第102話 面接
story teller ~夏木光~
ワタシが改札を抜けると、既に九十九さんは待っていた。
「すみません、お待たせしました」
声をかけると、待ってないよと笑顔を向けてきてくれる。
「どこいこっか?」
「えっと、まずはご飯ですかね?」
「それならオススメのお店があるんだ。そこでもいい?」
「はい!どこでも大丈夫です!」
ワタシの返答を聞くと、じゃあいこっかと当たり前のように手を掴んでくる。山田に掴まれた時は嫌だったが、九十九さんなら嫌じゃない。
ワタシは九十九さんの手を握り返し、隣を歩きながら、ドキドキしていた。
料理を食べている間も、お水がなくなれば入れてきてくれたり、おしぼりが欲しいと思った時に差し出してきてくれたり、小さな気遣いがとても上手な人だと思った。
「美味しかった?」
「はい、とても美味しかったです!」
「それなら良かった。美味しそうに食べてる光ちゃん見てると、こっちまで幸せになるよ」
なんだか照れてしまう。
人にご飯を食べている所を見られるのは恥ずかしいが、そう言ってくれるのなら嬉しいかも。
「そういえばさ、初詣の時に一緒にいた友だち、四宮くんと春風さん?あの2人って付き合ってるの?」
「はい、付き合ってますよ」
ワタシがそう答えると、そっかそっかと言って何かを考えるような素振りを見せる。
中学の時の事が頭を過ぎり、少し不安になってしまう。
「なにか、あるんですか?」
「えっ?ううん、なにもないよ。それならあの2人も一緒に今度ダブルデートしようよ」
そういう事かと安心して、いいですよと伝える。
デート。そのフレーズを聞いて、嬉しくなる。
******
story teller ~四宮太陽~
ここ最近、月と遊んだり、堅治や善夜と遊んだりで出費が多くなっており、さすがに父さんにお金を振り込んで貰うが申し訳なくなってきていた。
そこで、バイトを始めようと思い立ち、ネットで学校周辺や、自宅周辺などを中心にバイトの募集をチマチマ見ていた。
あまり従業員数が多くないところがいいなと考えていたところ、学校から少し離れるが、個人経営のカフェがバイトを募集しているのを見つけた。
俺はその場で電話をかけ、面接の日程を決める。
そして、今日がその面接の日である。
土曜日の午後4時前。お昼時も過ぎ、外から見てもお客さんが少ないことが分かる。
だからこの時間を指定してきたのだろう。
俺がこんにちはと声を掛けながら店内に入ると、俺とそんなに歳の変わらない男の子が駆け寄ってくる。
エプロンを付けているので、従業員である事はすぐに分かったのだが、どこかで会ったことがある様な気がする。
だが思い出せず、じっと顔を見ていると、どうかしましたか?と声をかけられる。
「あっすみません、面接に来ました。四宮といいます」
「面接ですね。店長を呼んでくるので少しお待ちください」
そういうとその店員さんは奥の扉に入っていき、入れ替わりで若い女性が出てきた。
「四宮さんですね、こちらにどうぞ」
店長さんの案内で、奥の窓際の席に座る。
「私、店長の
「四宮太陽です。よろしくお願いします」
「早速ですが、履歴書を見せて頂いてもよろしいですか?」
俺が手に持っていた履歴書を渡すと、長岡さんは一通り目を通してから、こちらを見て、質問を開始する。
「四宮さんはなぜ、うちでバイトしようと思ったのですか?正直、時給は高くないですし、そんなに多く出勤出来るわけではないですよ?」
「えっと、バイト募集の情報を見つけて、すぐにお店を調べました。店内の雰囲気がすごくオシャレだなと思ったのと、正直、従業員数が多いところだと疲れてしまいそうだなと思ったので応募しました。時給に関しては自分で自由に使えるおこずかいが欲しいと思っているだけなので、気にしておりません」
俺はどう答えていいかわからず、素直に答えると、そうですかと一言だけいって、長岡さんは黙ってしまう。
その後もなにか考えるように、眉間にシワを寄せて、履歴書を見ている。なんだか、ソワソワしてくるが、我慢しなければ。
じっと言葉を待っていると、長岡さんはふふっと笑い出す。
俺はなにがなんだか分からずに困惑し、なにかおかしなところでもありましたか?と声をかける。
「いや、ごめんなさい。私にはこんな硬いのは無理だわ。ふふふっ、四宮くん、採用ね」
「えっ?」
俺は長岡さんの変貌っぷりにも驚いたが、採用と急に言われ、戸惑う。
すると最初に出てきた店員さんが、俺たちに近づき、話しかけてくる。
「店長、四宮さんが困ってるから。すみません四宮さん、うちの店長、ほんとはこんな感じの軽い人なんです」
「あっいえ大丈夫です」
「ごめんね、それで四宮くんはいつから出れる?明日?」
「えっと、明日は用事があるので難しいですが、月曜日からは大丈夫です」
「OK月曜日ね、あっ山田も月曜日出勤ね」
俺の返答を聞いて、長岡さんはあっさりと決めてしまう。
山田と呼ばれた店員さんは俺月曜日休みなんだけどと愚痴を吐いていた。
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