第98話 初めての夜の後

story teller ~四宮太陽~


 目を覚ますと、見知らぬ天井が目に映り、一瞬ここはどこだっけ?と考える。

 そういえば、月の家に泊まったのだったと思い出し、隣を見ると、気持ちよさそうに月が眠っていた。


 スマホを手に取り、時間を確認するとまだ午前10時だ。桜さんたちが帰ってくるまで時間があるので、もう少しだけ月の寝顔を見ていようと思う。


 月を起こさないように体勢を少し変え、寝顔を見つめる。

 入学した時から分かってはいたが、至近距離で見ると、月はすごく可愛いと改めて実感する。

 整った顔立ちなのはもちろんだが、毛穴がひとつもなく、シミやシワも見当たらない。

 髪も肌も触ったからわかるが、ものすごく綺麗だ。

 この子が俺の彼女なのが、今更ながら信じられない気持ちになる。


 寝ている月に触れたい欲が湧き上がり、頬を軽く撫でてみる。

 スベスベしていて、気持ちがいい。

 すると月はくすぐったいのか、寝返りを打つ。

 起こしてしまったと思って焦ったが、寝息が聞こてえてきた。


 これ以上月を見てると、どんどん触れたくなってしまいそうなので、スマホに逃げることにした。


 ______


「太陽くん?おはよ」


「おはよう月」


 俺が起きてから30分程経ち、月も起きる。

 月は俺の姿を確認すると、すぐにくっついてきた。

 待って、今はくっつかないで欲しい。服を着てないから、直接柔らかいものが触れてる。


「あの月さん、少し離れ欲しいのですが」


「どうして?」


「服、着てからにしません?」


「あ、そのごめんなさい」


 俺の言葉でようやく気がついたようで、顔を赤くして布団の中に潜ってしまった。

 反応は可愛いけど、俺も布団から


 時間が経ち、落ち着いてから、俺が服を着て部屋から出る。少しすると部屋の中から呼ばれたので入るが、月はまだ布団の中にいた。


「あれ?まだ着替えてない?それなら外で待つよ」


「ううん、着替えたよ。でももう少し布団の中でくっつきたいなって思って・・・・・・ダメ?」


 布団に口元を隠して、可愛らしくそう言ってくる。これは断れない。

 俺が布団の中に入ると、月はすぐにくっついてきて、幸せそうな顔をする。

 俺たちは話すでもなく、ただただくっついて、お互いの体温を感じていた。

 安心感からか、少しずつ眠くなってくる。そろそろ桜さんたちが帰ってくるから寝ちゃダメだ。

 そう思いながら、気づけば目を閉じていた。


 ______


「はーい、2人とも起きてくださーい」


 そんな声で、本日2度目の起床を迎える。

 なにが起こっているのかわからずに、1度強く目を閉じてから、ゆっくりと開く。


 するとベッドの横に立ち、俺たちを見下ろす桜さんと目が合う。

 いつの間にか二度寝してしまったと気づき、その瞬間、今の今まであった眠気が飛ぶ。


「お、おはようございます」


「はい、四宮くんおはようございます」


 体を起こしながら挨拶をすると、笑顔で返してくれる。その笑顔が逆に怖くて、桜さんを直視する事が出来ない。


「あっ、えっと、ほんとすみません、寝過ごしてしまって」


 しっかり謝ろうと思ったが、恐怖のあまり、小さい声しか出せず、上手く言葉も出てこない。

 そんな俺を見て、桜さんは笑いながら謝ってきた。


「うふふ。ごめんなさい。怒ってると思ったかしら?」


「は、はい。怒られると思いました」


「怒ると言うか注意しようかと思っていたけれど、2人共ちゃんと服着てるから、許します」


 1度起き、服を着ていて良かったと安堵する。

 前もって帰る時間を教えてくれたのはやはり、その時間までにしっかり痕跡を消せという意図があったのだろう。


「月ももう少ししたら起こしてあげて?これから晩御飯の用意するから、呼んだら降りてらっしゃい。四宮くんの分も用意しますからね」


「そんな、申し訳ないのでそのまま帰りますよ」


 そう言いながら部屋の壁掛け時計を見ると、17時半過ぎだ。いくらなんでも寝すぎた。


「いいのよ、1人分増えても手間は増えないもの」


「ありがとうございます」


 お礼を伝えると、桜さんは部屋から出ていく。

 その姿を確認し、俺は怒られなかった事への安心感から脱力する。

 それから、とりあえず月を起こそうと体を揺らし、声をかける。


「月、起きて?」


「んー、太陽くん?」


「もう17時半過ぎてるよ」


「うそ!?」


 月は俺の言葉を聞いて、ガバッと体を起こし、焦る様にお母さんたちは?と聞いてくる。


「今さっき桜さんに起こされたよ。怒ってはなかったから大丈夫」


 そう伝えると、よかったと安堵の表情を浮かべる。


「じゃあ、その、お母さんにはバレてないよね?」


「いやー、バレてると思う」


 月の言葉の意味を理解し、俺はヘッドボードの上にある箱を見る。

 月も俺に倣い、それを見てから焦り始める。


「ちゃんと片付けておけばよかった!恥ずかしい」


 もう仕方ないので、次からは気をつけようと伝えると、月は顔を赤くして、上目遣いに俺を見る。


「・・・・・・次からってことは、またしてくれるの?」


 嬉しさと恥ずかしさが混じった様子でそう聞いてくる。

 自分の、またしたいという願望が無意識に出てしまった事への恥ずかしさと、月の表情の可愛さで、俺はドキッとしてしまう。


「それは、うん。またしたいとは思うけど、無理にとは言わない・・・」


 お互いに黙ってしまい、気まずい空気が流れる。

 その空気に耐えきれず、嫌なら断っていいからと言うと、月は俺の手を握ってくる。


「いやじゃないよ。嬉しいし、私もまたしたい」


 そういうと顔を隠すように、俺の胸に頭を押し付けてくる。

 髪の間から見える耳が赤いので、言ってから恥ずかしくなったのだろう。

 俺たちはそのまま抱き合って、少ししてから下に降りる準備を始めた。

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