出ていってしまった。


「今のなんだと思う?」


「さぁ、私に聞かれても」


 母さんも星羅の質問の意図がわからなかったようだ。

 一体なんだったのだろうか。

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