第109話 山田の気持ち

story teller ~四宮太陽~


「ごめんね、出勤増やして迷惑じゃない?」


「大丈夫ですよ。山田とは連絡取れずですか?」


「うん。電話もメッセージも反応無し」


 山田と連絡が取れなくなり、俺の出勤回数は少し増えていた。別にそれ自体は構わないが、原因は俺と夏木さんが繋がっていたからだろうと思うと、店長に対して、申し訳ない気持ちになる。


「じゃあお疲れ様でした」


「お疲れ様、気をつけて帰ってね」


 俺は店長と挨拶をかわし、店を出る。

 早く帰って暖まりたいと思い、早足で帰ろうとすると、後ろから名前を呼ばれる。


「四宮」


「あれ?山田?」


 振り返ると山田が立っていて、俺が出てくるのをずっと待っていたのか、震えている。

 俺たちは場所を変えるため、近くのコンビニで暖かい飲み物を買ってから、コンビニの前で話すことにする。


「急に連絡も取れなくなって心配したよ。どうしたの?」


「それはごめん」


「夏木さんとのこと?」


 俺がそう聞くと、山田が体を震わせて反応する。やっぱりそれが原因なのかと、複雑な気持ちになる。


「四宮は最初から知ってたのか?」


「いや、知らなかったよ。夏木さんがお店に来た日の帰りに聞いたんだ。山田は俺と夏木さんが友だちなの知ってた?」


「四宮の彼女が春風だって聞いて、繋がりはあるだろうと思ってた。けど、ハンバーガーショップで会った時のことは最近思い出したよ」


 そっかと短く返すと、山田は申し訳なさそうな顔をして、俺を見る。


「四宮は俺のことムカつかないのか?」


「どちらかと言うとムカつくかな。でも、なにも知らなかったとはいえ、山田とはこうして知り合いになったし、今は山田にもなにか事情があったのかなって思ってる。善夜、山田が殴った人にはちゃんと謝って欲しいけど、夏木さんには近づいて欲しくないかも」


「そうだよな。光に、俺が謝ってたって伝えてくれないか?」


「それは別にいいけど、期待はしないでね。夏木さんは大切な友だちだから、嫌な思いはして欲しくない。山田の名前を出すだけで嫌な気持ちになるかもしれないから、伝えられない可能性の方が高いし」


 俺がそう言うと、四宮の判断で構わないと返してくる。

 今更謝ったところで、今までにやってきた事が帳消しになる訳ではないが、根っからの悪人という訳でもないのだろう。

 バイト先が同じで、少し一緒に過ごした仲だからなんとなくわかるが、山田はしつこく夏木さんをつけ回すような人にはどうしても見えない。そもそも、山田がそういう人なら、中学の時に夏木さんと別れた時点でしつこく復縁を迫っていたはずだ。

 そこだけが腑に落ちないので、俺は山田に気になっている事を聞いてみる。


「夏木さんにしつこく迫ったのって、誰かの指示だったりする?」


 俺の言葉を聞いて、山田は驚いた顔をこちらに向ける。そういう事らしい。

 1人の人物が頭に浮かぶ。


「葛原未来に指示されたの?」


「四宮、お前何者。いや、今はいい。葛原の事も知ってるけど、光に迫れって指示してきたのは別の人だよ」


 そこまで言うと、山田は手に持った缶コーヒーを1口飲み、息を整えてからその人物の名前を俺に告げる。


「九十九朝日って人だ」


「なんで九十九さんが・・・」


「やっぱり知ってるのか」


「山田、知ってることを教えて欲しい。九十九さんがどうしてお前にそんな指示を出したのか、葛原と関係しているのか、夏木さんになにをしようとしてるのか」


 俺は山田の肩を掴み、体を揺らしながら問いかける。

 山田はそんな俺を制して、1つずつ話すからと言うので、俺は山田の言葉を待つ。


「俺も全部把握してるわけじゃないけど、まずなにを指示されたかって事から話すよ。俺は葛原に光との関係を知られて、あの女は俺の光への気持ちを利用してきた。わたしの言うことを聞けば、最後は光と仲直りさせると」


 葛原の言いそうな事だと思う。山田の夏木さんに対して感じている負い目や、恋心を利用して、言葉巧みに動かそうとしたのだろう。


「葛原の目的は、光を四宮のグループから排除する事だったらしい。俺が光に付きまとい、四宮たちにも手を出せば、光は優しいから自分から離れていくだろ?」


「夏木さんならその判断を選びかねないね」


「でも九十九はそれに反対したんだ」


 俺がどうして?と聞くと、山田の口から今の話の流れでは出てこないはずの人物の名前が出る。


「四宮の彼女、春風だよ。春風月をねらってるんだ」


「どういう事なの?」


「九十九は生粋の女好きだ。葛原が春風の写真を見せると、この子が欲しいといったらしい。そして、光に近づいて、間接的に春風と繋がりを持とうとおもったんだ」


 という事は、4人で遊ぼうって言い出したのはその為なのか。

 俺はなんとなく九十九さんの考えがわかった。


「それで、光の前で春風に乗り換え、光を絶望に落としたあと、俺に光の側にいて支えてやれっていってきた。俺が光を支えて立ち直らせてしまったら葛原の思い描く計画と違う結果になるから、今にして思えば俺は最終的に切り捨てられると思うけど」


「でもなんでそれを俺に教えるの?」


「九十九は、葛原経由で、俺と光の過去を知っている。だから、と同じ事を光にするつもりなんだ。もうこれ以上光には傷ついて欲しくない。だから四宮、春風を九十九に近づけないようにして欲しい。出来るなら光の事も守って欲しい」


 そうお願いしてくるが、もう遅い。


「山田、実は先日、月と夏木さん、それに九十九さんの4人で遊んだんだ。ごめん」


 山田は俺の言ったことに、一瞬固まり、そして理解した瞬間に膝から崩れ落ちる。


「終わりだ。もう終わりだ。ごめん光。ごめん四宮」


 泣き出す山田を支えながら立ち上がらせる。それと同時に俺のスマホの着信音が鳴る。


 画面を確認すると、春風月と俺の恋人の名前が表示されていた。

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