第108話 九十九さんと
story teller ~とある男性~
山田と連絡が取れなくなり俺は少し焦るが、元々最後は切り捨てる予定だったのだから手間が省けたと、前向きに考えることにする。
俺と葛原の目的を同時に達成するためにはどうしても山田は邪魔だった。
あとは車谷という男だけだ。あいつは完全に光を意識している。となると排除しなければならない。
それなのに、ここ最近やつの情報だけが異常な程に少ない。
放課後も、四宮や春風月と行動を共にせず、電車に乗ってどこかにいっているらしい。
山田が俺の邪魔をしている?
その可能性も無くはないが、限りなく低いだろう。
葛原から紹介された、八代という男も役に立たない。
結局、俺以外の男は使えないのだと感じる。
******
story teller ~四宮太陽~
2月中旬になり、夏木さんから九十九さんと4人で遊ぼうと誘われたため、早速次の休みにと言うことになっていた。
「朝日さん!お待たせしました」
「こんにちは、遅れてすみません」
「ごめんなさい」
俺たちは待ち合わせていたコーヒーショップで既に待っていた九十九さんに声をかける。九十九さんは爽やかな笑顔で、気にしないでと言ってくれる。
夏木さんはいつの間にか朝日さん呼びになっているので、どんどんと距離が縮まっているのかもしれない。
善夜の事を考えると少し複雑だ。
「それじゃあ行こうか」
九十九さんは席を立って、俺たちを先導しお店を出る。
少し遅れたが、今日はバレンタインチョコの代わりとして月と夏木さんがケーキバイキングを奢ってくれるらしい。なんでも冬草さんのおすすめのお店があるしい。
目的のお店に着くと、ものすごい数のケーキが並んでいた。その種類の多さに圧倒され、無意識に見た感想が口から出る。
「凄いねぇ」
「うん、俺もここまでとは思わなかった」
俺たちは席に案内されたあと、早速ケーキを取りに席立つ。全部食べてみたいけどさすがに難しいよねと月と話をしながら、気になるケーキをトレイに乗せていく。
「太陽くんさえよければ、2人でちょっとずつシェアしない?」
「いいね!それなら全部は無理でもたくさんの種類食べ比べ出来るし」
「またイチャイチャしてる」
俺たちが盛り上がっていると、夏木さんが横から茶化してくる。
そういう夏木さんこそ、ここに来るまで九十九さんと手を繋いで2人の世界を作っていたよねと思ったが、思うだけで言わないでおくことにする。例のごとく睨んでくるし。
席に戻って、みんなで取ってきたケーキを食べる。
どのケーキもすごく美味しくて、思わず頬が緩む。
「太陽くん幸せそうな顔してるね」
隣に座る月は俺の顔を見て笑っている。そんなに顔に出てたかな。
「そういう月こそ、口の周りにクリームが付いてるよ?」
「えっどこ!?」
「あはは。嘘だよ」
太陽くん嫌いと言いながら顔を背けるが、口元は笑っているので本心ではないと分かる。
そんな俺たちを見て、九十九さんが微笑んでいる。
「2人はほんとに仲良しなんだね」
「そう見えるなら、順調にお付き合いできてるって事なので嬉しいですね」
順調なのはいい事だよねと言いながら九十九さんはケーキを口に運ぶ。
夏木さんは九十九さんと隣同士なので緊張しているのか、全然話そうとせず、バクバクとすごい勢いでケーキを食べている。
俺は最初に取ったケーキの数が少なく、すぐに食べ終えてしまう。月はケーキがまだ残っていて、1人で取りに行こうか、月を待つべきか迷っていると、気にしないで取りに行ってきていいよ?と月が言ってくれる。
それならと席を立つと、夏木さんも同じタイミングで食べ終えたようで、結果的に一緒に取りに行く形になった。
「四宮、ありがとうね」
「えっなにが?」
「月が幸せそうだからさ、四宮が月の彼氏でよかったと思って」
友だち思いの夏木さんらしい。きっと月が幸せなのがほんとに嬉しいのだろう。
もしかしたら、山田との事で他の人には同じ思いをして欲しくないと思っているのかもしれない。
ケーキを取りながら座っていた席を見ると、九十九さんが月にスマホを向けて何かを話している。
なんだか、少し嫉妬してしまうが、気まずいよりはいいかと考えるようにする。
席に戻ると、なんだか月の様子がおかしい気がしたが、本人はなんでもないと言っていたので気にしないようにする。
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