第99話 初詣 1

story teller ~春風月~


 大晦日。3人で年越ししようという事になり、光と涼が私の家に泊まりにきていた。


 女子だけで集まると、話はどうしても恋愛の方になっていき、それぞれのクリスマスデートの事を話になる。


「えー!お泊まりしたんですか!」


「うん!太陽くんとずっと一緒に居れて楽しかった!」


「羨ましいです。私はお母さんにちゃんと帰ってこいって釘刺されてましたので、夜は堅治くんとバイバイしました」


「ってことはこの部屋で、月と四宮がイチャイチャしたって事か」


「イ、イチャイチャなんてしてないよ!一緒に眠っただけだから!」


 光に茶化されて慌てて否定する。さすがに恥ずかしくて、全てを赤裸々に話す事は出来ない。

 光はなんとなく気づいてそうだけど。


「光はクリスマス何したの?」


「へっ、ワ、ワタシ?」


 話題を変えるために光に話を振ると、少し焦った様子を見せる。

 これはなにかあったのだと思い、更に追求してみる。


「なにかあったのー?」


「いや、なにもないけど・・・」


 光はいつもの勢いがなく、少しずつ声が小さくなる。


「なにかあったんですね?車谷くんとですか?」


 涼もなにかを察したようで、車谷くんの名前を出して誘導する。しかし、車谷じゃないよと光は否定した。

 車谷くんじゃない?

 言い方的に他の誰かという事だろうか。


「えっと、誰となにがあったの?」


 私が聞くと、光は少し恥ずかしそうにしながらクリスマスにあった事を話し始める。


「クリスマスに1人でショッピングモールに出かけたんだけど、その時に、山田に会ってさ、しつこく連絡先を聞かれたんだよ。腕とか掴まれて。それでその時に、男の人が助けてくれて・・・」


 山田と言うのは光の中学の時の元カレの名前だ。

 みんなでハンバーガーショップに行った時に、車谷くんを殴った男の人。

 私は、不安になり、大丈夫だった?と聞くと、光は頷く。


「その助けてくれた人が、家まで送ってくれて、最後に連絡先を聞かれてさ、今度遊びに行くことになったんだ」


 光の元カレの事も気になるが、本人はそれほど気にしてないようで、その助けてくれた男性の話にシフトしていく。


「その人が、発言とか行動とかがすごくスマートで、かっこよくて、その・・・」


「気になってるんですね?」


 涼がニヤニヤして聞くと、光は恥ずかしそうに赤面しながらこくんと頷く。

 元カレとなにもなかったのなら安心だが、偶然にしては短期間で鉢合わせしすぎな気がする。


 そんな私をよそに、光と涼はその男性の話で盛り上がっていた。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 新年が始まり、俺と星羅は善夜と合流してから、月の家に向かう。

 月の家に着くと、既に準備が終わっていた女の子、月、夏木さん、冬草さんの3人は門の前で待っていた。


「3人ともおはよう」


「みんなおはよう」


「おはようございまーす!」


 俺たちがが声をかけると、3人もおはようと返してくれる。

 今日はみんなで初詣に行こうとなっており、堅治と優希くんは途中で合流して一緒に来るらしい。

 架流さんと花江さんは現地で合流の予定だが、堅治と花江さんの事を考えると少し不安になる。

 堅治と花江さんはあの祭りの日以降会ってないらしく、気まずくならないだろうか。


「じゃあ行こっか!秋川くんと優希くんは連絡来てた?」


「うん、さっき堅治から、優希くんと合流したって連絡入ってたよ」


 月の問いかけに答え、俺たちは駅に向かって歩き出す。

 1月になったばかりで、風が吹くと体がぶるっと震える。そんな俺を見て、月は手を繋ぎ、温めてくれる。


 俺たちは電車に乗り、目的地の最寄り駅で降りる。

 改札を出ると、堅治と優希くんは既に待っていて、合流して7人に増えた俺たちは、他の人の邪魔にならないよう、なるべく縦1列に並び、歩く。


「お兄ちゃん、今日行く場所って大きい公園なんでしょ?架流さんたちとちゃんと合流出来るかな?」


 星羅は俺の前を歩きながら、こちらを見ずに聞いてくる。

 今向かっている公園はとても広く、公園内に神社があるらしい。

 俺と星羅は今まで、地元の小さな神社にしか行ったことがなく、初めて訪れる場所になる。


「うーん、大丈夫だと思うよ?」


「連絡も取れるし大丈夫でしょ。それより秋川。涼もいるんだから寄宮さんと気まずくならないでよ?」


 夏木さんは俺と星羅の話に入りつつ、堅治にそれとなく注意する。

 冬草さんは前の方で、月と話をしていて、俺たちの会話は聞こえていないようだ。


「一応、涼ともその話はして、なにかあれば涼が間に入ってくれるらしいから大丈夫だと思う」


 堅治は既に気まずそうにしているが、堅治の彼女で、花江さんの友だちとして、冬草さんが間に入るなら問題ないだろう。

 というか1番気まずいのは冬草さんだよな。


 話をしながら歩き、俺たちは目的の公園に着いた。

 架流さんと連絡を取り、公園の入口で合流する。


「みなさんお久しぶりです」


 花江さんは丁寧に頭を下げて挨拶をするので、俺たちもそれに習って、みんなで丁寧に頭を下げて挨拶を返す。

 架流さんは固くない?と笑っている。


「堅治さんもお久しぶりです」


「おう、久しぶり・・・」


 2人は対面すると気まずそうにしており、目も合わせようとしない。

 今日1日大丈夫だろうか。

 その場にいる全員が俺と同じことを思っただろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る