第120話 穂乃果も一緒に
story teller ~四宮太陽~
会議室を出た俺はどうしようかと迷う。体育館に戻れば乱橋さんのチームメイトに会う可能性がある。乱橋さんはあまり会いたくないと思っているかもしれない。
「友だちの応援をしてましたよね?私のせいで戻りにくいですよね。すみません」
乱橋さんは俺が迷っている事を見透かした様に謝ってくる。乱橋さんが悪いわけではないが、戻りにくいのは確かなので、こっちが申し訳なくなってきてしまう。
「ううん、穂乃果ちゃんのせいじゃないから気にしないで」
「月さんは優しいですね。ほんとすみません」
桜木先生との話の後会議室に戻り、月と乱橋さんはお互いに自己紹介をしていた。友だちならとお互いに名前呼びにする事になったらしい。
「別に優しくないよ。当たり前の事しただけだよ」
2人の会話を聞きながら、堅治の応援にでも行こうかと考えていると、体育館から人が出てくる。その中には乱橋さんに文句を言っていた人たちもいるのが見えた。
俺はその人たちから乱橋さんが俺の体に隠れるように移動する。月との話に夢中になっていて、乱橋さんもその人たちに気づいていないはずだ。
「今なら試合も終わってるだろうし、体育館に戻る?」
その人たちが離れた事を確認してから、2人に聞いてみる。月は少し悩んでいるようだったが、乱橋さんが戻っても大丈夫ですと言うと、わかったと言ってくれた。
体育館に入ると、試合を終えた冬草さんが夏木さんたちと話しているのを見つける。
俺たちは3人の元に行き、声をかける。
「冬草さんお疲れ様」
「ありがとうございます。あれ?その子は先程の相手チームにいた・・・」
冬草さんは俺の後ろに立っている女の子に気がついたようだ。俺は乱橋さんの横に立つように移動し、紹介する。
「乱橋穂乃果さん。さっき冬草さんたちのチームと試合してた1年生」
「途中で抜けた方ですよね?」
「はい。試合中に抜けてしまってすみません。乱橋穂乃果です」
「私は冬草涼です」
2人はお互いにぺこりと頭を下げている。話し方が丁寧な人同士なので、所作が静かというか、とても綺麗に見える。
「えっと、待って待って?なにどういう事?」
夏木さんはなんでこの子が一緒にいるの?と言いたいのだろう。俺と月は、いじめられているかもしれないという話は避けて、友だちになったという事だけ説明する。
「だから、光も車谷くんも穂乃果ちゃんと仲良くしてあげてね」
「それは構わないけど。あっ、自己紹介まだだったよね。ワタシは夏木光。こっちは車谷善夜ね」
「車谷です。よろしくお願いします」
「乱橋穂乃果です。よろしくお願いします」
みんなもすぐに乱橋さんを受け入れてくれて助かる。
それぞれ自己紹介を終えて、試合に負けたという冬草さんも一緒に堅治の応援に向かう。
「四宮先輩。まだ友だちがいるんですか?」
「うん。この学校にはもう1人ね。秋川堅治って友だちがいるよ」
「この学校にはって事は、他の学校にも友だちがいるんですか?」
「そうだね。前にバイト中に会った山田も、広い意味で言えば友だちかもしれない。それ以外にもいるよ」
俺がそう言うと、羨ましいですと言っている。その時の乱橋さんの顔は寂しそうに見えた。
______
「先輩って呼ばれるのめちゃくちゃいいな」
自己紹介を終えた堅治は、乱橋さんに先輩と呼ばれ感動している。俺と同じく部活をして来なかった人なので、今まで後輩との関わりは薄かったからほんとに嬉しいのだろう。
わかるぞ堅治。俺も最初はそうだった。
急に人が増えたので少し緊張しているのか、乱橋さんは俺の影に隠れる。別に隠れるのはいいのだが、月がものすごく複雑な顔をしているので、後でたくさん甘やかすことにする。今日はバイトも休みだし。
「堅治のチームは順調に勝ち進んでるの?」
善夜は気になっていたのか、話が途切れたタイミングで堅治に問いかける。
すると堅治は親指を立てて、爽やかな笑顔でこう言った。
「順調に負けた!」
______
応援するチームも無くなり、やることの無い俺たちはいつも昼食を食べている中庭で時間を潰していた。
「お昼はいつもみんなでここに集まるんだよ」
「そうなんですか」
「明日からは穂乃果ちゃんもおいでよ!私教室までお迎えにいくよ!」
「・・・私も一緒でいいのですか?」
「何言ってるの?もう友だちだからいいんだよ!」
月の言葉に俺たちも頷く。すると、普段は無表情な乱橋さんが、少し頬を緩め、ありがとうございますと呟いている。
乱橋さんが嬉しそうなので、少し安心した。月の友だちになろう発言は間違いではなかったのだ。
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