第106話 知り合い?

story teller ~四宮太陽~


 2月に入って最初の土曜日。

 夕方からバイトがあるので、家でゆっくりしていると、山田から少し出かけないかと誘われる。

 仲良くなってきたとは思っていたが、未だにバイト先でしか会ったことがなく、なんだか嬉しくなる。


 バイト先から少し離れたショッピングモールで待ち合わせしているのだが、山田から少し遅れると連絡が入った。

 仕方が無いので、飲み物を買い、ベンチに座っていると、すみませんと声をかけられる。

 顔を上げると、目の前に女性が立っており、困ったような顔でこちらを見ていた。


「どうしかしましたか?」


「この場所に行きたいのですが・・・」


 そういうと女性はスマホに表示された地図を見せてくる。

 この場所なら知っていると思い、口で説明するが、よくわかっていない様子。


「よかったら案内してくれませんか?」


「わかりました。いいですよ」


 山田にはメッセージを入れておけば大丈夫だろうと判断し、その女性を案内するためにベンチから立ち上がる。

 するとその女性は急に俺の手を握ってきた。


「あの、すみませんこういうのは」


「ごめんなさい。1人で場所がわからず不安だったので、迷惑ですか?」


「迷惑というか、彼女がいるので」


 俺がそう答えるとごめんなさいと素直に手を離してくれた。不安がっている女性に対し、少し申し訳ない気持ちになるが、仕方ない。

 その女性について来てくださいと伝え、目的の場所まで案内したのだった。


 ______


「おはようございます」


「おはようございまーす」


 俺と山田が一緒に店内に入ると、店長はあれ?という顔をしてこちらを見ている。


「おはよう。2人で一緒に来たの?」


「はい、バイト前に遊んでました」


「いつの間にそんな仲良しになったのー。私も混ぜてよー」


 冗談っぽく言う店長に、今度はみんなで遊びましょうと言ってから事務所に入る。


「あの人と出かけると大変だぜ?色んなところ連れ回されて、挙句荷物持ちさせるからさ」


「山田は店長と出かけた事あるんだ」


「数回だけ」


 この2人はほんと仲がいいと言うか、店長と従業員の関係ではないような気もするが、恋仲にも見えない。

 どちらかと姉と弟って感じな気がする。


 俺たちは出勤の準備をしてから、事務所を出ると、店長はいつもの様に入れ替わりで事務所に入っていく。


 それから1時間程経ち、カランカランと扉に付いた鈴が鳴る。やっとお客様が来た。

 いらっしゃいませと声を掛けながら、入口に駆け寄ると、月と夏木さん、それから冬草さんが立っていた。


「こんばんわ、四宮くん」


「月がどうしても、四宮の働いてるところ見たいって言うから連れてきた」


「ちょっと光!私は別にどうしてもとは言ってないよ!ただちょっと覗けるかなーって思っただけで・・・」


 月は少しでも俺に会いたかったのだろうか。そう思うと愛おしくなるが、勤務中なので必死に気持ちを抑える。


「御来店ありがとうございます。お席にご案内しますね」


 普段の接客通りに対応すると、3人がちゃんと働いてると言わんばかりに、おぉ!と声を上げる。

 なんだか彼女と友だちを接客するのは照れくさい。


 俺は3人を連れて、奥の席に案内しようとすると、1番後ろを歩いていた夏木さんが、少し遅れていることに気づく。

 どうしたのだろうと思っていると、カウンターを見て固まっているようだ。

 そしてカウンターの中にいる山田も同じように固まっている。


「どうしたの?2人とも知り合い?」


 俺が声をかけると、夏木さんはごめん、なんでもないと言って、月たちの座る席に向かう。

 なんだか、険しい顔をしていたような気がする。


「山田。あの人、えっと夏木さんと知り合い?」


 山田にも声をかけるが、少し悲しそうな顔をしたあとに、体調悪いから事務所で休むと言って居なくなってしまった。


 その後、夏木さんは何事もなかったように月たちと過ごし、山田は退勤時間になっても事務所から出てくることはなかった。

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