第101話 3学期の始まり
story teller ~葛原未来~
新年を迎えた朝、部屋から出ると珍しく母親がいた。
普段はどこに行っているのかわからないが、家に居ないことが多く、たまにふらっと帰ってきては部屋で寝ているだけ。
リビングでテレビを見ている姿なんて、いつぶりだろうか。
そう思いながら、わたしは母親に話しかける。
「あけましておめでとう。帰ってたんだね」
母親はわたしを一瞥すると、すぐにテレビに目線を戻す。
こうなる事はわかっていたのに、それでも母親に話しかけてしまう。わたしがこの人の子どもだからなのだろうか。
わたしは出かける準備をしてから、リビングを出る。
扉が閉まる刹那、帰ってこなくていいわよと聞こえた気がした。
行ってらっしゃいでも、気をつけてねでもなく。
******
story teller ~四宮太陽~
冬休みが終わり、学校が始まる。
元旦にみんなで神社に行った日以降、ほとんど家から出ずに過ごしていたので生活習慣が狂ってしまい、朝起きるのが辛い。
いつものように迎えに来てくれた月と一緒に登校し、教室に入ると、クラスメイトからあけましておめでとうと声をかけられる。
俺がじゃなくて月がだけど。
新学期最初の授業はHRであり、席替えをする事になった。
今の席は、月の隣で、位置も窓際の1番後ろと最高の場所なので、正直移動したくない。
それは月も同じようで、席替え嫌だねと声をかけてくる。
「また太陽くんの隣になれるかな?」
「うーん、正直難しいと思うよ。運が良ければなれるかもしれないけど」
「じゃあ太陽くんの隣になれるように祈っとくね」
「俺も月の隣になれるように祈っとくよ」
そんな俺たちを周りの男子が羨ましそうに見てくる。
すみません、イチャイチャしすぎたかもしれないです。
結果から言うと、席替えは大成功だった。
位置こそ、真ん中の列だが、1番後ろになる事ができ、右隣が夏木さん、その前に冬草さん、そして左隣は月なのだ。
みんなで固まる事ができた。凄い偶然だと思う。
「えへへ、また太陽くんの隣だ」
「涼、この2人のイチャイチャに頑張って耐えようね」
「私は2人のイチャイチャしてるところを見るの好きですよ?」
俺と月は声を揃えて、イチャイチャしてないと否定するが、夏木さんははいはいと流し、冬草さんは楽しそうに笑っていた。
______
放課後、月と一緒に帰っている時に、気になっていたことを聞いてみることにした。
「そういえば、夏木さんとあの九十九さんって人はどうなったか聞いてる?」
「冬休みが終わる前に1回だけ遊びに行ったって聞いたよ」
「そうなんだ」
「なにかあるの?」
俺は架流さんの言っていたことが気になるが、みんなには黙っててと言われていたことを思い出し、気になっただけだよと答える。
架流さんも、気になって自己満足で調べるだけと言っていたので、問題ないのかもしれない。
「それよりもさ、なにか温かいものでも買って帰らない?」
話題を変えるために月に聞くと、それならおでんが食べたいとノリノリで歩き出す。
俺たちはおでんを買うためにコンビニを目指す。
コンビニに付くと、おでんセール中ののぼりが立っていて、俺たちはテンションが上がる。
レジ横のおでんコーナーを眺めながら、これにしようあれにしようと話していると、後ろから声をかけられる。
「あれ?四宮くんと春風さん?」
俺たちが振り返ると、九十九さんが商品を持って立っていた。
「九十九さんでしたよね?」
「そうそう、九十九朝日だよ。覚えててくれたんだ」
九十九さんは、俺が名前を覚えていたのが嬉しいのか、笑顔で近づいてくる。
架流さんの話を思い出して少し警戒するが、やはりいい人に見える。
「九十九さんもこの辺に住んでるんですか?」
「ううん、住んでるのはこの辺じゃないけど、友だちが住んでるからよく来るんだよ」
「そうなんですね」
「あっレジ空いたから俺はいくね?今度光ちゃんも一緒に4人で遊ぼうね」
そういうと九十九さんはレジで会計を済ませて、バイバイと手を振ってコンビニから出ていく。
動きや声のトーンなど全てが爽やかで、同じ男でもカッコイイと思うので、夏木さんが好きになるのもわかるような気がする。
俺たちはおでんを購入してから、近くの公園に入り、ベンチに座る。
おでんの容器を袋から取り出し蓋を開けると、温かい湯気が美味しそうな匂いを鼻に運んでくる。
いただきますと言ってから、月は嬉しそうな顔で大根を口に運ぶ。
大根を食べ終えた月は、ふと思い出したかのように話し出した。
「そういえば、九十九さんってかっこいい人だよね」
「えっ?」
「あっ違うよ。私が好きなのは太陽くんだけだよ?ただ顔もそうだけど、全体的にかっこいいオーラが出てる見たいな。だから、光が好きになるのもなんとなくわかるなーと思ったの」
俺は少し嫉妬してしまうが、月も九十九さんに対して、俺と同じ様に思っているらしい。
俺たちは九十九さんと夏木さんの事を話しながらおでんを食べ、少ししてから公園を出る。
すっかり辺りは暗くなっており、冷たい風が吹くと、なんだか寂しい気持ちになってしまう。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、月は俺の手を取り、笑顔を向けてくれる。
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