第100話 初詣 2

story teller ~四宮太陽~


 普段はジョギングで使われているであろう、綺麗に舗装された道の端に、様々な屋台が並んでいる。

 地元の小さな神社では、初詣の時に屋台は出ないので、俺と星羅、堅治と花江さんの4人は、祭りとほぼ変わらない賑わいに興奮する。


「お兄ちゃん!あれ食べたい!」


「自分で買いなよ」


「だって、今月のおこずかいまだ貰ってないんだもん」


「星羅ちゃん、俺が買うから」


 俺が星羅のおねだりを拒否すると、優希くんが買うと言い出した。

 甘やかさなくていいよと伝えると、星羅に蹴られてしまう。


「太陽くんと星羅ちゃんは仲良しだね」


「そうかな?」


「仲良しじゃなかったら一緒に初詣来ないと思うよ?私は一人っ子だから羨ましいな」


「月さんはお兄ちゃんといつ結婚するんですか?月さんがお姉ちゃんになって欲しいです!」


 星羅は何気なく言ったのだろうが、月は赤面して、結婚はまだ先だよと答えている。

 俺と結婚してくれる様なので、嬉しい限りだ。


「それにしても、人が多いな」


 堅治は周りを見渡して、呟く。

 確かに地元の神社だと、ここまで人はいない。屋台ない分、歩き回らずに1列に並んで参拝の順番を待っているので、人が多かったとしてもごった返す事はないだろう。

 俺たちははぐれないようになるべく数名で固まって歩く。

 架流さんと花江さんは2人で少し離れて歩いている。合流した時からちゃっかり手を繋いでるけど、付き合ってるのかな。


 俺たちは屋台エリアを抜けて、参拝客の列に並ぶ。

 カップルや家族連れが多く、横に2〜3人の幅で広がっているので、俺たちもそれに倣って2人1組で並ぶ。


「どのくらいかかるかな?」


「うーん、全然進まないし、もしかしたらだいぶかかるかもね」


 俺は隣に立つ、月と会話をしながら後ろに並ぶみんなを見る。

 俺たちの後ろに夏木さんと善夜、その後ろが星羅と優希くん。そこまではいい。

 だが、そのさらに後ろ、堅治と冬草さん、架流さんと花江さんの4人の空気が悪いように見える。

 冬草さんは頑張って話をしているようだが、明らかに堅治と花江さんがお互いを意識して気まずそうだ。

 正直、架流さんならその空気もどうにか出来そうなものだが、我関せずって感じで違う方向を見ている。


 俺と月が場所を変わった方がいいかと考えていると、俺たちが並ぶ列の隣、参拝が終わった人たちが通る通路から、光ちゃんと呼ぶ声が聞こえる。


 その声の主は、通路を作るロープを跨ぎ、こちらまでやってくると、夏木さんに声をかける。


「やっぱり光ちゃんだ!偶然だね!あけましておめでとう!」


 声をかけられた夏木さんは、少し戸惑っている様子だが、あけましておめでとうございますと小声で返している。


「みんな光ちゃんの友だち?」


「そうです。今日みんなで来てて」


「そうなんだ!俺は九十九朝日って言います!よろしくね!」


 フレドリーな人で、俺たちに自己紹介をすると握手を求めてくる。

 俺と月、それから善夜は、自己紹介をしながら差し出された手を握る。

 九十九さんは丁寧に、俺たち一人一人と握手をしながら、夏木さんの隣に並ぶ善夜が自己紹介をすると、あれ?と言ってから疑問を口にする。


「もしかして、光ちゃんの彼氏さん?」


「あっいえ、ボクはただの友だちです」


「そっか!よかった!光ちゃんに彼氏いたらどうしようかと思ったよ。光ちゃん可愛いから、仲良くなりたいけど、彼氏いたらさすがにね」


 九十九さんはサラッとそんな事を言っている。

 その言葉に、善夜は少し嫌そうな顔をして、夏木さんは照れているように見える。

 もしかして、夏木さんってこの人の事好きなんじゃ?


 その後、軽く雑談をしてから、九十九さんはまたねと去っていった。

 善夜のライバルかもしれない。しかも夏木さんの反応的に、善夜はこのままだと負けるかも。


「月、もしかして夏木さんってあの人のこと・・・」


「うん、そうみたいだよ。車谷くんもいるから大きい声では言えないけど」


 俺が月に小声で確認すると、あの人の事を知っていたようで、小声で返してくれる。

 なるほど。九十九さんか、イケメンだし、性格も良さそうだし、見るからに強敵だ。


 ______


 無事に参拝が終わり、みんなで屋台を見て回ることにした。

 そのままここでご飯を買ってみんなで食べようとなったのだ。

 いくつかある屋台のうち、どれにしようかと考えていると、後ろから架流さんが肩を組んでくる。


「どうしたんですか?」


「さっき、夏木さんと話してた人さ、どこかで見たことある気がするんだよね」


「知り合いってことですか?」


「いや、知り合いではないんだけど。思い出せなくてさ、名前とか聞いた?」


「九十九朝日って言ってました」


 俺が答えると、九十九朝日。とブツブツといいながら、架流さんは考え込むように目を閉じる。

 しかし、記憶違いなのか、思い出せないのか、目を開けて、スッキリしない様子で俺に小声で話を続ける。


「なんか引っかかるから調べてみようと思うんだけど、みんなには黙っててもらえる?」


「いいですけど、いい人そうに見えましたよ?」


「まぁ僕の勘違いとかならいいんだよ。自己満足で調べたいってだけ」


 そう言うと俺から離れて、花江さんのところに行ってしまった。

 何だったのだろうか。架流さんの気のせいとかならいいんだけど。

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