第96話 お泊まりしたい

story teller ~夏木光~


 玄関の前まで送ってくれた九十九さんにお礼を伝え、頭を下げる。


「いいよいいよ、俺がもっと光ちゃんと一緒にいたいから送っただけだし」


 サラッとこういう事を言ってくるのはずるい。ドキドキしてしまう。

 顔が赤くなるのを感じ、下げた頭を上げられない。

 そんなワタシの前にしゃがみこみ、九十九さんは顔を覗き込んでくる。


「あっ、もしかして照れてる?可愛いな〜」


 その言葉に更に赤面してしまう。

 ワタシは勢いよく頭を上げ、もう帰ってくださいと九十九さんを階段に向かって推していく。


「ごめんごめん、ちゃんと帰るから押さないで」


 ワタシが押すのをやめると、九十九さんはポケットからスマホを取りだし、自分の連絡先を画面に表示する。


「これ俺の連絡先。よかったら今度遊ぼ?」


「えっと・・・」


「あっごめん。迷惑だったらいいんだ」


 そう言ってスマホを仕舞おうとする手を、ワタシは無意識に掴んでいた。

 自分の行動に驚き、慌てて手を離す。


「すみません」


「あはは。嫌われちゃったと思ったよ。はい、交換しよ」


 ワタシはQRコードを読み込んで、九十九さんの連絡先を追加する。

 九十九さんはありがとうと言って笑顔を向けてくれる。


「ほんと、色々ありがとうございました」


「いいよ。じゃあ連絡するから。またね」


 改めてお礼を伝えると、九十九さんはそのまま階段を降りて帰っていく。

 もう少し一緒に居たかったが、そんなわがままは言えなかった。

 またね。

 最後に九十九さんが言った言葉を思い出し、久々に感じた感情を胸に家に入る。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 イルミネーションを見終わった俺たちは、月の自宅に帰ってきて、桜さんが作り置きしてくれていた夕飯を食べていた。


「太陽くんはこの後どうする?」


「どうするってなにが?」


「えっと、帰るのか、その、それともお泊まり・・・するのかどっちかなって」


 ここに来るまでなるべく考えないようにしていたのに、月の言葉で一気に意識してしまう。


「えっと、泊まるにしても着替えとか持ってないしなーと思って」


「あっ、そっか。そうだよね」


 俺の返答を聞いて、あからさまにしゅんとなっている。

 なんだか悪い事をしてしまった気分になるが、泊まりたくない訳ではないので訂正する。


「ごめん、その・・・、もし泊まるなら、一旦帰ってからお風呂入って、もう1回来ようかな?」


 それを聞いた月は、ぱぁっと顔が明るくなり、嬉しそうな表情を浮かべる。


「ほんとに?お泊まりできる?」


「一応母さんには聞かないといけないけど、大丈夫だと思う」


「私も一応お母さんに連絡して聞いてみるね」


 そう伝えると、見るからにワクワクしているのが分かる。

 月はその場で桜さんにメッセージを送る。

 すると桜さんからはすぐに返事が来たようで、明日の昼には帰るからねとの事。

 帰る時間を教えてくれるってことは、たぶんその時間までに起きて、色々と片付けろって事なのだろう。


 夕飯を食べ終えた俺たちは、一緒に洗い物を終わらせてから、1度解散する。


 自宅に戻り、リビングにいる母さんに泊まってもいいか確認すると、迷惑はかけないようにとの事。

 あと、ちゃんと付けなさいよと言われた。

 何をとは聞かなかったが。


 俺はお風呂が終わると、月に今から向かうとメッセージを送り、月の自宅に向かう。


 月の家が近づくにつれ、少しずつ緊張してくる。

 お泊まりのワクワクで相殺しきれない。


 門の前に着いて、さっきまで居た場所のはずなのに、ありえない程緊張している心を落ち着かせるため、深呼吸をしてからインターホンを押そうとする。

 するとそのタイミングでガチャっと玄関が開き、月が出てきた。


「あれ?着いたってよくわかったね」


「うん、窓から見てたから。それでね太陽くん、これからコンビニ行かない?飲み物とかお菓子とか買って一緒に食べよ?」


 なるほど、それで暖かい格好で出てきたのかと理解し、いいよと答える。


 普段この時間に一緒に居ることが無いため、いつも帰りに通る道でも、なんだか新鮮に感じる。

 2人で手を繋ぎ、近くのコンビニまで歩く。


 コンビニに入り、中が暖かい事に感動する。外が寒すぎるのだ。

 2人で店内を周り、あれ食べたいこれ食べたいと話しながら、カゴの中に商品を入れていく。

 いくつか食べ物と飲み物を入れ終わり、コスメやワックスなどが置かれている棚の前で、立ち止まる。


 やっぱり買った方がいいよな。月が持ってるとは思えないし。というか持ってて欲しくないかも。


 棚の下の方に陳列されているを見ながら考える。

 今なら他の商品と一緒に買えるから、会計する時の恥ずかしさも軽減するかもしれない。


「あの、月さん。これも買いますか?」


 俺は恐る恐る商品を手に取り、月に確認する。

 月はそれを見て一瞬固まるも、顔を赤くしてこくんと頷く。

 俺はサッとその商品をカゴに入れて、他の商品を上から被せる。


 2人でレジに並び、会計を進めている時、店員さんに、これから使うのかと思われてないかなとか考えてしまい、恥ずかしかった。

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