第104話 山田の過去

story teller ~春風月~


 太陽くんは今日からバイトが始まるとの事で、先に教室を出ていき、久しぶりに光と2人で帰り道を歩いていた。

 涼は秋川くんと遊びに行くらしいので、教室でそのまま分かれたのだ。


「光は九十九さんといい感じ?」


 私は気になっていたことを光に聞くと、恥ずかしそうに、光は頷く。

 いつもは真っ直ぐな光の瞳が、恋する乙女のそれになっていて、なんだか嬉しくなる。


「そういえば九十九さんが、太陽と四宮と4人で遊びたいって言ってた」


「あっこの前偶然会った時もそんなこと言ってた!」


 私は太陽くんと一緒にコンビニでおでんを買った時の事を思い出す。

 光はえっ会ったの?と驚いている。てっきり九十九さんから聞いているとばかり思っていた。


「うん、太陽くんとコンビニに入ったら偶然会ったんだよ。その時に4人で遊ぼうねって言ってた」


「そっか、四宮と一緒の時か」


 隠すことでもないので素直に答えると、光は安堵の声を漏らす。

 偶然とはいえ、好きな人が他の女の子と一緒なのは不安になると思う。もう少し言い方を考えればよかった。


「光の話も聞きたいからさ、このままうちに来ない?」


 私がそう提案すると、光は少し悩んだ後、そうしようかなと答える。

 なにか用事でもあったのかな。

 でも光がいいって言ってるし、あまり気にしないでおこう。


「それじゃいこ!」


 私たちはお菓子と飲み物を買って恋バナをしよう!と上機嫌でコンビニを目指した。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 何度か出勤を重ね、作業にも慣れてきた頃。店内には俺と山田以外誰もおらず、暇そうにスマホをいしまる山田に聞きたかったことを聞いてみることにした。


「山田って彼女いないの?」


「なにそれ、嫌味?」


「違うよ、純粋に気になっただけ」


「今はいないな」


 スマホから目を離さずに山田は答える。今はってことは、前はいたのかな。

 俺はやる事もないので、カウンターを拭きながら、更に質問を重ねる。


「前はいたの?」


 すると、こっちを見て、少し険しい顔をしながら山田は答えてくれる。


「中学の時な。最悪な別れ方したけど」


「それって聞いてもいい話?」


 なんだか、誰かに聞いてほしそうに見えたので、俺は山田に確認してみる。

 山田はいいよとは言わず、話し始めた。


「中学の時に、他校の彼女がいたんだ。元々俺は、その彼女の友だちが気になってて、それで彼女に近づけば、その友だちとも繋がれると思ったんだよ」


 俺はカウンターを拭く手を止めて、山田の話に耳を傾ける。


「俺はダチと、あと少しで彼女の友だちと繋がれそうとか、もし繋がれたら彼女捨てるわとか最低のやりとりをメッセージでしてたんだ。そしたらそれを彼女に見られてさ。振られたんだよ。それで別れた後に、俺は彼女の事が好きだったんだって気づいた。もう遅かったけどな」


 最低だろ?と俺に同意を求めてくるが、山田の悲しそうな目を見ると、うんとは言えなかった。

 もちろん最低だとは思うが、本人も反省しているように見えるし、なにより、俺が肯定も否定もしていいような話ではない気がする。自分で自分のした事を最低だと思える人間なら、変われると思う。


「そんな事があったんだね。今でも彼女のこと好きなの?」


「好き・・・だな。忘れられないかもしれないな」


 俺たちはお互いに黙ってしまい、暗い空気が店内に流れる。


「はいはい、湿っぽい話してないで、お姉さんと明るい話でもしようや」


 いつも間にか表に出てきていた店長が俺たちに明るく接してくる。


「店長いつから聞いてた!?」


「中学の時に、他校の彼女がいたんだ。辺りから?」


「最初からじゃねぇか!忘れろ!」


「いやでーす。忘れませーん」


 完全に店長のペースになっている。山田は店長を追いかけるが、店長はひょいひょいと山田を避けていく。

 この2人仲良しだな。というかずっと思ってたけど、山田って店長にタメ口なんだよな。


 2人が店内を明るい雰囲気にしたからか、お客様が入ってくる。


「いらっしゃいませ。お客様は2名様でよろしいでしょうか?」


 俺はお客様を案内するため、少し自信の着いた接客を披露する。

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