第113話 進級
story teller ~九十九朝日~
「あはははははははは」
嵌められて、お情けで帰して貰えたにも関わらず笑いが込み上げてきて我慢できなかった。
「あー、楽しかった」
追い詰められた時は死ぬほど悔しかった。
横山架流に蹴られた時は怒りしか湧かなかったのに、四宮太陽に殴られた時は気持ちよささえ感じた。
心地のいい気持ちに浸っていると、前から誰か歩いてくることに気がつく。そいつは深夜にも関わらず、制服を着ていて、それなのに高校生とは思えないほど大人びて見える。
「上手くいかなかった?」
どうせどこかに監視でも付けていたのだろう。
嘘をついてもバレていると思い、失敗したよと素直に認める。
「そう。じゃあ今後、あなたの学費は払えないわ」
「君が払ってる訳じゃないでしょ。どこかのおじさんが君に払ったお金を、君が俺に渡してるだけだからね」
これが、俺と葛原の契約。
葛原に協力する代わりに、大学の学費を払ってもらう。だが、この時点でその契約は終わり。大学も辞めなければいけないのだろう。
「それじゃ」
「待ってよ」
伝えたい事だけを伝えて、その場を去ろうとする葛原を呼び止める。
「まだ俺を使ってよ。見返りはいらない」
「・・・なぜ?まだ春風月を狙ってるの?」
「春風月はもういいよ。それよりも四宮太陽に興味が出たよ」
俺の言葉に、葛原の眉がピクリと動く。
「そういう趣味もあるの?」
「違うよ。あの子に関わっていれば楽しいことが起こりそうだなって」
「好きにすれば」
拒否られなかったので、葛原の後をついていく。
******
story teller ~四宮太陽~
帰宅して、母さんに叱られたあと、星羅は俺の部屋にいた。
九十九に殴られた際に、口の端が切れていたので手当てしてくれているのだ。
「そういえば、架流さんと一緒に来たよね?なんで遅れてたの?」
俺が思い出してから聞くと、えーっとと宙を見ながら、なにか言いにくそうにしている。
それから良い言い訳が思いつかなかったのか、諦めたように話す。
「実は葛原さんに会いに行ったんだよね。会えなかったけど」
「葛原に会いに?」
「うん。私なら葛原さんの家も知ってるし、警戒されずに会えるかと思って」
それで架流さんと花江さんは星羅について行ったって訳か。
「最初は反対されたんだけど、私がどうしてもって言ったら、架流さんたちが着いてきてくれるってことになったの」
「なんでそんな事したんだ・・・」
俺に怒られると思っていたのか、少し泣きそうな顔をしながら、星羅は答える。
「だって、もうお兄ちゃんたちに何もして欲しくなかったから。直接会ってもなにも変わらないかもしれないけど、それでも言いたかったの。ごめんなさい」
星羅は葛原に振り回される俺たちの為に、自分を危険に晒してでも葛原を止めたかったのだろう。
みんなが自分の出来ることをする中で、自分だけなにも出来ないのが嫌だったのかもしれない。自分に出来ることは、葛原の家に直接出向いて話をする事だと思ったのだろう。
「いいんだよ。でも次からは勝手に危ないことはするなよ?必ず俺に言ってくれ。星羅の助けが必要な時はちゃんと声をかけるから」
星羅は泣き出してしまい。そんな星羅の頭を撫でる。
早く葛原との関係をどうにかしなければ。
______
九十九の件から1ヶ月程経過し、俺たちは今日から2年生になる。
クラス発表の貼り紙を、校舎の入口で確認する。どうやら俺は1組で、担任も去年と同じだ。
他のみんなはどうだろうかと、1組に記載された名前を1つずつ確認していくと、月の名前を見つけた。
また同じクラスになれたと心の中でガッツポーズを決める。
「やった!また太陽くんと同じクラスだ!」
月も気づいたようで、嬉しそうに俺の手を取って飛び跳ねる。可愛いけど、スカートが捲れている。俺はしれっと月のスカートを押さえて、周りに見えないようにする。
「太陽は1組か、俺は2組だから去年よりは教室が近いな」
「私も堅治くんと同じ2組でした」
「ワタシと善夜も月たちと同じだね。また2人のイチャイチャに耐えるのか」
「太陽たちってそんなにイチャイチャしてるの?」
みんなもクラスを確認し、俺たちの周りに集まってくる。俺たちがイチャイチャしてるかどうかは置いといて、みんな同じクラスならいいなと思っていたが、その願いは叶わなかった。
それでも隣のクラスなだけ、運が良かったのかもしれない。
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