第117話 担任の気遣い
story teller ~春風月~
放課後、光と2人で帰り道を歩いていると、太陽くんからメッセージが届く。
('SUN' ごめん。バイトに向かう途中で乱橋さんを見かけて、道に迷ってるみたいだから案内するね)
私に心配させないようにちゃんと連絡をくれるのは嬉しいが、女の子と一緒というのは複雑だ。まぁ太陽くんは浮気とかする人じゃないと信じてはいるけど。
「なんかあった?」
私が面白くなさそうな顔をしていたのか、光が声をかけてきたので、太陽くんからのメッセージを見せる。
すると、あー四宮なら当たり前にそういう事しそうだねと言う。
ちなみに、乱橋さんの事はみんなにも話しているので、昼休みに太陽くんが飲み物を買ってあげた後輩という認識になっているはずだ。
「太陽くん優しすぎるから。その優しさで他の子が惚れないか不安になるよ」
「んーでも四宮は月一筋って感じだし、告白されても普通に振りそう」
告白されること自体が嫌なのだが、私も太陽くんと付き合た後も告白自体はされるので、何も言えなくなる。
「そんな気にしなくても大丈夫じゃない?もし四宮が月を振って別の相手を選んだら、ワタシがぶっ飛ばすよ」
光が心強い事を言ってくれるので、ありがとうと答えて、2人で笑い合う。
光のおかげでちょっとだけ気が楽になった。
******
story teller ~四宮太陽~
今日は全体集会があり、全校生徒が体育館に集まる。朝のHRの代わりに行われるので、教室に荷物を置いたらすぐに体育館に移動しなければならない。
俺と月、それから夏木さんと善夜は1組の教室を出て、2組に顔を出す。すると堅治が俺たちに気づいて、冬草さんと共に教室から出てきた。
「おはようみんな」
「おはようございます」
2人におはようと返し、みんなで移動する。
体育館へ向かう時は中央階段よりも、廊下の端にある非常階段を使った方が早いので、廊下を抜けて外に出る。
すると、1年生も同じように非常階段から降りてきていて混雑しているのだが、俺たちを見てヒソヒソと話す声が聞こえてくる。
「やっぱあの人可愛いよな」
「わかる。というかあのグループの女子の先輩みんな可愛い」
「でも一緒にいる男は1人除いて、あとはかっこよくないよな」
「でも春風先輩はあの人と付き合ってるらしいぜ?」
「まじかよ。それなら俺でもいけそうなのに」
うん、ものすごく居心地が悪いというか。ちょっとムカつく。堅治と善夜も聞こえているようで、少し気まずそうにしている。
「なにあの1年。ムカつくんだけど」
「光。気持ちはわかるけど相手にしちゃダメ。太陽くんたちをバカにした人の顔は覚えたけど」
「なんか感じ悪かったですね。次から中央階段で降りるようにしましょう」
男3人は黙って耐えていたが、女の子3人は耐えられなかったらしい。珍しく月も怒っているようだ。でも3人の気持ちはすごくありがたい。
「俺たちは気にしないから大丈夫だよ。怒ってくれてありがとう」
俺が月たちにそう伝えると、堅治と善夜も気にしないから大丈夫だと言っている。
それでも月たちは納得できない様子だ。
「なんかむしゃくしゃする。月、四宮、2人でイチャイチャしてこの気持ちを変えてよ」
「「お願いされてイチャイチャするのは嫌なんだけど!?」」
俺と月は、偶然にも同じ言葉を同じタイミングで言う。
そんな俺たちを見て、2人は仲良しだなぁと他の4人は満足気にしている。
別にイチャイチャはしてないけど、ちょっと空気が変わったのなら結果オーライだ。
体育館に入り、出席番号順に座る。
すぐに校長先生の挨拶が始まり、そこからは先生や各部活動、委員会の人たちからの伝言やイベント告知などが始まる。
俺は話を聞きながらうとうとし始め、寝ないように必死に耐える。全体集会の時は眠くなってしまう。
周りを見ると、他の人たちも同じように首がこくんこくんと動いていたり、既に寝ている人もいるが、俺が気になったのは、1年生男子の視線である。
なんとなく察していたが、その視線の先はやはり月だった。
月は既に寝落ちしている人たちの仲間入りを果たしていて気づいていないだろうが、男子たちは壇上で話す人の事なんか無視して、月に視線を送ることに集中している。
月はモテるので、仕方がない事かもしれないが、それでも自分の彼女がジロジロ見られるのはあまり気持ちのいいものでは無い。
今までも、月が見られている事は多々あったが、ここまで遠慮なく見てくる人たちはいなかった。
あの1年生男子たちが、今までの人たちとは違い特殊なのかもしれない。
俺はだからと言って注意出来ないしなーと考えていると、体育館の入口側、生徒から見ると背中側に立っている教師陣の中から俺たち2年1組の担任、桜木先生が座っている生徒の間を縫って、月に視線を向ける男子生徒たちを注意し、前を向かせる。
ありがたいと思っていると、桜木先生はそのまま俺の元にやって来て、後ろにこいと言ってくる。
俺は訳がわからないまま先生について行く。
体育館から外に出て、桜木先生は俺の方を向くと、話を始めた。
「お前が春風と付き合っているのは知っている。春風がモテるのも、1年の時から担任をしてるからわかってる。彼女に向けられる視線が彼氏として嫌だってのも同じ男だからわかるが、それでお前まで春風を見て、集会時の話を聞かないのは先生として注意しなければならない」
「すみません。気をつけます」
「まぁお前は真面目な生徒だからわかってくれると思っていた。その代わりと言うか、集会の時くらいは、春風を見ている生徒を俺がなるべく注意するから、お前はちゃんと話を聞くように。あと春風に寝るなと伝えといてくれ。あんなに気持ちよさそうに寝られると起こすのも申し訳なくなる」
先生は笑いながら、俺にとって嬉しい提案をしてくれる。月を起こさないのは、月に向けられる視線に気づかせないための心遣いなのだろう。
この先生はほんとに優しい人だと思う。
友だちにも恵まれ、先生にも恵まれている俺は幸せ者なのかもしれない。
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