第110話 俺の知らない作戦

story teller ~四宮太陽~


 俺は嫌な予感がして、すぐに電話に出る。電話の向こう側の月は少し泣いているようだ。


「もしもし、月?どうしたの?」


「・・・この前女の人と一緒にいたでしょ?」


 俺は身に覚えのない事を言われ、戸惑う。そんな俺の様子を見て、山田はスピーカーにしてくれと言ってくる。


「四宮くんが山田くんと遊びに行くって言ってた日、ほんとは女の人といたんでしょ。私知ってるから!」


「ちょっと待って月!」


 何の話だかわけがわからないと続けようとした時に、月は言葉を被せてこう言ってきた。


「別れよう。さよなら」


 それだけ言うと、電話を切られてしまった。急いでかけ直すも取らない。

 どうする。月の家に行くか。でも迷惑になるんじゃ。

 そんな事を考えていると、山田は頬を濡らしながら、ごめんと謝ってくる。


「なんで、山田が謝るの」


「実は、四宮を遊びに誘ったのも九十九の指示なんだ。その日、女の人に話しかけられなかったか?」


 そう言われて思い出す。道を教えるために案内した女性がいた。急に手を繋いできたりしてきて。

 そこまで考えて理解する。


「その女の人も、九十九が用意したんだ。四宮に話しかけて、浮気に見えるように一緒にいろって」


 手を繋いで来た時の写真でもどこかで撮られていたのだろう。そして、ケーキバイキングの時に月の様子がおかしかったのは、九十九がその写真を見せてきたから。

 やられた。九十九を信用してしまった俺がバカだった。


「ごめん四宮。ほんとにごめん」


「今更謝られても」


 そう言い残し、急いで月の家に向かおうとした時、再度スマホが鳴る。

 今度は優希くんからの着信だった。


 こんな時になんだと思いながら、通話を開始すると、もしもしと言う前に、優希くんは言葉を発する。


「太陽さん。心配しないでください。今の春風さんの電話はフェイクです」


 どういう事だ。フェイクってなんだ。そもそもなんで優希くんから電話が。

 俺が理解に苦しんでいると、それを見ているかのように、優希くんは説明を始める。


「架流さんが、九十九さんのこと調べていたのは知ってますよね?」


「知ってるよ」


「実は、架流さんの知り合いの女性が九十九さんと付き合っていたらしくて、酷い別れ方をしたみたいなんです。それでその女性の話を聞いたらしいんです。その時に写真を見せてもらっていたみたいです」


 なるほど。それで架流さんはどこかで見たことあると言っていたのか。


「それで架流さんは九十九さんを警戒してたんです。そしたら、春風さんから架流さんに対して、太陽くんが浮気をしたかもしれないと連絡したみたいで」


 なんで、架流さんに?という疑問はあるが、まずは全部話を聞いてからにする。


「でも、春風さんは太陽さんが浮気をするような人じゃないから、太陽さんと女性が一緒に写っている写真を九十九さんが持っている事が怪しいと疑ったらしいんです。そして、バイトで忙しい太陽さんには内緒のまま、みんなで九十九さんについて調べてました」


 黙っててすみませんと優希くんは謝るが、とりあえず月が別れようと言ったのは嘘だと分かり、安心する。


「でも、九十九さんがなにをしようとしているのか全然わからなくて、そしたら今日、春風さんが九十九さんに呼び出されて、今一緒にいます」


「今!?どこにいるの!」


「安心してください。俺と堅治さんが2人を見張ってます。もし春風さんが危なくなったら俺たちで止めます。あと冬草さんと善夜さんが夏木さんと一緒にいて、俺たちのところまで連れてきてくれます。夏木さんの前で九十九さんの本性をバラして、夏木さんから九十九さんを引き離そうって作戦です」


「ちょっと待って、それだと夏木さんはまた傷つく」


「また?またってなんですか?」


俺はしまったと焦る。みんなは夏木さんの過去を知らない。そして、それをベラベラと話す訳にはいかない。

優希くんになんでもないと言って誤魔化し、俺も合流する事にした。


「優希くん、今いる場所教えて欲しい。俺もすぐ向かうから」


 優希くんはわかりました言うと電話を切り、メッセージで位置情報を送ってくれる。

 その場所は、歩いて20分ほどの場所にある公園だった。走れば間に合うかもしれない。


「俺も一緒に行っていいか?」


 山田は俺に許可を求めてくるが、俺はそれを無視して走り出した。


 ______


 公園に着くと、ベンチに九十九と月が座っているのが見える。

 すぐに乗り込もうとしたが、公衆トイレの影に隠れていた堅治に捕まる。


「バカ、お前が出ていったら九十九が何考えてるか、素直に話さないかもしれないだろ」


「でも月が危ない。それにここからだと会話が―――」


 俺が言い切る前に、堅治は自分のスマホを俺見せる。

 通話が繋がっており、相手は月だ。


「春風さんとは通話を繋いでる。太陽に電話したあとすぐに俺に電話をかけて、俺たちの声が漏れないように、春風さん側はミュートにしてもらってる」


「よくそこまでわかるな」


「九十九に会う前に合流して、通話は繋げておこうって話になったんだよ」


 前もって話し合い、準備を進めたわけか。堅治のスマホは使っていたから、優希くんが俺に電話をしてきたという事だろう。

 俺は堅治と優希くんと一緒に、スマホから流れる会話に耳を傾ける。


「月ちゃんはなにも悪くないよ。悪いのは太陽くんだよ。こんな可愛い彼女がいて、他の女性にうつつを抜かすなんて」


「私、太陽くんの事信じていたのに。もう何もかもが嫌になってきました」


 これが演技だとしたら、月は女優になれるかもしれない。泣きながら、思ってもない言葉をつらつらと並べている。

 本音だったら俺は間違いなく死ぬ。


「月ちゃん、そんな男の事は忘れて、俺と付き合わない?俺なら幸せに出来るよ」


「でも、九十九さんには光が」


「光ちゃんとはね、もう終わったんだ。過去の男がどうしても忘れられないって言ってた」


 過去の男と言うのは山田の事だろう。あとから辻褄の合うように、山田の存在を匂わせといて、夏木さんを山田に渡そうってことだろう。


「じゃあ私と―――」


「月?」


 月が何か言いかけた時、聞き覚えのある女性の声が通話を通して聞こえてくる。

 俺たちが、九十九と月の座っている方を見ると、2人の目の前に、夏木さんが立っていた。

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