第116話 新人
story teller ~乱橋穂乃果~
「俺と付き合ってくれませんか」
私の前に立つ男の子は、頬を赤く染めながら頭を下げて手を差し出してくる。
入学してからというもの、告白してくる人が後を絶たない。
気持ちは嬉しいが、私はよく知りもしない相手と付き合える人間ではないので、ごめんなさいとお断りする。
男の子は、来てくれてありがとうと言うと、足早に去っていった。
これでまた私は・・・。
******
story teller ~四宮太陽~
放課後になり、俺はバイト先に向かって歩いていた。
すると、前方に昼休みにも見た姿をみつける。
スマホを見ては、周りを見渡し、またスマホを見る。
同じ行動を何度か繰り返しているので、困っているのかもしれない。
「乱橋さん」
俺が後ろから声をかけると、昼休みに声をかけた時同様、ビクッと体を震わせて、乱橋さんは振り返る。
「四宮さんでしたか。びっくりさせないで下さい」
「ごめん。なにか困ってるのかと思って」
「いえ、大丈夫です。1人でどうにかできます」
言い方的に困ってはいるようだ。
でもと俺が言うと、これ以上迷惑はかけられませんと断られる。ほんとに大丈夫かな。心配だ。
「じゃあ、俺が困ってるから助けてくれる?」
「四宮さんが?それならお昼のお礼をするチャンスですね。なんですか?」
「乱橋さんが困っているのに、大丈夫って言うんだ。助けてくれない?」
我ながらめちゃくちゃだと思うが、乱橋さんに効いたようで、うう。と唸ってから、諦めたようにスマホで表示した地図を見せてくる。
「ここに行きたいんですが、この辺は初めてなので土地勘がなくて」
どうやら道に迷っていたらしい。俺は地図に表示された目的地を確認してから、乱橋さんを案内することにした。
「ここなら分かるよ。というか俺もこれからそこに向かうし」
「えっ、四宮さんもここにいくのですか?」
「うん。だから一緒にいこうか?」
そう言うと少し安心したように、お願いしますと言い着いてきてくれる。
一応、月にはメッセージで、乱橋さんと一緒だと伝えておく。
目的地である俺のバイト先につき、2人で中に入ると、相変わらずカウンターで暇している店長はすぐに反応してくる。
「おはよう。ってか、えっ!何その子!四宮くん彼女変えた?月ちゃんとは別れたの!?」
「おはようございます。違いますから。月とは別れてませんし、この子はこのお店に用事があるらしいので連れてきただけです」
店長のハイテンションに冷静に返す。最近は店長とのやりとりにも慣れてきた。
俺と店長のやり取りを見て、乱橋さんはあれ?と呟いている。なにかあったのだろうか。
「四宮さんはこのお店で働いてるんですか?」
「そうだよ?」
「えっと、私は面接の為にここにきたのですが」
乱橋さんが言うと同時に、店長はすごい速さでカウンターから出てくると、乱橋さんの手を掴んで、採用!と言う。
乱橋さんは訳もわからずにえっ?えっ?と困惑した様子だ。
山田が辞めてから、バイトを募集しているのは知っていたが、まさか乱橋さんの用事が面接だとは思っていなかった為俺も困惑する。
「えっ?採用?」
「そう!採用!昨日電話くれた乱橋さんだよね?四宮くんの後輩ってことでしょ?それなら採用だよ!可愛いし!なんだ、面接だって早く言ってよ!早速今日から働ける?」
「でも面接もまだ・・・」
「いいのいいの!細かいことは気にしない!」
早口に言う店長に、乱橋さんが圧倒されているので助けることにする。
「店長、乱橋さんが困ってます。一気に色々伝えすぎですよ」
「あっごめん。可愛い子だったからついテンション上がっちゃってごめんね?」
謝る店長に、乱橋さんは大丈夫ですと伝えてから、カウンター前の席に案内される。
俺は事務所に入り、エプロンを付けて、表に出る。出勤までまだ時間はあるが、乱橋さんを店長と2人にすると少し可哀想だ。
「穂乃果ちゃんって呼んでもいい?」
「はい、構いません。私はなんと呼べばいいでしょうか?」
「楓って名前だから、かえぴょんでいいよ」
「店長、その歳でかえぴょんはキツイです」
「キツイとか言うな!だから結婚できないとか言うな!」
そこまでは言ってないのだが、めんどくさいので放置する事にする。
店長は、四宮くんが無視する〜と泣き真似をしながら、乱橋さんに両手を広げて抱きつこうとしている。カウンター越しだし、危ないからやめて欲しい。
「それで、乱橋さんはここでバイトするの?」
「えっと、いいのでしょうか?」
俺が聞くと、乱橋さんは店長に確認する。
「いいよ!いいよ!さっきも言ったけど採用だからさ!穂乃果ちゃんさえよければだけど」
「私は構いません。というかここがいいなと思ったので電話で応募したのです」
「ありがとー!!人が足りなくてさ、四宮くんのシフトがどんどん増えて大変だったんだよ。それで穂乃果ちゃんはいつから出勤出来る?」
「私はいつからでも構いません。基本暇なので、シフトもたくさん入れてくれて問題ないです」
店長は乱橋さんの言葉を聞いてやったー!と喜んでいる。俺も人が増えるのは嬉しい。忙しいからではなく、暇だから話し相手が欲しいのだ。店長は常にハイテンションだから、2人きりだと疲れるし。
こうして俺のバイト先に新人が入ってきたのだった。
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