第121話 穂乃果の教室で

story teller ~乱橋穂乃果~


 私のために体育館に戻るのを躊躇う先輩たちに対して、申し訳ない気持ちになる。

 いじめられてると気づいてくれたのは嬉しいが、先輩たちは巻き込めない。そう考え、思わず否定してしまった。


「穂乃果ちゃんは誰か応援したい人とかいないの?」


「いないですね。友だちも先輩たちが初めてなので」


「なんかごめんね」


 月さんと話をしながら、横目で体育館の入口を見ると、中から人が出てきていて、その中に私の事をいじめている女の子たちもいた。

 ここにいたら見られてしまう。もしかしたら先輩たちにも迷惑がかかるかもしれない。

 そう思い、逃げようかとも考えたが、いじめられてないと言った手前それも出来ずにいた。


 すると、私と女の子たちの視線が交わる位置、小柄な私を隠すように四宮先輩が移動してくる。

 もしかして私を隠してくれた?

 そう思ったが、四宮先輩は何事もなかったかのように月さんと話し始めた。

 偶然?それにしては的確な位置に立っている気がする。

 考えてもわからないが、助かったことは事実であり、今は四宮先輩の影に隠れてやり過ごす事にする。


 改めて見ると、私が小さいのもあるが、四宮先輩は意外と身長が高い。それなのに圧迫感はなく、むしろ安心感の方が大きい。

 私は緩みそうになる口元に力を入れて必死に笑みを堪える。

 この人は何度も私を助けてくれる。私もなにかしてあげたい。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 球技大会の試合が全て終わり、放課後のSHRにて俺と月は職員室まで来るようにと桜木先生に言われていたので、夏木さんと善夜に乱橋さんを教室まで迎えにいくようお願いしてから、俺たちは職員室に向かう。


「なんだろうね。私たちなにかしたかな?」


「乱橋さんの事じゃないかな?」


「あっそうかも!急に呼び出されたからビックリしちゃった」


 職員室に着くと、桜木先生が俺たちに気づいて出てきてくれる。


「呼び出してすまんな。乱橋の事なんだが」


 予想していた通り、乱橋さんの事らしい。俺たちは職員室から少し離れ、話を始める。


「乱橋の担任に早速話をしてみたんだが、SHRが終わったら思い当たる生徒に話をすると言っていたんだ。俺は少し待てと止めたが、担任は自分だから自分の判断でそうすると言っていた。止められなくてほんとにすまん」


「いえ、先生はすぐに対応してくれたので謝る必要ないですよ。むしろありがとうございます」


 桜木先生はそう言ってくれると助かると言ってから続ける。


「非常に申し訳ないが、俺の目が届かない間は乱橋の事を助けてやってほしい」


「もちろんです。もう友だちですし、当たり前です」


「お前たちはほんとにいいやつだな。助かるよ」


 話が終わると、俺と月は急いで夏木さんたちに連絡し、みんなが待っている場所に向かう。


 ______


 俺たちは乱橋さんを連れてコンビニに来ていた。ここでお菓子や飲み物を買ってからみんなで月の家に行こうとなっている。

 最初はカラオケに行く予定だったが、近くのカラオケはどこも部屋が埋まっていて断念した。予約しておけば良かった。


「穂乃果ちゃんは好きなお菓子ありますか?」


「私はこれが好きです」


「それ美味しいよね。私も好き」


「月は甘いものならなんでも好きでしょ」


 女の子たちはお菓子コーナーでワイワイと盛り上がっている。その様子が微笑ましくて、自然と笑顔になる。心做しか乱橋さんも楽しそうだ。


「どうした?そんなに乱橋さん見つめて、浮気か?」


「違うよ。乱橋さんが楽しそうでよかったって思ってたんだよ」


「確かに楽しそうだな。あの子無表情だからな。涼や春風さんと一緒に過ごして表情豊かになったりしないかな」


 そうなると表情から考えが読みやすくて助かる。正直、友だちとか言って遊びに誘ったりして迷惑じゃないかなとか考えてしまう。

 バイトの時も無表情で接客するので少しヒヤヒヤする。暇だからほとんどお客様と関わることがないのだけが救いだ。


 お菓子や飲み物を買い込み、月の家に向かう途中、夏木さんが後ろの方を歩く俺と月に近づいてくると、小声で聞いてきた。


「もしかしてさ、穂乃果っていじめられてる?」


 いつもの夏木さんの勘の良さかと思ったが、今回はちゃんと思い当たる節があるようで、乱橋さんを教室に迎えに行った時の事を話し出す。


「月と四宮にお願いされて、穂乃果の事迎えに行った時さ、ワタシたちが教室を出る直前に、穂乃果のクラスメイトの女子が、上級生と絡んでる私を見てって事かよって言ってるのが聞こえてきてさ」


「そんな事があったんだ」


「だから、もしかしたらいじめられてるから、月は穂乃果に友だちになろうって言い出したのかなって」


 さすがは月の親友。月のことを分かっている。やはり夏木さんの勘の鋭さは健在のようだ。


「もしかして、私が友だちになろうって言ったから穂乃果ちゃんのいじめが悪化する可能性もあるのかな」


「やっぱいじめられてるんだ」


「黙っててごめん。でも本人が認めないから、俺たちが勝手に言い触らすのは違うかと思って」


「大丈夫。知っても知らなくても穂乃果とは友だちになってたし。でも知ったからにはワタシも出来ることがあれば協力するよ」


 夏木さんの申し出はありがたい。俺と月が乱橋さんを見ていられない時に、夏木さんにお願い出来る。

 俺たちのせいでいじめが悪化すると決まった訳では無いが、その可能性は俺も考えてなかったし、もしもの時のことを考えると、人数は多い方がいい。


「とりあえず、本人が認めない以上、この話は本人の前ではしないでおこう。堅治たちにはタイミングを見て伝えた方がいいかもしれない」


 俺たちはお互いに頷き合い、本人に悟られないように普段通り過ごすことにする。

 本当は本人が認めてくれる方が助かるけど、無理やり認めさせるのは違う気がする。

 なんとかなればいいけど。

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